都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「パウル・クレー展」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「パウル・クレー - おわらないアトリエ」
5/31-7/31
東京国立近代美術館で開催中の「パウル・クレー - おわらないアトリエ」のプレスプレビューに参加してきました。
日本でも人気の高い画家ということで、これまでにも各地でクレー展が行われてきましたが、今回はかなりテーマ性の高い展覧会となっています。
そのテーマとはずばり作品の素材と技法です。単にモチーフや年代別に並べるのではなく、作品が「物理的にどうつくられたのか。」を探る内容となっていました。
展覧会の構成は以下の通りです。
プロローグ:自画像
1:現在/進行形 - アトリエの中の作品たち
2:プロセス1 写して/塗って/写して - 油彩転写の作品
3:プロセス2 切って/回して/貼って - 切断・再構成の作品
4:プロセス3 切って/分けて/貼って - 切断・分離の作品
5:プロセス4 おもて/うら/おもて - 両面の作品
6:過去/進行形 - 特別クラスの作品たち
出品数は約170点にも及びます。基本的に版画や素描が目立ちますが、油彩を含め、大半はスイス・ベルンの「パウル・クレー・センター」所蔵の作品でした。またそのうち90点ほどが日本初公開だそうです。
冒頭、クレーが若い頃に描いた自画像群を抜けると、長細い通路に部屋状のボックスの続く「アトリエの中の作品たち」のセクションに到達します。
クレーは生涯、5つの街、つまりはミュンヘン、ヴァイマール、デッサウ、デュッセルドルフ、ベルンにアトリエを構えましたが、それぞれの時期の作品を、会場に設営された独立のボックスに分けて紹介しています。
そして重要なのは各ボックスに掲げられた一枚の写真です。それはクレーが自分でアトリエを撮影したものですが、展示作品がその写真に写っています。
クレーはアトリエの中で作品をさも演出するように配置し、それを撮って残したそうですが、そこから彼の試行錯誤のプロセスを知るという仕掛けというわけでした。
「花ひらいて」(左)、「花ひらく木をめぐる抽象」(右)
また試行錯誤といえばもう一つ、興味深い実験をクレーは行っています。それがこの2点、「花ひらいて」と「花ひらく木をめぐる抽象」に他なりません。
後者は東近美常設でもよく見かける、これぞクレーというようなリズミカルな色彩が印象的な作品ですが、実は両者には密接な関係があります。会場ではそれをアニメーションでも紹介していましたが、まさかこの見慣れた一枚がそのような行為によって出来ているとは思いませんでした。是非会場でその秘密を明かしてみて下さい。
そして今、秘密と記したように、2章の「プロセス」以降は、クレーの具体的な製作技法の謎を解き明かしていくような展示が続きます。
会場写真でもお分かりいただけるかもしれませんが、メインフロアの展示はいつもの東近美とは一味も二味も違うと言えるのでないでしょうか。
ここでは「油彩転写」や「切断」と言った技法毎に作品を並べ、そのカテゴリーに沿って壁面を構築した上で、それをランダムな形で配置しています。会場デザインは建築家の西沢徹夫氏が担当されたそうですが、通常のように一直線に順路をつくることなく、自由な動線を取り入れることで、クレーの思索の森を探検、また散策するようなイメージを作り上げたとのことでした。
「蛾の踊り」(左)、「蛾の踊りのための素描」(右)
とりわけ技法において興味深いのは「油彩転写」かもしれません。それは鉛筆などの素描を黒い絵具を塗った紙に置き、描線を針でなぞって転写した後、水彩絵具で着彩するという、クレーが独自に生み出したものです。
基本は2点対、ようは素描と転写ですが、中にはそこからリトグラフや油彩までが登場しています。同様のモチーフでありながらも、素材、また技法によって大きく変化する作品には驚かされるものがありました。
「なおしている」(左)、「マネキン」(右)
また最も分かりやすいのは「切断」かもしれません。これは文字通り一枚の絵を切り取り、それを二つの作品にしたり、また左右を入れ替えて再び重ねて一つの作品にしていく技法ですが、時に詩的な印象を与えるクレー作品がまさかここまでテクニカルとは思いませんでした。
個々の技術を分析することによって、クレーの絵画は次々と単に見ると言うよりも複雑に読み解かれていきます。実際にこの展覧会はチューリヒ大学のヴォルフガング・ケルステン氏の研究に沿っているそうですが、そう意味では一つの論文を俯瞰するような、極めて知的な内容であると言えるのかもしれません。
