「世紀の日本画」(後期展示) 東京都美術館

東京都美術館
「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」
1/25-4/1 前期:1/25-2/25、後期:3/1-4/1



東京都美術館で開催中の「世紀の日本画」展の後期展示を見て来ました。

大正3年に再興した日本美術院の活動を追いかける。大観や春草らに始まって現代の画家まで。院展という括りこそあるものの、近代日本画の歴史を辿る展覧会でもあります。

「世紀の日本画」 東京都美術館(はろるど)*前期の感想です。

会期は前後期の完全2期制。後期は3月1日からのスタートです。作品は全て入れ替わりました。

では後期、まずは明治・大正期の名品を集めたセクションです。芳崖は「不動明王」から「悲母観音」へ。また前期ではここで出ていなかった大観が登場。「無我」と「屈原」が展示されていました。


狩野芳崖「悲母観音」明治21年(1888年) 東京藝術大学 *後期:3/1-4/1

リニューアル後の都美館の照明の効果もあったのでしょうか。「悲母観音」も「屈原」も際立って見えます。例えば「悲母観音」、それこそ芸大のコレクション展などでも見る機会がありますが、より発色良く映る。全体を覆う金色の輝き。また手の細い指を象る線描。そして着衣の透明感。うっすら水色を帯びています。見事です。


横山大観「屈原」明治31年(1898年) 厳島神社 *後期:3/1-4/1

また「屈原」は昨年の横浜美術館の大観展以来の鑑賞でしたが、こちらもやはり鮮やかです。鬼気迫る屈原。天心の姿に重ねあわせています。そして背景の不穏な気配。人物表現の細密な描写に対して草木は大胆な筆致で描かれている。ケースの写り込みも少なかったかもしれません。細部の細部までをじっくりと見ることが出来ました。


橋本雅邦「龍虎図屏風」明治28年(1895年) 静嘉堂文庫美術館 *後期:3/1-4/1

橋本雅邦の「龍虎図屏風」も目を引きます。静嘉堂文庫美術館所蔵の名品。都内では一号館美術館での「三菱が夢見た美術館」展以来の出品かもしれません。

もはや劇画調とも言える大胆な描写。触手のようにのびる波間から龍が飛び出し、風に煽られて大きく曲がる竹林を背に虎が対峙する。大きく口を開けて咆哮する姿。改めて感じたのは作品がどこか『立体的』であるということです。というのも例えば右隻から左隻へ迸る稲光、3Dとまでは言いませんが、奥から手前へ飛び出してくるような印象がある。渦を巻く波も同様。今度は手前から奥へ。左右の対比ではなく、空間としての前後の関係、言わば構図感にも見入るべき点があるのではないでしょうか。

小倉遊亀の「コーちゃんの休日」はどうでしょうか。院展では初めて女性の同人であった画家。両手をあげて横たわりながらポーズをとるモデル。宝塚の大スター越路吹雪です。紫の帯にストライプの着物。色の配置も巧みです。センスの良さが光ります。

また前田青邨では「京名所八題」が後半の4幅に入れ替わり。一番好きな先斗町が出ていました。縦の構図で連なる京町屋。瓦屋根が生むリズム感。小路には人々が多数行き交う。宴席の様子も垣間見える。いわゆる納涼床でしょうか。繁華街の賑わいが伝わって来ます。

小杉未醒の「山幸彦」。山幸彦と海幸彦の日本神話に取材した作品だそうですが、何でもシャヴァンヌに影響されていたとか。確かに片ぼかしと呼ばれる技法による色彩感は壁画、シャヴァンヌ画を彷彿させる面もある。福岡の石橋財団所蔵の作品。初めて見たかもしれません。

さて後半は歴史や花鳥、それに風景や人物、幻想といったテーマ別での展開です。例えば歴史では安田靫彦の「項羽」。敗北を悟った項羽と寄りそう虞美人の姿。悲嘆にくれている。鎧の金色が驚くほど鮮やかです。また背後に長城が描かれていますが、これは明代のものとのこと。後に画家が時代を誤ったとして後悔したというエピソードも残っているそうです。


