都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「みちのくの仏像」 東京国立博物館
東京国立博物館・本館特別5室
「みちのくの仏像」
1/14-4/5
東京国立博物館・本館特別5室で開催中の「みちのくの仏像」を見て来ました。
東北6県に伝わる仏像を紹介する展覧会です。平安時代(9世紀)から江戸時代(17世紀)まで、いわゆる東北三大薬師(*)を含む、全19躯の仏像が展示されています。
一面を覆う鑿の跡に驚きました。岩手・天台寺の「聖観音菩薩立像」です。
重要文化財「聖観音菩薩立像」 平安時代・11世紀 岩手・天台寺
手や腕、顔を除いた身体のあちこちに鑿の跡が残されています。全て横向き、幅もほぼ一定です。規則正しく紋様を描く様は思いのほかに美しいもの。経典に「仏像を刻む鑿の音は功徳がある。」と言い伝えられていることから、それを半ば視覚化するために残されたとも考えられているそうです。
東北へ仏教が伝わったのは8世紀の半ばです。仙台に国分寺が置かれ、土着の神を取り込みながら独自の深化を遂げていきます。また山形の寒河江に藤原氏の荘園があったことから、当地では慶派といった都の仏師も活動しました。
国宝「薬師如来坐像」 平安時代・9世紀 福島・勝常寺
一木造も東北の仏像の特徴です。その中でも特に充実しているのが、福島・勝常寺の「薬師如来坐像」ではないでしょうか。東京では15年ぶりの公開です。堂々たる姿、ただし表情は心なしか穏やかです。おそらくは奈良の仏師が制作したと言われています。
重要文化財「薬師如来坐像」 平安時代・貞観4年(862) 岩手・黒石寺
三大薬師のもう一つ、岩手・黒石寺の「薬師如来坐像」も印象に残りました。目はやや釣り上がり、表情は険しい。威厳に満ちています。制作は862年です。7年後に東北を貞観地震が襲いました。そして振り返れば東日本大震災も貞観地震の再来と言われています。その時は台座からあと少しで落ちるところだったそうです。つまり二度の大地震を経験した仏像でもあります。
震災で被災した仏像も出ていました。宮城・双林寺の「二天立像」です。地震で「持国天」が転倒。「薬師如来坐像」の左腕に衝突し、ともに破損してしまいました。修復には2年かかったそうです。
「聖観音菩薩立像」 平安時代・10世紀 秋田・小沼神社
不思議な出立ちの仏像と出会いました。秋田・小沼神社の「聖観音菩薩立像」です。肩ははっているものの、総じて細身で、腰はかなりくびれています。またどこか親近感を抱くようなお顔立ちも個性的ですが、ともかくは頭の上のコブに注目です。というのも可愛らしいおかっぱの子どものような像がのっています。キャプションにも記載がありましたが、確かに雪童子、ようは雪ん子のようでもありました。
一際大きな仏様です。宮城・給分浜観音堂の「十一面観音菩薩立像」は高さ3メートル近くもあります。
くっきりとした目鼻立ちです。下から見上げると逞しいまでの風格を感じますが、この仏像はそもそも牡鹿半島から海を見下ろす形で安置されていました。
仏像のあったお堂は海岸から僅か100メートルほどに過ぎません。ただし高台のために津波の被害を免れました。なお震災時には、お堂へ多くの人々が避難してきたそうです。
「釈迦如来立像」 円空作 江戸時代・17世紀 青森・常楽寺
円空仏が3躯出ていました。彼が東北の地にやって来たのはまだ30代。仏像の制作を始めた頃です。後期の荒々しい作風とは異なり、造形は細かく、表面も平に整えられています。ただそれでもお顔は笑みを浮かべています。円空仏ならではの和やかな表情をしていました。
素朴ながらも味わい深い東北の仏様。険しさの中にも親しみを感じるのは何故のことなのでしょうか。また鑿の痕跡や木目を活かした作品も多く、作り手の素材の木に対する強い関心、意識も垣間見えました。
展覧会が始まってからまだ1ヶ月も経っていませんが、会場内は予想以上に賑わっていました。
*東北三大薬師
黒石寺(岩手県)、勝常寺(福島県)、双林寺の「薬師如来像」。いずれも一木造。一つの会場で展示されるのは今回が初めてだそうです。
本館の手狭な特5室での展示です。ひょっとすると後半はかなり混雑してくるかもしれません。早めの観覧をおすすめします。
「みちのくの仏像/別冊太陽/平凡社」
4月5日まで開催されています。
「みちのくの仏像」 東京国立博物館・本館特別5室(@TNM_PR)
会期:1月14日(水)~4月5日(日)
時間:9:30~17:00。但し3月6日(金)~4月3日(金)の金曜日は20時まで、4月4日(土)、5日(日)は18時まで開館。
休館:月曜日。但し3月23日(月)、30日(月)は17時特別開館。
料金:一般1000(900)円、大学生700(600)円、高校生400(300)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「みちのくの仏像」
1/14-4/5
東京国立博物館・本館特別5室で開催中の「みちのくの仏像」を見て来ました。
東北6県に伝わる仏像を紹介する展覧会です。平安時代(9世紀)から江戸時代(17世紀)まで、いわゆる東北三大薬師(*)を含む、全19躯の仏像が展示されています。
一面を覆う鑿の跡に驚きました。岩手・天台寺の「聖観音菩薩立像」です。
重要文化財「聖観音菩薩立像」 平安時代・11世紀 岩手・天台寺
手や腕、顔を除いた身体のあちこちに鑿の跡が残されています。全て横向き、幅もほぼ一定です。規則正しく紋様を描く様は思いのほかに美しいもの。経典に「仏像を刻む鑿の音は功徳がある。」と言い伝えられていることから、それを半ば視覚化するために残されたとも考えられているそうです。
東北へ仏教が伝わったのは8世紀の半ばです。仙台に国分寺が置かれ、土着の神を取り込みながら独自の深化を遂げていきます。また山形の寒河江に藤原氏の荘園があったことから、当地では慶派といった都の仏師も活動しました。
国宝「薬師如来坐像」 平安時代・9世紀 福島・勝常寺
一木造も東北の仏像の特徴です。その中でも特に充実しているのが、福島・勝常寺の「薬師如来坐像」ではないでしょうか。東京では15年ぶりの公開です。堂々たる姿、ただし表情は心なしか穏やかです。おそらくは奈良の仏師が制作したと言われています。
重要文化財「薬師如来坐像」 平安時代・貞観4年(862) 岩手・黒石寺
三大薬師のもう一つ、岩手・黒石寺の「薬師如来坐像」も印象に残りました。目はやや釣り上がり、表情は険しい。威厳に満ちています。制作は862年です。7年後に東北を貞観地震が襲いました。そして振り返れば東日本大震災も貞観地震の再来と言われています。その時は台座からあと少しで落ちるところだったそうです。つまり二度の大地震を経験した仏像でもあります。
震災で被災した仏像も出ていました。宮城・双林寺の「二天立像」です。地震で「持国天」が転倒。「薬師如来坐像」の左腕に衝突し、ともに破損してしまいました。修復には2年かかったそうです。
「聖観音菩薩立像」 平安時代・10世紀 秋田・小沼神社
不思議な出立ちの仏像と出会いました。秋田・小沼神社の「聖観音菩薩立像」です。肩ははっているものの、総じて細身で、腰はかなりくびれています。またどこか親近感を抱くようなお顔立ちも個性的ですが、ともかくは頭の上のコブに注目です。というのも可愛らしいおかっぱの子どものような像がのっています。キャプションにも記載がありましたが、確かに雪童子、ようは雪ん子のようでもありました。
一際大きな仏様です。宮城・給分浜観音堂の「十一面観音菩薩立像」は高さ3メートル近くもあります。
くっきりとした目鼻立ちです。下から見上げると逞しいまでの風格を感じますが、この仏像はそもそも牡鹿半島から海を見下ろす形で安置されていました。
仏像のあったお堂は海岸から僅か100メートルほどに過ぎません。ただし高台のために津波の被害を免れました。なお震災時には、お堂へ多くの人々が避難してきたそうです。
「釈迦如来立像」 円空作 江戸時代・17世紀 青森・常楽寺
円空仏が3躯出ていました。彼が東北の地にやって来たのはまだ30代。仏像の制作を始めた頃です。後期の荒々しい作風とは異なり、造形は細かく、表面も平に整えられています。ただそれでもお顔は笑みを浮かべています。円空仏ならではの和やかな表情をしていました。
素朴ながらも味わい深い東北の仏様。険しさの中にも親しみを感じるのは何故のことなのでしょうか。また鑿の痕跡や木目を活かした作品も多く、作り手の素材の木に対する強い関心、意識も垣間見えました。
展覧会が始まってからまだ1ヶ月も経っていませんが、会場内は予想以上に賑わっていました。
*東北三大薬師
黒石寺(岩手県)、勝常寺(福島県)、双林寺の「薬師如来像」。いずれも一木造。一つの会場で展示されるのは今回が初めてだそうです。
本館の手狭な特5室での展示です。ひょっとすると後半はかなり混雑してくるかもしれません。早めの観覧をおすすめします。
「みちのくの仏像/別冊太陽/平凡社」
4月5日まで開催されています。
「みちのくの仏像」 東京国立博物館・本館特別5室(@TNM_PR)
会期:1月14日(水)~4月5日(日)
時間:9:30~17:00。但し3月6日(金)~4月3日(金)の金曜日は20時まで、4月4日(土)、5日(日)は18時まで開館。
休館:月曜日。但し3月23日(月)、30日(月)は17時特別開館。
料金:一般1000(900)円、大学生700(600)円、高校生400(300)円。中学生以下無料
*( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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