都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」 板橋区立美術館
板橋区立美術館
「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」
2/22-3/30
板橋区立美術館で開催中の「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」を見て来ました。
江戸狩野の祖として名高い狩野探幽。余白を用いての瀟洒端麗な画風。言うまでもなく後の狩野派の絵師たちに大きな影響を与えました。
その探幽に弟が二人いたことをご存知でしょうか。一人は5歳年下の尚信。そしてもう一人は11歳下の安信です。ともに奥絵師の木挽町狩野家、また中橋狩野家を興した絵師でもある。この三兄弟の作品なり役割を見る展示が板橋区立美術館で行われています。
さて構成は絵師別。編年体での構成です。早速、探幽画から見ていきましょう。
狩野探幽「富士山図屏風」(部分) 板橋区立美術館 *後期展示
まずは板橋区美所蔵の「富士山図屏風」。左に富士で右に三保の松原。ほぼモノトーンながらも海は青みを帯びている。墨の滲みを活かした朧げな森林。余白の美。一転して鋭い筆致による岩山も見えます。硬軟使い分ける探幽の技が冴えていました。
一転しての力強い作品と出会いました。それが「群虎図襖」です。南禅寺の小方丈三の間を飾る襖絵。通称「水のみの虎」と呼ばれる作品です。
狩野探幽「群虎図襖」 南禅寺 重要文化財 *後期展示
ここに見られるのは桃山の狩野派を伝えるような迫力のある画面。実際にも探幽が若い頃に描いたものだそうです。全4面の金色の空間。右の二面には青々とした太い幹を誇る竹林。そこには一頭の虎が向こうから手前に向かって進んでいる。左の二面にいるのが水飲みの虎です。姿勢を低くし、尻を突き出しながら、赤い舌をぺろりと出して、舐めるように水を飲む虎。虎は筋肉隆々。また百合でしょうか。草花の表現がリアルでもある。見事です。
また本作は当然ながら南禅寺からやって来たもの。申し遅れましたが、本展は館蔵品展ではありません。南禅寺と同じく京都の金地院、それに滋賀の聖衆来迎寺から静岡県立美術館に根津美術館等々。個人蔵を含め、日本各地から作品が集まっています。
44歳で世を去った尚信は年記のある作品が少ないそうです。余白の取り入れ方は探幽よりもさらに大胆。例えば「山水花鳥図屏風」はどうでしょうか。墨画の作品ですが、墨の滲み、跳ね、さらに止めによって表された山水の世界はもはや抽象美の領域。画面は茫洋。小禽のみがリアルに示されています。
狩野尚信「雉子に牡丹図」寛永5(1628)年頃 金地院 *後期展示
探幽の指示の元に描いたという「雉子に牡丹図襖」も目が止まりました。こちらは20代の頃の作品。金色にそまる空間。やはり余白が多い。岩に水流、また牡丹が細かな筆致で描かれる。雉は画面の下方、水のすぐ側にいます。
安信は3兄弟の中で探幽と並び比較的長寿。73歳で亡くなったそうです。(探幽は72歳で亡くなりました。)彼は画論を著し、絵画の鑑定もおこなった。言わば後の江戸狩野を一定の形で体系付けた絵師でもあります。
狩野安信「若衆舞踊図」 愛知県美術館 *後期展示
「若衆舞踊図」に惹かれました。軸画の小品です。扇子を片手に両手を広げて舞う若衆。背景はありません。描線は滑らかでかつ軽快。表情は生き生きとしている。初期の浮世絵の風俗画を思わせるものがあります。
なおこの作品と近しいのが探幽の「若衆観楓図」です。また他にも同じ富士を描いた屏風絵もあります。絵師毎の展示のため、同時に比べることは出来ませんが、同じようなモチーフの作品からそれぞれの個性なりを見出すのも面白いかもしれません。
「探幽3兄弟展」チケット
そういえばチケットも3兄弟の虎をあしらったデザインでした。三つの円が連なる様子は、少し古いですが、団子三兄弟ということなのでしょうか。
いつもの手狭なスペースです。スケールではやむを得ない面はあるかもしれません。ただそれでも江戸絵画に強い板橋らしい企画。楽しめました。
なお本展は群馬県立近代美術館と2館開催の展覧会。板橋の先行です。また会期は2期制。現在は後期です。既に半数の作品が入れ替わっています。(出品リスト)
前期:2月22日(土)~3月16日(日)
後期:3月18日(火)~3月30日(日)
ちなみに図録には78点の作品が掲載されていましたが、板橋展の総出品数は53点でした。(一会期での出品は半数ほど。)おそらく群馬展においても展示替えがあるかと思いますが、そちらの出品数の方が多いことが予想されます。あえてこれから追うのであれば、群馬展を狙うのも良いのかもしれません。また板橋のチケット(有料)の提示で観覧料が割引になるサービスもあるそうです。(図録は共通。また群馬展はテーマ別での展示です。)
「探幽3兄弟展ー狩野探幽・尚信・安信」@群馬県立近代美術館(4/19~6/1)
会期末も迫っているからでしょうか。なかなか盛況でした。
来年度の板橋区立美術館の主な展覧会スケジュールが発表されました。(WEBではまだ出ていないようです。)
「館蔵品展 焼け跡と絵筆ー画家のみつめた戦中・戦後展」 4/12~6/15
「2014イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」 7/5~8/17
「20世紀検証シリーズNo.4 種村孝弘展」 9/6~10/19
「静かなる詩心 イエラ・マリの絵本展」 11/22~2015/1/12
「館蔵品展 18世紀の江戸絵画」 2015/2/28~3/29
お馴染みの「ボローニャ国際絵本原画展」や「20世紀検証シリーズ」などが目を引きますが、それこそ「探幽3兄弟」しかり、毎年ほぼ必ず開催されてきた「江戸文化シリーズ」がありません。少し気になるところです。(*館蔵品展は無料。)
3月30日まで開催されています。
「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:2月22日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日。但し12/23は開館し翌日は休館。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般650円、高・大生450円、小・中学生200円。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*65歳以上は325円。(要証明書)
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」
2/22-3/30
板橋区立美術館で開催中の「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」を見て来ました。
江戸狩野の祖として名高い狩野探幽。余白を用いての瀟洒端麗な画風。言うまでもなく後の狩野派の絵師たちに大きな影響を与えました。
その探幽に弟が二人いたことをご存知でしょうか。一人は5歳年下の尚信。そしてもう一人は11歳下の安信です。ともに奥絵師の木挽町狩野家、また中橋狩野家を興した絵師でもある。この三兄弟の作品なり役割を見る展示が板橋区立美術館で行われています。
さて構成は絵師別。編年体での構成です。早速、探幽画から見ていきましょう。
狩野探幽「富士山図屏風」(部分) 板橋区立美術館 *後期展示
まずは板橋区美所蔵の「富士山図屏風」。左に富士で右に三保の松原。ほぼモノトーンながらも海は青みを帯びている。墨の滲みを活かした朧げな森林。余白の美。一転して鋭い筆致による岩山も見えます。硬軟使い分ける探幽の技が冴えていました。
一転しての力強い作品と出会いました。それが「群虎図襖」です。南禅寺の小方丈三の間を飾る襖絵。通称「水のみの虎」と呼ばれる作品です。
狩野探幽「群虎図襖」 南禅寺 重要文化財 *後期展示
ここに見られるのは桃山の狩野派を伝えるような迫力のある画面。実際にも探幽が若い頃に描いたものだそうです。全4面の金色の空間。右の二面には青々とした太い幹を誇る竹林。そこには一頭の虎が向こうから手前に向かって進んでいる。左の二面にいるのが水飲みの虎です。姿勢を低くし、尻を突き出しながら、赤い舌をぺろりと出して、舐めるように水を飲む虎。虎は筋肉隆々。また百合でしょうか。草花の表現がリアルでもある。見事です。
また本作は当然ながら南禅寺からやって来たもの。申し遅れましたが、本展は館蔵品展ではありません。南禅寺と同じく京都の金地院、それに滋賀の聖衆来迎寺から静岡県立美術館に根津美術館等々。個人蔵を含め、日本各地から作品が集まっています。
44歳で世を去った尚信は年記のある作品が少ないそうです。余白の取り入れ方は探幽よりもさらに大胆。例えば「山水花鳥図屏風」はどうでしょうか。墨画の作品ですが、墨の滲み、跳ね、さらに止めによって表された山水の世界はもはや抽象美の領域。画面は茫洋。小禽のみがリアルに示されています。
狩野尚信「雉子に牡丹図」寛永5(1628)年頃 金地院 *後期展示
探幽の指示の元に描いたという「雉子に牡丹図襖」も目が止まりました。こちらは20代の頃の作品。金色にそまる空間。やはり余白が多い。岩に水流、また牡丹が細かな筆致で描かれる。雉は画面の下方、水のすぐ側にいます。
安信は3兄弟の中で探幽と並び比較的長寿。73歳で亡くなったそうです。(探幽は72歳で亡くなりました。)彼は画論を著し、絵画の鑑定もおこなった。言わば後の江戸狩野を一定の形で体系付けた絵師でもあります。
狩野安信「若衆舞踊図」 愛知県美術館 *後期展示
「若衆舞踊図」に惹かれました。軸画の小品です。扇子を片手に両手を広げて舞う若衆。背景はありません。描線は滑らかでかつ軽快。表情は生き生きとしている。初期の浮世絵の風俗画を思わせるものがあります。
なおこの作品と近しいのが探幽の「若衆観楓図」です。また他にも同じ富士を描いた屏風絵もあります。絵師毎の展示のため、同時に比べることは出来ませんが、同じようなモチーフの作品からそれぞれの個性なりを見出すのも面白いかもしれません。
「探幽3兄弟展」チケット
そういえばチケットも3兄弟の虎をあしらったデザインでした。三つの円が連なる様子は、少し古いですが、団子三兄弟ということなのでしょうか。
いつもの手狭なスペースです。スケールではやむを得ない面はあるかもしれません。ただそれでも江戸絵画に強い板橋らしい企画。楽しめました。
なお本展は群馬県立近代美術館と2館開催の展覧会。板橋の先行です。また会期は2期制。現在は後期です。既に半数の作品が入れ替わっています。(出品リスト)
前期:2月22日(土)~3月16日(日)
後期:3月18日(火)~3月30日(日)
ちなみに図録には78点の作品が掲載されていましたが、板橋展の総出品数は53点でした。(一会期での出品は半数ほど。)おそらく群馬展においても展示替えがあるかと思いますが、そちらの出品数の方が多いことが予想されます。あえてこれから追うのであれば、群馬展を狙うのも良いのかもしれません。また板橋のチケット(有料)の提示で観覧料が割引になるサービスもあるそうです。(図録は共通。また群馬展はテーマ別での展示です。)
「探幽3兄弟展ー狩野探幽・尚信・安信」@群馬県立近代美術館(4/19~6/1)
会期末も迫っているからでしょうか。なかなか盛況でした。
来年度の板橋区立美術館の主な展覧会スケジュールが発表されました。(WEBではまだ出ていないようです。)
「館蔵品展 焼け跡と絵筆ー画家のみつめた戦中・戦後展」 4/12~6/15
「2014イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」 7/5~8/17
「20世紀検証シリーズNo.4 種村孝弘展」 9/6~10/19
「静かなる詩心 イエラ・マリの絵本展」 11/22~2015/1/12
「館蔵品展 18世紀の江戸絵画」 2015/2/28~3/29
お馴染みの「ボローニャ国際絵本原画展」や「20世紀検証シリーズ」などが目を引きますが、それこそ「探幽3兄弟」しかり、毎年ほぼ必ず開催されてきた「江戸文化シリーズ」がありません。少し気になるところです。(*館蔵品展は無料。)
3月30日まで開催されています。
「江戸文化シリーズNo.29 探幽3兄弟~狩野探幽・尚信・安信」(@edo_itabashi) 板橋区立美術館
会期:2月22日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日。但し12/23は開館し翌日は休館。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般650円、高・大生450円、小・中学生200円。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*65歳以上は325円。(要証明書)
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
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