「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 目黒区美術館

目黒区美術館
「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 
2/15-3/30



目黒区美術館で開催中の「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」を見て来ました。

1902年に横浜に生まれ、東京美術学校に進学。後に渡欧。戦後はニューヨークにも渡り、「幽玄主義」と呼ばれる作風で注目を集めた画家、岡田謙三(1902-1982)。

「和」という言葉を用いて良いでしょうか。時に日本の伝統色を用いての色面構成。いわゆる抽象画ながらも独特の温かみがある。以前から私も漠然とながらも強く惹かれるものを感じていました。

知りませんでした。その岡田謙三、アトリエを目黒区の自由が丘に構えていたそうです。館蔵の岡田謙三コレクションを紹介します。


古茂田守介「裸婦1」1940年

さて本展、何も岡田謙三の回顧展というわけではありません。タイトルに「&」と続くように目黒区に所縁のある画家も展観する。と言うのも岡田が自由が丘にアトリエを築いた1929年以降、界隈には画家や彫刻家などの様々な芸術家が集まった。例えば海老原喜之助。岡田の隣接する家に住んでいたとか。また一緒に満州への写生旅行へ出かけた荻須高徳も目黒の中町の在住です。さらに時代は前後しますが、駒井哲郎や浜口陽三も目黒。ようはそうした芸術家たちの制作も合わせて見ていくわけです。


岡田謙三「5人」1949年

ではお目当ての岡田謙三から。出品は全10点です。時代は1936年から1980年代まで。ほぼ画業の全般に渡っているとして良いでしょう。初期は戦前の「セーヌ河」に「花売り」です。渡欧期に見たパリの風景に女性。端的に具象画です。また興味深いのは「五人」。こちらは戦後の展開です。女性をモチーフにしながらも、後に見られる色面分割が展開されている。ちなみに岡田は1950年に渡米。ニューヨークへと渡ってから抽象画へと転換します。彼の地での抽象表現主義に喚起されたに相違ありません。

興味深い作品と出会いました。1970年制作の「三つの四角形」です。後期の抽象画ですが、その周囲をエスキースが囲んでいる。これが面白い。何と和菓子屋の包装紙です。包装紙を三角形に切ったり、手で破ったりして、白いキャンバス面に貼付けている。コラージュと呼んで良いのでしょうか。そしてその画面が先の「三つの四角形」のような抽象画と響きあっている。隣に岡田のアトリエの写真がありましたが、同じように周囲にエスキースを並べ、中央にキャンバスを立てて向き合う姿が写されていました。


槻尾宗一「鉄花器」1957年

目黒の他の作家も挙げましょう。モダン・クラフトの分野で活躍したという槻尾宗一の立体、花器はどうでしょうか。素材は鉄です。円錐や円柱を組み合わせた造形。しかしながらどこか有機的でもある。キャプションには「昆虫」とありましたが、確かにそうした趣きもあるかもしれません。

飯田善國の「目黒川夜景」シリーズが目を引きます。全4点の油画。時代はいずれも1953年頃。言うまでもなく目黒川を表した風景画ですが、何せ筆致が独特。ゴッホとまでは言いませんが、分厚い画肌にうねるようなタッチ。それでいて直線を多用した幾何学的な構成も見られる。闇が支配する中、街灯でしょうか。仄かな明かりが点々と灯っています。


秋岡芳夫「大きな風」1950年 

後半はモダンダンス、そしてデザインへの展開です。1920年代に目黒に舞踏詩研究所を開設した石井漠、そして土方巽らの活動。さらにデザインでは本展に続く特集展示でも登場する秋岡芳夫の制作を紹介。1960年代前後のトランジスタラジオなどが登場します。何でも目黒は1950年代に早くも秋岡らをはじめとしたデザイナーらが集まっていたそうです。

また会場内の目黒区の地図パネルに各作家の居住地点が明示されているのもポイントです。実際、私は全く目黒に縁がなく、殆ど右も左も分かりませんが、こうした地図を見ればある程度は頭に入るもの。さらに細かいことですが、出品リストにも各作家や作品名とともに地域名が記されています。嬉しい配慮です。

ちなみに岡田謙三の展覧会としては1989年に目黒区美術館で、また没後20年の2003年に横浜美術館(他)でも回顧展があったそうです。

1989年はともかく、2003年もまだ私はそれほど強く美術に関心がなかった頃。今だったら必ず行ったに違いありませんが、当時は残念ながら見逃してしまいました。また大きな展示なりがあればと願うばかりです。

「画家・謙三とともに/岡田きみ/鹿島出版会」

主に所蔵品、一部館外品での展示。規模は小さめです。しかしながら岡田謙三を筆頭にして目黒の地域性、文化的活動を探る内容。ご当地ならではの企画だと感心しました。

3月30日まで開催されています。

「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 目黒区美術館
会期:2月15日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
料金:一般500(400)円、大高生・65歳以上400(300)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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