「観音の里の祈りとくらし展」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「観音の里の祈りとくらし展ーびわ湖・長浜のホトケたち」
3/21-4/13



東京藝術大学大学美術館で開催中の「観音の里の祈りとくらし展ーびわ湖・長浜のホトケたち」のWEB内覧会に参加してきました。

琵琶湖北岸、さらに北は福井県にも接する長浜市。そこには古くから受け継がれて来た観音像がある。そもそも滋賀県自体、重文の指定を受けた観音像が最も多いことでも知られています。

長浜の人たちに根付いた厚き観音信仰。それを紹介する展覧会が上野の芸大美術館で始まりました。

今回は撮影の許可をいただきました。展示の様子を追ってみます。

まず出品は長浜地域の観音像、全18躯。重文3点を含みます。主に平安時代に造られたもの、中にはお堂を出たのすら初めての仏像もある。いずれも東京初出展でもあります。

さて長浜の観音信仰の特徴とは何か。それが初めにも触れたように地域の人々が代々観音像を守って来たということです。


「観音の里の祈りとくらし展」会場風景

そもそも琵琶湖北岸地域には平安期から天台宗(及び山岳信仰)による観音信仰が存在していましたが、室町期以降、次第に弱体化。さらに新仏教が台頭。そこに加わって戦国の混乱です。天台宗の寺院の多くは衰退して無住、廃寺化していきました。

一方でこの地域では中世以降に村落共同体が発達。力のある村人自身がこうした無住寺に本尊としての観音を納めていく。以降、住職らに替わって守り続けてきた。そもそも観音像とはいわゆる庶民仏。現世利益的な信仰も強く、全ての人々を救済するという意味をもちえています。

今回の出品の観音像も2、3躯を除いては無住寺のもの。中には自治会所蔵の仏像もあります。如何に観音像が身近な存在なのか。その一端を伺い知れるのではないでしょうか。


左:「十一面観音立像」平安時代・12世紀 大浦十一面腹帯観音堂

よって観音像は今も人々の日常にある。一例が「十一面観音立像」ではないでしょうか。これは通称「腹帯観音」と呼ばれる仏像ですが、文字通りお腹の部分にサラシの帯を巻いている。いわゆる子宝や安産の神として信仰されたもの。何でも帯には毘沙門天などの尊像の摺物が表され、その版木は何と江戸時代から受け継がれているとか。祈願の申し出があると、この実際に巻かれた腹帯を授与する。そのためにこのように新しいのだそうです。


「十一面観音立像」(部分)平安時代・12世紀 大浦十一面腹帯観音堂

また近年、一度盗まれたことがあり、懸賞金つきで行方を探したところ、懸賞金欲しさに犯人自ら名乗り出て御用。などということもあったそうです。


右:「菩薩形立像」平安時代・9世紀末~10世紀初頭 安念寺
左:「如来形立像」平安時代・10世紀 安念寺


「菩薩形立像」と「如来形立像」はどうでしょうか。木が剥き出しになった姿。痛々しくも見えますが、これは信長の兵火の際、それを逃れるために村人が田に埋めて隠したとも伝えられている。そして驚くのは次のエピソード。何と昭和初期の頃までは夏に子どもたちがこの像を川に浮かべて遊んだりしていたのだそうです。


重要文化財「千手観音立像」奈良~平安時代・8世紀末~9世紀初頭 日吉神社(赤後寺)

出品中最も名高いのが「千手観音立像」。重文指定。平安期の作例とされますが、限りなく奈良時代に近い。いわゆる地方の仏像としては最古となる8世紀末の作とも言われる観音様です。

檜の一木造。堂々たる体躯。時の官営の工房の職人が関与したとも言われる充実の造り。お顔は穏やかです。但し頭上面は全て失われ、腕も12本残るのみ。賤ヶ岳の合戦の際に川に沈められて隠された。そうした謂れも残されています。


「観音の里の祈りとくらし展」会場風景

全18躯のこじんまりとした展示。しかしながら長浜の観音さまをじっくりと拝む事が出来る。またキャプションも充実。来歴や由来もよく理解出来ます。それに仏像は確かに平安期のものですが、伝えて来たのは近世以降、現代までの長きに渡っている。その歴史をひも解く展覧会でもあるのです。


国宝「絵因果経」(部分)8世紀 東京藝術大学大学美術館

また本展と同時に開催中なのが春恒例の「芸大コレクション展」です。驚くほど彩色の鮮やかな国宝「絵因果経」から光琳の「槙楓図屏風」に蕭白の「群仙図屏風」を経て、由一、清輝、コランなどとお馴染みの名品が揃っている。もちろん「観音の里」チケットで観覧可能。二つあわせて500円で堪能出来ます。

短期限定の展覧会。会期は一ヶ月もありません。まずは早めの観覧をおすすめします。


「長浜・米原・奥びわ湖観光情報」公式サイト

一度、奥琵琶湖の地を旅したいと思いました。4月13日まで開催されています。

「観音の里の祈りとくらし展ーびわ湖・長浜のホトケたち」(@nagahama_kannon)  東京藝術大学大学美術館
会期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般500(400)円、高校・大学生300(200)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *同時開催中の「藝大コレクション展」も観覧可。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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