「栄西と建仁寺」 東京国立博物館

東京国立博物館
「開山・栄西禅師 800年遠忌 栄西と建仁寺」
3/25-5/18



東京国立博物館で開催中の「開山・栄西禅師 800年遠忌 栄西と建仁寺」を見て来ました。

臨済宗を日本に伝え、京都最古の禅寺の建仁寺を開創した栄西。(本展では「ようさい」と読んでいます。)亡くなったのは1215年です。今年800年の遠忌を迎えました。

それにあわせての栄西展。絵画に工芸に書跡。全183件です。(会期途中に展示替えあり。)栄西や建仁寺、及び建仁寺派の寺院のゆかりの品々が一堂に会しました。

さてチラシのキャッチは「国宝風神雷神5年ぶりに参上」、表紙のビジュアルも同屏風絵です。裏面には海北友松の雲龍図があり、中を見開けば再び風神雷神に雲龍図、さらには若冲と、潔いほどにまで桃山・江戸絵画推しですが、何も本展はいわゆる絵画展というわけではありません。


栄西「誓願寺盂蘭盆一品経縁起」(部分) 平安時代・治承2(1178)年 誓願寺 *展示期間:3/25~4/6

そもそも出品数からしても桃山・江戸絵画は30点ほどです。むしろ大半を占めるのは栄西の足跡を伝える書跡の他、栄西を含む建仁寺の僧の肖像画に坐像など。また中国絵画や仏画、染織に工芸品も目立ちます。それに栄西は日本で初めて茶の専門書を著した人物でもある。お茶関連の展示も目を引きました。

そのお茶関連で冒頭、いきなり見逃せないのが「四頭茶会」です。これは栄西の生誕を祝し、今も建仁寺に伝わる禅方の茶会のことですが、会場ではその様子を再現。東博に建仁寺の方丈がそのままやって来ています。

正面には三幅の軸画、栄西像と龍に虎図が掲げられ、前面にはたくさんの茶会用具が並べられる。完全露出展示です。通路からは少し距離がありますが、前方の卓。螺鈿でしょうか。実に細やかに紋様が描かれています。

また天目茶碗も展示されている。2点、うち油滴は九博、また鸞天目は三井記念所蔵の作品です。油滴の小宇宙に優雅に舞う尾長鳥。見入りました。

栄西の肖像で興味深いのは頭の形です。例えば現存する最古の栄西坐像と言われる「妙庵栄西坐像」。ともかく角張って四角く、また長く、頭の上が平べったい。既に理想化された姿とのことでしたが、その大きな頭は豊かな知恵の象徴でもあるのだそうです。

長きに渡る建仁寺の歴史。ゆかりの禅僧も多くおられる。うち個性的なのが「放牛光林像」です。南北朝時代に建仁寺の住持であった僧、何やら少し屈みながら、前に肩をぐっと迫り出すように構えている。上目使いの視線は鋭い。迫力があります。


院達「小野篁立像」 江戸時代・元禄2(1689)年 六道珍皇寺 *全期間展示

応仁の乱で荒廃した建仁寺。再興は16世紀になってからのこと。武士たちが檀越として寺に布施をした。建仁寺にはそれらが寺宝として収められています。

北政所が所用していたという打掛はどうでしょうか。「打掛 亀甲花菱模様縫箔 高台院所用」。艶やかな花菱亀甲紋。デコラティブな刺繍が連なっている。模様の隙間は銀箔だそうです。

それでは安土桃山・江戸絵画へと参りましょう。まずは何と言っても海北友松。チラシや広告では宗達が目立っていますが、会場では友松の方が充実している。その数10点ほど。途中に展示替えがあり、常に全点(全面)見られるわけではありませんが、10幅の軸画や8面の襖絵など大作揃い。ちょっとした海北友松展と呼んでも差し支えありません。


海北友松「雲龍図」(左4幅のうち2幅) 安土桃山時代・慶長4(1599)年 建仁寺 *展示期間:8幅のうち左4幅:3/25~5/6、右4幅:4/22~5/18

中でも力作はやはり「雲龍図」ではないでしょうか。建仁寺の玄関に近い「礼之間」を飾る襖絵。全8幅。会期をわけての4幅毎の展示。前期では左4幅が出品されています。展示替えのため、龍が左右に対峙する姿を同時に見ることは出来ませんが、半分だけでも迫力があるというもの。これが8幅揃うとどのような光景になるのか。思わず想像してしまいます。

また建仁寺方丈の障壁画が何点も出ていましたが、掛け軸に改装されていました。これは1934年に台風で方丈が倒壊。その後保存のために為されたことだそうです。おそらくは長らく実用されてきた障壁画。いくつかの作品においてはやや痛んでいるようにも見受けられました。


伊藤若冲「雪梅雄鶏図」 江戸時代・18世紀 両足院 *全期間展示

江戸絵画では他に狩野山楽が目立ちます。若冲に盧雪、蕭白は各1点ずつ、白隠も2点ありました。盧雪の軽快な作は席画でしょうか。いずれも京都の寺院所蔵の作。普段見る機会もそうないかもしれない。やはり若冲の「雪梅雄鶏図」です。得意の大見得をきるかのような鶏にねっとりとした雪。椿の紅の発色が思いの外に鮮やかでした。


「涅槃図」 清時代・17世紀 春徳寺 *全期間展示

曼荼羅に印象深い作品がありました。それが「熊野観心十界曼荼羅」です。下部の地獄の表現が凄惨。鬼に串焼きにされ、釘を打たれた人間たち。人面の牛もいる。姿を変えられてしまったのでしょうか。背筋がぞっとします。


俵屋宗達「風神雷神図屏風」 江戸時代・17世紀 建仁寺 *全期間展示

宗達の「風神雷神図屏風」はラストのお出ましです。暗がりの展示室に屏風が一点。ケースの中央の黒い線が惜しい気もしますが、ともかく東博では5年ぶり。久々の対面です。不思議と左右の間の余白が随分と開いているような印象も受けましたが、よく考えてみれば左右がほぼぴったり付いている図版のイメージが頭にこびりついているのかもしれない。実際の屏風絵は何もくっ付けて並べるわけではありません。ぐっと身を引くかのように体くねらせては雷鳴を轟かす雷神に、少し遅れて来たといわんばかりにすっと現れる風神。これから大風を吹かそうとするのでしょうか。互いのかけひき、表情。ここはじっくりと楽しみました。

さて改めて出品の情報です。会期中、一部の作品が入れ替わります。

「栄西と建仁寺」作品リスト

宗達の「風神雷神図屏風」は全期間の展示です。なお光琳作の「風神雷神図屏風」も本館2階(常設展)で4/8から公開されます。(5/18まで)そのタイミングを狙っても良さそうです。

会期早々、しかも平日の観覧だったせいか、館内は余裕がありました。但し上野のお花見シーズン、もしくはGW以降会期末に向けては混雑してくるかもしれません。

栄西と日本の美 (洋泉社MOOK)/洋泉社」

5月18日まで開催されています。

「開山・栄西禅師 800年遠忌 栄西と建仁寺」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:3月25日(火)~5月18日(日)
時間:9:30~17:00。但し毎週金曜日は20時まで、土・日・祝休日は18時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:月曜日。但し4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館、5月7日(水)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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