「アンフォルメルとは何か?」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」
4/29-7/6



第二次大戦後フランスで起こった前衛的絵画運動「アンフォルメル」を検証します。ブリヂストン美術館で開催中の「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」へ行ってきました。

最近でこそ比較的展示される機会の多いアンフォルメル絵画ですが、今回ほど秩序だって紹介されたこともなかったかもしれません。定評のあるブリヂストン美術館のコレクションをメインに、国内各地の美術館などから出品された全70点ほどの絵画は相応に見応えがありました。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章 抽象絵画の萌芽と展開
第2章 「不定形」な絵画の登場:フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルス
第3章 戦後フランス絵画の抽象的傾向と「アンフォルメルの芸術」


冒頭、半ばアンフォルメルの前史的な存在としてカンディンスキーなどの抽象画を紹介した上にて、以降フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスの作品を追いながら、最後にはスタールやミショー、そしてブリヂストン美術館のご自慢のザオを展観する流れとなっていました。

抽象絵画の文脈で捉えるモネやセザンヌもまた新鮮に映るかもしれません。展示第1章で登場するのは、当然ながらアンフォルメルの言葉では括れないモロー、モネ、セザンヌらの名品群でした。


クロード・モネ「黄昏、ヴェネツィア」1908年

これらはいずれも館蔵品ということで馴染み深いものがありますが、それでも夕陽に焦がされたヴェネツィアを捉えたモネの超名品「黄昏、ヴェネツィア」(1908年頃)も、そのせめぎあう朱色と青のグラデーションから、対象そのものの形態を超えた抽象世界への萌芽を感じることが出来ました。

展覧会の主人公はフォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスです。そもそも3名の画家が全部で30点の規模で紹介されたこと自体が珍しいかもしれませんが、批評家のミシェル・タピエをして「不定形なるもの」を意味した「アンフォルメル」の核心とも言うべき作品を存分に楽しめました。

フォートリエからして強烈です。「人質」(1944年)における、まるで思索的とも悲し気とも言えるような顔の表情は、やはりフォートリエの大戦の経験が下地になっているからなのでしょうか。塗り固められた石膏の質感は重々しく、どこか屈折し、また抑圧された気配を感じてなりませんでした。


ジャン・デュビュッフェ「熱血漢」1955年 徳島県立近代美術館

デュビュッフェでは「熱血漢」(1955年)が忘れられません。深い闇を背景に浮き上がる男の顔はもはや狂気的であるのではないでしょうか。赤い線で象られた瞳から発せられた強い眼差しからはなかなか逃れられませんでした。

筆触の点においてとりわけ繊細なヴォルスにも印象的な作品が展示されています。それが細かな線描が青みがかった空間を交錯する「作品、または絵画」(1946年頃)です。中央には赤い斑紋も爛れ、その光景はまるで戦争で廃墟と化した都市のようでした。

2010年に新収蔵品としてコレクションに加わったアルトゥングの「T 1963 K7」(1963年)も見逃せません。引っ掻き傷のような線の乱舞はあたかも神経の集まりのようでもあり、一方で虚空を背景にして漂うその姿は人魂のようでもありました。


ニコラ・ド・スタール「コンポジション」1948年 愛知県美術館

私自身追っかけているド・スタールが2点ほど出ていたのも嬉しいところです。パレットナイフで絵具を塗り込めた「コンポジション」(1948年)の空間は完全に閉ざされています。そのブロックのように堅牢にはめ込まれたた一つ一つのストロークを心の中で剥がしていく作業をした時、何か開けてくるものがあるのではないかと思いました。

ブリヂストン美術館への来訪したこともあるというスラージュは、その制作についてのインタビュー映像も紹介されています。彼が日本の漆の技法に興味を持ち、それを作品に取り込んでいるとは知りませんでした。


ザオ・ウーキー「07.06.85」1985年

ラストは怒濤のようにザオ・ウーキーが登場します。その数は約10点ほどでしたが、これほど展示されたのはひょっとすると2004年に同館で開催されたザオ・ウーキー展以来のことかもしれません。当時の感動は未だ忘れられませんが、青い面が飛沫を上げて激しく舞う様子は、絵画平面を通り越しての無限な空間を作り上げていました。

なお震災の影響で海外のコレクションを中心に出品が見合わされていました(見合わせ作品一覧)が、そのうち一つ、スーラージュの「絵画」が会期途中でポンピドゥーから出品されました。

「ポンピドゥー・センター所蔵のスーラージュ作品があらたに出品されています。」@ブリヂストン美術館ブログ

気のきいた感想を書けずに心苦しい限りですが、久々に絵画を見る喜びを味わいました。これは自信をもっておすすめできます。

「アンフォルム―無形なものの事典/芸術論叢書/月曜社」

7月6日までの開催です。

「アンフォルメルとは何か? - 20世紀フランス絵画の挑戦」 ブリヂストン美術館
会期:4月29日(金)~7月6日(水)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。
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