「森と芸術」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「森と芸術」
4/16-7/3



人間にとって森とは何かを芸術作品から問いただします。東京都庭園美術館で開催中の「森と芸術」展へ行ってきました。

都心にありながらも鬱蒼とした森に囲まれた庭園美術館ですが、今回ほど建物はおろか、場所において相応しい展覧会もなかったかもしれません。作品のモチーフはずばり森です。絵画、立体、写真など、森に由来する作品がずらりと登場していました。

構成は以下の通りです。

第1章 楽園としての森
第2章 神話と伝説の森
第3章 風景画のなかの森
第4章 アール・ヌーヴォーと象徴の森
第5章 庭園と聖なる森
第6章 メルヘンと絵本の森
第7章 シュルレアリスムの森
第8章 日本列島の森


主に西洋の作品、とりわけ版画が多いのも大きな特徴かもしれません。総出品数235点の作品は相応に見応えがありました。


アンリ・ルソー「エデンの園のエヴァ」1906-1910年頃 ポーラ美術館

原点は聖書に遡ります。冒頭に登場する森は、まさにアダムとエヴァのいる楽園の森に他なりません。ここでは版画コレクションで定評のある町田の版画美術館からのマーティンの「エヴァを誘惑するサタン」(1482年/町田市立国際版画美術館)などが展示されています。

また興味深いのは時代における楽園観の変遷です。ともに版画作品でありながら、中世における楽園を表した「エヴァの創造」(1482年/町田市立国際版画美術館)と、例えばタヒチにおいてゴーギャンが見た「かぐわしき大地」(1893年/福井県立美術館)では、全く異なった時代と場所のエヴァを比較することが出来ました。

神話や伝説のセクションへ進むと、ギリシャ・ローマの神話からシェイクスピアにダンテと、お馴染み主題が頻出します。

中でも印象的なのは、「シェイクスピア名場面版画集」に描かれた一連の戯曲作品です。有名な「ウィンザーの陽気な女房たち」(1791年/町田市立国際版画美術館)では、最終幕の深い森において悪魔に扮してファルスタッフをもてあそぶ人々の姿が表されています。ヴェルディの有名な「ファルスタッフ」の一シーンでも浮かび上がかのような臨場感でした。


カミーユ・コロー「サン-ニコラ-レ-ザラスの川辺」1872年 山寺後藤美術館蔵

森は風景画における王道と言えるかもしれません。17世紀以来、ヨーロッパで描かれてきた風景画には、当然ながら森が多数登場しています。ここではクールベの「オルナンの渓谷」(1865年/山寺後藤美術館)の他、ロランの「小川のある風景」(1630年/東京富士美術館)など、国内のいくつかの美術館より出品された大家らの佳作が展示されていました。

植物や花などをモチーフするアール・ヌーヴォーにも当然ながら森が登場します。バーン・ジョーンズの4点のリトグラフ作「フラワーブック」(1882-84年/郡山市立美術館)の他、黒壁美術館より出品されたガレのいくつかの花器は、それこそヌーヴォーから移行したアール・デコ様式の館内で美しく映えていました。


川田喜久治「地獄の入り口 ボマルツォ、ヴィテルボ、イタリア」1969年 作家蔵

いわゆる森の庭園で面白いのは写真家、川田喜久治の写した「聖なる森」のシリーズです。ここで川田は、中部イタリアにあり、古代ローマ神話の森を再現したボマルツォ庭園を何枚かの写真に収めています。そこではいわゆる怪物たちを象った石像がいくつも登場していますが、写真からそうした魑魅魍魎の世界を存分に楽しむことが出来ました。まさに森は魔物たちの世界でもあったわけです。

「不思議の国のアリス/アーサー・ラッカム(イラスト)/新書館」

第6章「メルヘンの森」で是非とも一推しにしたいのはラッカムの挿絵です。キャロルの「不思議の国のアリス」ではよくテニエルの挿絵が引用されますが、ここではそれと並んでアーサー・ラッカムの作品も展示されています。テニエルがどこかカリカルチュア的なところがあるのに対し、ラッカムはもっと幻想的で、それこそラファエル前派を連想されるものがあります。

またラッカムの挿絵は他にも真夏の夜の夢やワルキューレなどが出ていました。ここは版画好きには嬉しいコーナーと言えるかもしれません。


マックス・エルンスト「灰色の森」1927年  国立国際美術館蔵

シュールの章ではエルンストの大作「灰色の森」(1927年/国立国際美術館)が見逃せません。敢然と立ちはだかる森の向こうにのぼった月は、まるで見る者を畏怖させるように煌々と灯っていました。

最終章はそれまでの流れとは一転し、美術館に由来する白金の森の紹介と、今年メモリアルを迎えた岡本太郎の諸作品が展示されています。監修に仏文学者の巌谷國士氏を迎えたと知ってさもありなんという気もしましたが、ラストにあえて太郎を持ち込む点などを挙げても、全体を通してかなり個性的な展覧会という印象を受けました。

なお本展で重要なのは図録です。残念ながら今回の展覧会は巡回がありませんが、その内容に準拠するのは言うまでもなく、さらに理解を深めるのに相応しい図録が用意されています。

「森と芸術/巖谷國士/平凡社」

もちろん著は巌谷氏です。書店でも販売されています。是非一度、手にとってご覧ください。

7月3日までの開催です。おすすめします。

追記:次回、7/14より開催予定の「皇帝の愛したガラス」展にブロガーの招待企画があるそうです。

「皇帝の愛したガラス」展 ブロガーご招待について

申込締切は7/6です。詳細は上記リンク先をご覧ください。


「森と芸術」 東京都庭園美術館
会期:4月16日~7月3日
休館:第2・第4水曜日
時間:10:00~18:00
場所:港区白金台5-21-9
交通:都営地下鉄三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR山手線目黒駅東口より徒歩7分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )