都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「燕子花と紅白梅」 記者発表会
没後300年忌を迎えた琳派を代表する尾形光琳(1658-1716)。何と56年の出来事です。国宝「燕子花図屏風」と国宝「紅白梅図屏風」が同時に展示されます。
会場は2つ。熱海のMOA美術館と東京の根津美術館です。先行するのがMOA美術館。期間は2月4日から3月3日までの1ヶ月間です。その後、4月18日から根津美術館で同じく1ヶ月ほど開催されます。
「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」@MOA美術館 2/4~3/3
「燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」@根津美術館 4/18~5/17
さて「燕子花と紅白梅」展、サブタイトルが異なっているように、内容は必ずしも同一ではありません。
[尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術]
MOA美術館
2月4日(水)~3月3日(火)
http://www.moaart.or.jp/
まずはMOA美術館です。表題は「光琳アート 光琳と現代美術」。ここでは光琳100年忌・200年忌で紹介された光琳の作品、並びに光琳の影響が伺える近現代美術を展観します。
「波に白鷺図」 尾形光琳
100年忌を取り仕切ったのは酒井抱一です。光琳を私淑した抱一は百年忌に際して遺墨展と法要を行いました。そして「光琳百図」を編纂します。本展に出品されるのも「光琳百図」に載った作品です。代表的な「白楽天図屏風」や「紫式部図」のほか、近年あまり公開されていない「波に白鷺図」や「方形絵皿盆」などが展示されます。
右:「光琳画聖二百年忌記念 光琳図録」 大正4年
左:「光琳百図」 文化12年
200年忌が行われたのは大正4年です。中心となったのは三越呉服店。追善法会や遺作展を開催しました。またその時に「光琳二百年忌記念光琳遺品展覧会出品目録」が作られ、「紅白梅図屏風」も掲載されました。それに三越は近代以降、特に西洋で評価された光琳風模様も積極的に取り上げます。
「紅白梅図屏風」 尾形光琳 江戸時代・18世紀 MOA美術館
メインの「紅白梅図屏風」を考える上でポイントになるのは「捨象性」、「複数の視点」、「枝垂れの構図」、「文様化」、「対立した要素」、「主題の持つ季節感」の6点です。
中でもよく知られるのは対立のキーワードです。同屏風では「黒と金」、「老と若」、「紅と白」、「静と動」、「直線と曲線」といった要素がモチーフや構図において対立しています。
近代における光琳画の受容も重要です。日本美術院の画家や工芸、またさらに一歩先を見据えてデザインの分野も取り上げられます。菱田春草の「落葉」(福井本)をはじめ、神坂雪佳の「杜若図屏風」、下村観山の「弱法師」(展示期間:2/18~3/3)や福田平八郎の「漣」、それに田中一光の「ミュージック・トゥディ」などが展示されます。
上段:「美しい旗」 会田誠
下段:「風神雷神図屏風」 尾形光琳
また現代美術では、福田美蘭の「風神雷神図」や村上隆の「ルイ・ヴィトンのお花畑」、それに会田誠の「美しい旗」や「群娘図」も目を引くのではないでしょうか。
「月下紅白梅図」 杉本博司 平成26(2014)年 個人蔵 *制作中図版
さらに6名の現代作家が本展にあわせて新作を発表します。うち杉本博司は「月下紅白梅図」です。かの「紅白梅図屏風」を夜に置き換えた作品、満月を波紋の右上にあることを想定し、銀のかわりにプラチナを用いて月明かりを表現しました。
杉本は日本美術の本質が「本歌とり」にあるとした上で、琳派を「平安の美意識から結集した、現代の美に繋がる軸である。」と捉えています。その系譜を平家納経から宗達、光琳、さらには近代以降の春草や福田平八郎に見定め、「日本のアートのムーブメントは琳派なしには語れない。」とも述べています。*「」内は発表時の杉本の発言より。
*「燕子花と紅白梅」(MOA美術館)の主な展示作品(上記以外)
「四季草花図巻」、「紫式部図」、「白楽天図屏風」、「秋草模様小袖」、「琴高仙人図」、「方形絵替盆」。以上、尾形光琳。
「群鶴図」(加山又造)、「梅」(須田悦弘)、「池の海」(平松礼二)、「レース(燕子花)」(高田安規子・政子)。
[尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密]
根津美術館
4月18日(土)~5月17日(日)
http://www.nezu-muse.or.jp/
続いては根津美術館です。見るべきは光琳のデザイン性。テーマは3つです。はじめは「模様の屏風の系譜」。先のMOA美術館が時代を進むのに対し、根津美術館では歴史を遡ります。そこで重要なのが宗達の「蔦の細道図屏風」です。
上段:「蔦の細道図屏風」 俵屋宗達
下段:「燕子花図屏風」 尾形光琳
いわゆる伊勢物語を主題とした作品、振り返れば「燕子花」も同様です。そして「燕子花」もある種の模様とすれば、「蔦の細道」もデザイン的だと言えるのではないでしょうか。またここでは「槇楓図屏風」(伝宗達を含む)、それに「孔雀立葵図屏風」などを参照し、光琳の屏風の変遷を追いかけます。
2つ目は「衣裳図案と光悦謡本」です。光琳の写生や画稿からなる「小西家文書」には、おそらくは「燕子花図屏風」には元となるスケッチがいくつか残されています。
「燕子花図」 尾形光琳 京都国立博物館 *展示期間:5/4~5/17
これらの資料によれば光琳はいわゆる版画的なパターンの反復や生成などを好んでいました。また光悦に関わりのある雲母や金銀泥の木版摺も光琳に影響を与えています。そこで「光悦謡本」の写しなども参照しながら、どのように光琳が画風を完成させたのかについて探っていきます。
右上:「紅白梅図屏風」(部分) 尾形光琳
左下:「銹絵梅図角皿」 尾形乾山・尾形光琳(画)
最後のテーマは「ジャンルを越える意匠」です。光琳を画家ではなくデザイナーと捉え、光琳が得意とした紅葉や水流のモチーフ、また乾山との合作などから、光琳画の特質などを見る内容となります。
「燕子花図屏風」 尾形光琳 江戸時代・18世紀 根津美術館
*「燕子花と紅白梅」(根津美術館)の主な展示作品(上記以外)
「孔雀立葵図屏風」、「楓図」(小西家文書)、「扇面貼交手箱」、「流水図乱箱」、「夏草図屏風」、「桔梗図扇面」、「蔦図香包」。作者は全て尾形光琳。
「芦舟蒔絵硯箱」(本阿弥光悦)、「扇面散貼付屏風」(俵屋宗達)。
抱一による100年忌、さらには大正時代の200年忌を経て、新たに行われる300年忌の光琳展。デザインや現代美術への展開など、新たな視点を盛り込んだ展覧会でもあります。
上段:「群娘図」 会田誠
下段:「燕子花図屏風」 尾形光琳 *展示はMOA美術館
ちょうど梅が咲く頃にはじまり、燕子花が群れる時期に終える「燕子花と紅白梅」。今年は琳派400年とも言われる琳派のメモリアルイヤーです。琳派好きのみならず、日本美術を語る上でも重要な機会になるのではないでしょうか。
かの大琳派展でも叶わなかった「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」の同時展示。MOAでは光琳から現代美術までの系譜を辿り、根津では宗達や光悦を参照しながら光琳デザインの営みを探ります。アプローチの異なる両展示、共通券の設定こそありませんが、事実上、二つで一つの企画展としても差し支えありません。
先行する「光琳アート 光琳と現代美術」はMOA美術館で2月4日から、「光琳デザインの秘密」は根津美術館で4月18日から開催されます。
「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」 MOA美術館
会期:2月4日(水)~3月3日(火)
休館:会期中無休。
時間:9:30~16:30 *入館は16時まで。
料金:一般1600円、65歳以上1200円、大学・高校生800円、中学生以下無料。
*団体割引1300円。
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
交通:JR線熱海駅8番乗り場より伊豆東海バスMOA美術館行にて終点下車。熱海駅よりタクシー5分。
「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月18日(土)~5月17日(日)
休館:月曜日。但し5月4日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*5月12日(火)~5月17日(日)は午後7時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200円、学生1000円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引き。
*前売券は各100円引きにて販売。*販売期間:3/7~4/6
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
会場は2つ。熱海のMOA美術館と東京の根津美術館です。先行するのがMOA美術館。期間は2月4日から3月3日までの1ヶ月間です。その後、4月18日から根津美術館で同じく1ヶ月ほど開催されます。
「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」@MOA美術館 2/4~3/3
「燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」@根津美術館 4/18~5/17
さて「燕子花と紅白梅」展、サブタイトルが異なっているように、内容は必ずしも同一ではありません。
[尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術]
MOA美術館
2月4日(水)~3月3日(火)
http://www.moaart.or.jp/
まずはMOA美術館です。表題は「光琳アート 光琳と現代美術」。ここでは光琳100年忌・200年忌で紹介された光琳の作品、並びに光琳の影響が伺える近現代美術を展観します。
「波に白鷺図」 尾形光琳
100年忌を取り仕切ったのは酒井抱一です。光琳を私淑した抱一は百年忌に際して遺墨展と法要を行いました。そして「光琳百図」を編纂します。本展に出品されるのも「光琳百図」に載った作品です。代表的な「白楽天図屏風」や「紫式部図」のほか、近年あまり公開されていない「波に白鷺図」や「方形絵皿盆」などが展示されます。
右:「光琳画聖二百年忌記念 光琳図録」 大正4年
左:「光琳百図」 文化12年
200年忌が行われたのは大正4年です。中心となったのは三越呉服店。追善法会や遺作展を開催しました。またその時に「光琳二百年忌記念光琳遺品展覧会出品目録」が作られ、「紅白梅図屏風」も掲載されました。それに三越は近代以降、特に西洋で評価された光琳風模様も積極的に取り上げます。
「紅白梅図屏風」 尾形光琳 江戸時代・18世紀 MOA美術館
メインの「紅白梅図屏風」を考える上でポイントになるのは「捨象性」、「複数の視点」、「枝垂れの構図」、「文様化」、「対立した要素」、「主題の持つ季節感」の6点です。
中でもよく知られるのは対立のキーワードです。同屏風では「黒と金」、「老と若」、「紅と白」、「静と動」、「直線と曲線」といった要素がモチーフや構図において対立しています。
近代における光琳画の受容も重要です。日本美術院の画家や工芸、またさらに一歩先を見据えてデザインの分野も取り上げられます。菱田春草の「落葉」(福井本)をはじめ、神坂雪佳の「杜若図屏風」、下村観山の「弱法師」(展示期間:2/18~3/3)や福田平八郎の「漣」、それに田中一光の「ミュージック・トゥディ」などが展示されます。
上段:「美しい旗」 会田誠
下段:「風神雷神図屏風」 尾形光琳
また現代美術では、福田美蘭の「風神雷神図」や村上隆の「ルイ・ヴィトンのお花畑」、それに会田誠の「美しい旗」や「群娘図」も目を引くのではないでしょうか。
「月下紅白梅図」 杉本博司 平成26(2014)年 個人蔵 *制作中図版
さらに6名の現代作家が本展にあわせて新作を発表します。うち杉本博司は「月下紅白梅図」です。かの「紅白梅図屏風」を夜に置き換えた作品、満月を波紋の右上にあることを想定し、銀のかわりにプラチナを用いて月明かりを表現しました。
杉本は日本美術の本質が「本歌とり」にあるとした上で、琳派を「平安の美意識から結集した、現代の美に繋がる軸である。」と捉えています。その系譜を平家納経から宗達、光琳、さらには近代以降の春草や福田平八郎に見定め、「日本のアートのムーブメントは琳派なしには語れない。」とも述べています。*「」内は発表時の杉本の発言より。
*「燕子花と紅白梅」(MOA美術館)の主な展示作品(上記以外)
「四季草花図巻」、「紫式部図」、「白楽天図屏風」、「秋草模様小袖」、「琴高仙人図」、「方形絵替盆」。以上、尾形光琳。
「群鶴図」(加山又造)、「梅」(須田悦弘)、「池の海」(平松礼二)、「レース(燕子花)」(高田安規子・政子)。
[尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密]
根津美術館
4月18日(土)~5月17日(日)
http://www.nezu-muse.or.jp/
続いては根津美術館です。見るべきは光琳のデザイン性。テーマは3つです。はじめは「模様の屏風の系譜」。先のMOA美術館が時代を進むのに対し、根津美術館では歴史を遡ります。そこで重要なのが宗達の「蔦の細道図屏風」です。
上段:「蔦の細道図屏風」 俵屋宗達
下段:「燕子花図屏風」 尾形光琳
いわゆる伊勢物語を主題とした作品、振り返れば「燕子花」も同様です。そして「燕子花」もある種の模様とすれば、「蔦の細道」もデザイン的だと言えるのではないでしょうか。またここでは「槇楓図屏風」(伝宗達を含む)、それに「孔雀立葵図屏風」などを参照し、光琳の屏風の変遷を追いかけます。
2つ目は「衣裳図案と光悦謡本」です。光琳の写生や画稿からなる「小西家文書」には、おそらくは「燕子花図屏風」には元となるスケッチがいくつか残されています。
「燕子花図」 尾形光琳 京都国立博物館 *展示期間:5/4~5/17
これらの資料によれば光琳はいわゆる版画的なパターンの反復や生成などを好んでいました。また光悦に関わりのある雲母や金銀泥の木版摺も光琳に影響を与えています。そこで「光悦謡本」の写しなども参照しながら、どのように光琳が画風を完成させたのかについて探っていきます。
右上:「紅白梅図屏風」(部分) 尾形光琳
左下:「銹絵梅図角皿」 尾形乾山・尾形光琳(画)
最後のテーマは「ジャンルを越える意匠」です。光琳を画家ではなくデザイナーと捉え、光琳が得意とした紅葉や水流のモチーフ、また乾山との合作などから、光琳画の特質などを見る内容となります。
「燕子花図屏風」 尾形光琳 江戸時代・18世紀 根津美術館
*「燕子花と紅白梅」(根津美術館)の主な展示作品(上記以外)
「孔雀立葵図屏風」、「楓図」(小西家文書)、「扇面貼交手箱」、「流水図乱箱」、「夏草図屏風」、「桔梗図扇面」、「蔦図香包」。作者は全て尾形光琳。
「芦舟蒔絵硯箱」(本阿弥光悦)、「扇面散貼付屏風」(俵屋宗達)。
抱一による100年忌、さらには大正時代の200年忌を経て、新たに行われる300年忌の光琳展。デザインや現代美術への展開など、新たな視点を盛り込んだ展覧会でもあります。
上段:「群娘図」 会田誠
下段:「燕子花図屏風」 尾形光琳 *展示はMOA美術館
ちょうど梅が咲く頃にはじまり、燕子花が群れる時期に終える「燕子花と紅白梅」。今年は琳派400年とも言われる琳派のメモリアルイヤーです。琳派好きのみならず、日本美術を語る上でも重要な機会になるのではないでしょうか。
かの大琳派展でも叶わなかった「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」の同時展示。MOAでは光琳から現代美術までの系譜を辿り、根津では宗達や光悦を参照しながら光琳デザインの営みを探ります。アプローチの異なる両展示、共通券の設定こそありませんが、事実上、二つで一つの企画展としても差し支えありません。
先行する「光琳アート 光琳と現代美術」はMOA美術館で2月4日から、「光琳デザインの秘密」は根津美術館で4月18日から開催されます。
「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」 MOA美術館
会期:2月4日(水)~3月3日(火)
休館:会期中無休。
時間:9:30~16:30 *入館は16時まで。
料金:一般1600円、65歳以上1200円、大学・高校生800円、中学生以下無料。
*団体割引1300円。
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
交通:JR線熱海駅8番乗り場より伊豆東海バスMOA美術館行にて終点下車。熱海駅よりタクシー5分。
「尾形光琳300年忌記念特別展 燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:4月18日(土)~5月17日(日)
休館:月曜日。但し5月4日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*5月12日(火)~5月17日(日)は午後7時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200円、学生1000円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引き。
*前売券は各100円引きにて販売。*販売期間:3/7~4/6
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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