「清麿」 根津美術館

根津美術館
「清麿 幕末の志士を魅了した名工」
2/26-4/6



根津美術館で開催中の「清麿 幕末の志士を魅了した名工」展のプレスプレビューに参加してきました。

江戸は幕末の名工、源清麿(1813-1855)。当時の復古主義にも呼応してか、いわゆる鑑賞用ではなく、時に実戦に耐えうる刀を作る。かの鎌倉時代の「正宗」になぞらえ「四谷正宗」とも讃えられ、多くの人々を虜にしてきました。

2013年には生誕200年を迎えました。それを記念しての回顧展です。初期より絶作までの50点の名刀を展観します。


「刀 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の大)」1848年 個人蔵

ではまず代表作から。「刀 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の大)」。もう一刀の脇指の「小」とあわせて大小を構成する名刀。作例の少ない嘉永元年の作品です。


「脇指 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の小)」1848年 個人蔵

清麿の刀、よく地鉄の美しさを指摘されますが、本作はまさに最たるもの。そして刀文です。白波が沸き立つような景色も広がる。切先が長い。端正でもある。力強さと繊細さを兼ね備えています。


「脇指 天然子完利 二十七歳造之/一貫斎正行十八歳造之 文政十三年四月日」1830年 個人蔵

さて信州は小諸藩の郷士の次男として生まれた清麿。兄の手ほどきを受け早くも10代で作刀を始めます。「脇指 天然子完利 二十七歳造之/一貫斎正行十八歳造之 文政十三年四月日」は兄との合作でかつ清麿の処女作。刀文はどうでしょうか。丸みを帯びた球状の紋様の連なり。軽やかです。躍動感もあります。

20歳の頃になると江戸へと出向いた清麿。生涯にわたって影響を受けた兵法家、窪田清音に作刀の指導を受けながら、様々な古名刀を実見する機会を得ます。そこで鎌倉時代の質実剛健な「相州風」と呼ばれる刀に惹かれ、自らの作風を確立すべく模索していきました。


「刀 於萩城山浦正行造之/天保十三年八月日」1842年 個人蔵

そして萩へ渡る。おそらく招かれたのではないかと考えられています。時に30歳。これまで江戸で制作してきた刀とはまた違ったものを求めます。中世の「備前一文字」を彷彿させる展開。おおむね華やかな意匠をとるそうです。


「太刀 為窪田清音君 山浦環源清麿製/弘化丙午年八月日」1846年 個人蔵

萩の滞在は2年です。再び江戸へ戻った後、34歳の時に四ッ谷に鍛冶場を構えました。「四谷正宗」の名の由来です。いよいよ名工としての地位を確立。ここで初めて清麿と名乗ります。ちなみに最初期は本名の山浦環、その後に秀壽、源正行と称していました。確かに刀を見ても制作年代によって銘が異なっていました。

死の理由を知って驚きました。自刀です。享年42歳。場所は自宅でした。死の理由については今も定かではありませんが、晩年の生活については「常に大酒を為し、清貧洗うが如し」(図録P124より転載)であったとか。また病に悩まされていたとも言われています。


上段:「刀 嘉永七年正月日/源清麿 (切付銘)切手山田源蔵 安政三年十月廿三日於千住太々土壇拂」1854年 個人蔵

その絶作が「刀 嘉永七年正月日/源清麿 (切付銘)切手山田源蔵/安政三年十月廿三日於千住太々土壇拂」です。大きく流れる刀文。荒々しいとも言えるのか。しかしながら銘の清麿の文字はどこか弱い。完成から二年後に試し斬りが行われたことも記されています。


「太刀 弘化二年八月日/源正行」1845年 個人蔵

最後に私が一番見惚れた作品を挙げてみます。それが「太刀 弘化二年八月日/源正行」。ともかく目を見張るばかりの鮮やかな刃文。眩い。またスピード感という言葉は適切ではないかもしれませんが、激しく流れるような動きがある。そしてこの流れと変化。清麿の刀文でもとりわけ魅力的な要素ではないでしょうか。


「清麿展」会場内解説パネル

ところで刀の部分の名称など表す専門用語、なかなか馴染みがありませんが、本展ではその辺もパネルでカバー。刀や文の呼び方についての解説もあります。


手前:「十文字槍 源正行/弘化二年二月日」1845年 個人蔵

同館では「名物刀剣」以来となる刀剣の展覧会。少なくとも私は根津よりも刀が美しく見える場所を知りません。かの展示で導入された光ファイバーによる直接照明。今回も効果的です。思わず我を忘れて刀の放つ青白き光に吸い込まれる。見事でした。

なお清麿展は「展示室1」のみでの展開です。同じ1階の「展示室2」ではテーマ展「神護寺経ーきらめく経文」を開催。所蔵の神護寺経18巻が初めて同時に公開されています。

4月6日まで開催されています。まずはおすすめします。

「清麿 幕末の志士を魅了した名工」 根津美術館@nezumuseum
会期:2月26日(水)~4月6日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。入場は16時半まで。
料金:一般1200円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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