ラストにはクレーが生涯手放さなかった、通称「特別クラス」と呼ばれる作品が展示されています。クレーは自作をランク付けし、その最高のものをこの特別クラスとして手元に置いていたそうですが、それらは彼の基準作、また模範的な意味合いが強いとのことでした。
先に触れたように実に読ませる展覧会ですが、図録もまた非常にテキストが充実しています。何と掲載論文は10点以上です。これは読み応えがありそうです。
なお展示内容は巡回前の京近美とほぼ同様ですが、会場デザインは若干変化しています。なお震災等の影響により、当初予定の作品のうち7~8点が非出品となっています。ご注意下さい。
また注意と言えば会場の温度です。出品者の意向により、会場の温度が20度に設定されています。実際、かなり肌寒く感じるので、一枚羽織るものがあった方がよさそうです。
私自身、クレーというと可愛らしいモチーフや色の妙味、また質感の高い画肌など、その魅力を漠然とした印象で捉えていた面がありましたが、今回は今までにない形で作品へ向き合うことが出来ました。
プレビュー時のレクチャーの際に美術館の方が仰っていましたが、地震により一時は東京巡回が危ぶまれたこともあったそうです。関係者の方の並々ならぬ努力があってからこそ開催に至ったことと思われますが、クレーファンの私にとっても竹橋で展示を見られて心から嬉しく感じました。
「もっと知りたいパウル・クレー - 生涯と作品/東京美術」
なお途中、一部作品に展示替えがあります。(出品リスト)再度伺うつもりです。
前期:5月31日(火)~6月26日(日)
後期:6月28日(火)~7月31日(日)
7月31日まで開催されています。
追記:7月より夜間開館が再開します。毎週金・土は夜20時までの開館です。
注)会場の写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
「パウル・クレー - おわらないアトリエ」 東京国立近代美術館
会期:5月31日(火)~7月31日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。
時間:10:00~17:00。7月より毎週金・土は20:00まで開館。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩3分。
「パウル・クレー - おわらないアトリエ」
5/31-7/31
東京国立近代美術館で開催中の「パウル・クレー - おわらないアトリエ」のプレスプレビューに参加してきました。
日本でも人気の高い画家ということで、これまでにも各地でクレー展が行われてきましたが、今回はかなりテーマ性の高い展覧会となっています。
そのテーマとはずばり作品の素材と技法です。単にモチーフや年代別に並べるのではなく、作品が「物理的にどうつくられたのか。」を探る内容となっていました。
展覧会の構成は以下の通りです。
プロローグ:自画像
1:現在/進行形 - アトリエの中の作品たち
2:プロセス1 写して/塗って/写して - 油彩転写の作品
3:プロセス2 切って/回して/貼って - 切断・再構成の作品
4:プロセス3 切って/分けて/貼って - 切断・分離の作品
5:プロセス4 おもて/うら/おもて - 両面の作品
6:過去/進行形 - 特別クラスの作品たち
出品数は約170点にも及びます。基本的に版画や素描が目立ちますが、油彩を含め、大半はスイス・ベルンの「パウル・クレー・センター」所蔵の作品でした。またそのうち90点ほどが日本初公開だそうです。
冒頭、クレーが若い頃に描いた自画像群を抜けると、長細い通路に部屋状のボックスの続く「アトリエの中の作品たち」のセクションに到達します。
クレーは生涯、5つの街、つまりはミュンヘン、ヴァイマール、デッサウ、デュッセルドルフ、ベルンにアトリエを構えましたが、それぞれの時期の作品を、会場に設営された独立のボックスに分けて紹介しています。
そして重要なのは各ボックスに掲げられた一枚の写真です。それはクレーが自分でアトリエを撮影したものですが、展示作品がその写真に写っています。
クレーはアトリエの中で作品をさも演出するように配置し、それを撮って残したそうですが、そこから彼の試行錯誤のプロセスを知るという仕掛けというわけでした。
「花ひらいて」(左)、「花ひらく木をめぐる抽象」(右)
また試行錯誤といえばもう一つ、興味深い実験をクレーは行っています。それがこの2点、「花ひらいて」と「花ひらく木をめぐる抽象」に他なりません。
後者は東近美常設でもよく見かける、これぞクレーというようなリズミカルな色彩が印象的な作品ですが、実は両者には密接な関係があります。会場ではそれをアニメーションでも紹介していましたが、まさかこの見慣れた一枚がそのような行為によって出来ているとは思いませんでした。是非会場でその秘密を明かしてみて下さい。
そして今、秘密と記したように、2章の「プロセス」以降は、クレーの具体的な製作技法の謎を解き明かしていくような展示が続きます。
会場写真でもお分かりいただけるかもしれませんが、メインフロアの展示はいつもの東近美とは一味も二味も違うと言えるのでないでしょうか。
ここでは「油彩転写」や「切断」と言った技法毎に作品を並べ、そのカテゴリーに沿って壁面を構築した上で、それをランダムな形で配置しています。会場デザインは建築家の西沢徹夫氏が担当されたそうですが、通常のように一直線に順路をつくることなく、自由な動線を取り入れることで、クレーの思索の森を探検、また散策するようなイメージを作り上げたとのことでした。
「蛾の踊り」(左)、「蛾の踊りのための素描」(右)
とりわけ技法において興味深いのは「油彩転写」かもしれません。それは鉛筆などの素描を黒い絵具を塗った紙に置き、描線を針でなぞって転写した後、水彩絵具で着彩するという、クレーが独自に生み出したものです。
基本は2点対、ようは素描と転写ですが、中にはそこからリトグラフや油彩までが登場しています。同様のモチーフでありながらも、素材、また技法によって大きく変化する作品には驚かされるものがありました。
「なおしている」(左)、「マネキン」(右)
また最も分かりやすいのは「切断」かもしれません。これは文字通り一枚の絵を切り取り、それを二つの作品にしたり、また左右を入れ替えて再び重ねて一つの作品にしていく技法ですが、時に詩的な印象を与えるクレー作品がまさかここまでテクニカルとは思いませんでした。
個々の技術を分析することによって、クレーの絵画は次々と単に見ると言うよりも複雑に読み解かれていきます。実際にこの展覧会はチューリヒ大学のヴォルフガング・ケルステン氏の研究に沿っているそうですが、そう意味では一つの論文を俯瞰するような、極めて知的な内容であると言えるのかもしれません。
ラストにはクレーが生涯手放さなかった、通称「特別クラス」と呼ばれる作品が展示されています。クレーは自作をランク付けし、その最高のものをこの特別クラスとして手元に置いていたそうですが、それらは彼の基準作、また模範的な意味合いが強いとのことでした。
先に触れたように実に読ませる展覧会ですが、図録もまた非常にテキストが充実しています。何と掲載論文は10点以上です。これは読み応えがありそうです。
なお展示内容は巡回前の京近美とほぼ同様ですが、会場デザインは若干変化しています。なお震災等の影響により、当初予定の作品のうち7~8点が非出品となっています。ご注意下さい。
また注意と言えば会場の温度です。出品者の意向により、会場の温度が20度に設定されています。実際、かなり肌寒く感じるので、一枚羽織るものがあった方がよさそうです。
私自身、クレーというと可愛らしいモチーフや色の妙味、また質感の高い画肌など、その魅力を漠然とした印象で捉えていた面がありましたが、今回は今までにない形で作品へ向き合うことが出来ました。
プレビュー時のレクチャーの際に美術館の方が仰っていましたが、地震により一時は東京巡回が危ぶまれたこともあったそうです。関係者の方の並々ならぬ努力があってからこそ開催に至ったことと思われますが、クレーファンの私にとっても竹橋で展示を見られて心から嬉しく感じました。
「もっと知りたいパウル・クレー - 生涯と作品/東京美術」
なお途中、一部作品に展示替えがあります。(出品リスト)再度伺うつもりです。
前期:5月31日(火)~6月26日(日)
後期:6月28日(火)~7月31日(日)
7月31日まで開催されています。
追記:7月より夜間開館が再開します。毎週金・土は夜20時までの開館です。
注)会場の写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
「パウル・クレー - おわらないアトリエ」 東京国立近代美術館
会期:5月31日(火)~7月31日(日)
休館:月曜日。但し7月18日は開館。
時間:10:00~17:00。7月より毎週金・土は20:00まで開館。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩3分。
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