前田青邨「芥子図屏風」昭和5年(1930年) 光ミュージアム *後期:3/1-4/1

一際目立つのが青邨の「芥子図屏風」です。都内ではおそらく明治神宮文化館の「和紙に魅せられた画家たち」(2011年)以来の展示ではないでしょうか。岐阜は光ミュージアム所蔵の屏風絵。6曲1双の大画面にはほぼ同じ高さの芥子だけが描かれる。右隻は満開。白い花をたくさん咲かせている。一方で左隻はほぼつぼみ。ぐっと首を垂れて横たわる先には紅色の花が2、3輪だけ咲いている。全体的にはそれこそ琳派の意匠を思わせるような展開。しかしながら目を凝らせば花の描写も精緻です。意外と写実的であることが分かります。

大パノラマです。石橋英遠の「道産子追憶之巻」は北海道立美術館の所蔵品です。全8面。長い長い絵巻物のような画面には、四季の北海道の自然と人々の生活が描かれています。まさに雄大の一言。広がるのは白樺の林。その向うには鹿の群れも。飛び交うのは赤とんぼです。また面白いのはラストの展開。火にあたり暖をとる男たちが描かれている。情緒的でもあります。

中ば衝撃的な一枚に出会いました。馬場不二の「松」です。モチーフは文字通りに松ですが、ともかく描写が変わっている。ボナール画を思い出しました。松は限りなく平面的でかつ装飾的。図案と言っても良いかもしれません。ちなみに画家の馬場、この頃に肺がんで安静を命じられながらも制作。何とか完成して会場に搬入したものの、会期中に亡くなってしまったそうです。つまり画家の遺作ということかもしれません。


速水御舟「比叡山」大正8年(1919年) 東京国立博物館 *後期:3/1-4/1

その他では速水御舟の「比叡山」も心に留まりました。いわゆる青の時代の作品です。一面の群青に沈む比叡山。山肌は思いの外にゴツゴツと隆起していて力強い。そして微かに後光が滲んでいる。まさしく霊峰です。また手塚雄二の「市民」は、西洋美術館のロダンの彫刻、「カレーの市民」に取材したものだそうです。雨の夜でしょうか。苦悩する男たちの群像。重々しい。暗がりにぼんやりと浮かび上がっていました。


小林古径「出湯」大正7年(1918年)/大正10年(1921年) 東京国立博物館 *後期:3/18-4/1

長くなりました。もちろんあまり惹かれない作品がないわけではありませんが、やはりこれほどのスケールで近代日本画を楽しめる機会もそう滅多にないもの。前後期を合わせて一つの展覧会です。堪能しました。

「自ら学び 革新せよ~日本画家たちの戦い」@NHK日曜美術館 再放送:3月23日(日)20時~ 出演:山口晃

*お知らせ*
本展のチケットが若干枚、手元にあります。お一人様一枚ずつ、先着順で差し上げます。ご希望の方は件名に「世紀の日本画展チケット希望」と明記の上、harold1234アットマークgoo.jp(アットマークの表記は@にお書き直し下さい。)までメールでご連絡下さい。なお迷惑メール対策のため、携帯電話のアドレスからは受け付けておりません。あらかじめご了承下さい。

会場内、現段階ではまだ余裕があるそうですが、最終盤にかけて混雑してくるかもしれません。金曜の夜間(20時まで開館)も狙い目となりそうです。

「近代日本の画家たちー日本画・洋画美の競演/別冊太陽/平凡社」

4月1日まで開催されています。

「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月25日(土)~4月1日(火)
 前期:1月25日(土)~2月25日(火)、後期:3月1日(土)~4月1日(火)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。2月26日(水)~28(金)。但し2月24日(月)、3月31日(月)は開館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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