都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
2015-01-09 / 映画
Bunkamuraル・シネマほか
「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
1/17-

映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」の試写会に参加してきました。
1月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか、全国順次公開予定の映画、「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」。
舞台は言うまでもなくロンドンの中心部、トラファルガー広場に面した「ナショナル・ギャラリー」です。英国初の国立美術館として1824年に開館。現在ではルネサンスやフランドル絵画、それに印象派から近代絵画など2300点余のコレクションを有しています。
そのナショナル・ギャラリーの全貌に迫った映画です。監督は「第71回ヴェネチア国際映画祭」で栄誉金獅子賞を受賞したフレデリック・ワイズマン。構想段階を含めると30年越しの企画です。制作に際しても3ヶ月間にわたって美術館に潜入、取材を行いました。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
冒頭に映し出されるのは静まりかえった美術館内。すると遠くから物音が聞こえてきました。掃除機のうなり声です。開館前でしょうか。一般の観客が入り込めない開館前、その意味では館の裏側です。その姿を何ら包み隠すことなく見せています。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
開館です。ナショナル・ギャラリーは英国を代表する美術館、老若男女問わず、年間500万名もの人々が訪れます。観客らはさも感心したように頷きながら、ある時には怪訝そうに首をひねりながら、絵画の前で立ち止まり、または過ぎ去っていきます。その姿は千差万別です。中には疲れたように椅子に座り込む人もいます。絵画に同じ作品が一点とないのと同様、観客の絵に対するスタンスも一つとして同じものはありません。
ギャラリートークが始まりました。スタッフは身振り手振りを交えて熱心に絵について語り出します。実に雄弁です。冒頭であれほど静寂に包まれていた美術館は、いつしか観客の出す足音や物音、さらにはギャラリートークの声も巻き込み、大いに活気を帯びていきました。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
館の裏側へ潜り込んだワイズマン、会議室で館長と話し合うスタッフの様子までも捉えています。観客のニーズにどこまで寄りそうべきなのか、また外部のイベントにどれほど関わるべきなのかについて議論は沸騰。互いに遠慮はありません。喧々諤々、時に鋭く対立してぶつかり合います。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
一方で修復家たちの地道な活動も重要です。X線で作品調査をするスタッフや、額縁の制作家の活動を丹念に追いかけています。また展示室の設営、照明のスタッフも登場。ワークショップでしょうか。ヌードデッサンに取り組む人たちの姿も記録しています。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
映画においてナレーションは一切入らず、例えば登場する人物に対しての説明もありません。ただし彼ら彼女らはギャラリートークに会議しかり、いずれも何らかの「声」をあげています。それをワイズマンは驚くほど丁寧に拾い上げています。つまり我々見る側は「声」を聞くことで、美術館の置かれている状況を知ることが出来るわけです。
もちろんナショナル・ギャラリーの誇る名画群もじっくりと紹介しています。ファン・エイクやレオナルド、カラヴァッジョにベラスケスからルーベンス。「岩窟の聖母」しかり、誰もが知る作品も少なくありません。また美術館内で行われたピアノリサイタルやバレエのシーンも目を引きました。
ただしそれでもワイズマンの視点は美術館の中の人々に強く向けられていると言えるでしょう。清掃員、教育プログラムの講師、修復師、学芸員、ガイド、それに館長。主人公は美術館のスタッフ全員です。美術館の歴史や価値は何も作品のみが作り上げているわけではありません。

「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」特別試写会&トークセッション 12月23日(火・祝) 国立西洋美術館
試写会を終えた後は、馬渕明子氏(国立西洋美術館館長)、岩井希久子氏(絵画保存修復家)、寺島洋子氏(国立西洋美術館 教育普及室長)、新藤淳氏(国立西洋美術館 研究員)の4氏を迎えての簡単なトークセッションがありました。
うち興味深かったのが、馬渕館長が「この映画を見ると日本の美術館に何が足りないか分かる。」と述べられたことです。また新藤氏も「まず美術館の中にあれほど多様な『声』があるのに驚いた。」と話し、岩井氏も「ナショナル・ギャラリーは世界で初めて修復を体系化した美術館。そもそも日本の国公立美術館には修復部門がない。」との発言をされました。
つまり日本の立場から見ればナショナル・ギャラリーは色々な意味で恵まれた美術館とも言えるわけです。とすれば逆に映画を見ることで、日本の美術館の問題点や学ぶべき点も浮かび上がってきます。新藤氏の「日本の美術館はあれほど充実していない。我々も美術館をもっと良くするために議論をするべきだ。」という言葉も胸に響きました。
なおトークの詳細は映画の公式フェイスブックにまとまっています。そちらもあわせてご覧下さい。
ナショナル・ギャラリー 英国の至宝 | Facebook(トークセッションレポート)
上映は全3時間。映画としてやや長い部類ではあります。ただこの巨大な美術館の中にある多様な「声」を拾うのにはひょっとすると3時間ですら足りないのかもしれません。かつてこれほど美術館に正面から向き合った映画があったのでしょうか。まさにドキュメンタリーの極致ともいうべき作品でした。
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』予告編
映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」。1月17日(土)より東京・渋谷のBunkamura ル・シネマのほか、全国の映画館で上映されます。(劇場公開情報)
「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」(@treasuremovie)
監督・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
出演:ナショナル・ギャラリーのスタッフのほか、エドワード・ワトソン&リアン・ベンジャミン(英国ロイヤル・バレエ団)
原題:National Gallery
製作年:2014年
製作国:フランス・アメリカ合作(英語)
時間:181分
日本語字幕:金関いな
後援:英国政府観光庁
配給:セテラ・インターナショナル
「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」
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映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」の試写会に参加してきました。
1月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか、全国順次公開予定の映画、「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」。
舞台は言うまでもなくロンドンの中心部、トラファルガー広場に面した「ナショナル・ギャラリー」です。英国初の国立美術館として1824年に開館。現在ではルネサンスやフランドル絵画、それに印象派から近代絵画など2300点余のコレクションを有しています。
そのナショナル・ギャラリーの全貌に迫った映画です。監督は「第71回ヴェネチア国際映画祭」で栄誉金獅子賞を受賞したフレデリック・ワイズマン。構想段階を含めると30年越しの企画です。制作に際しても3ヶ月間にわたって美術館に潜入、取材を行いました。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
冒頭に映し出されるのは静まりかえった美術館内。すると遠くから物音が聞こえてきました。掃除機のうなり声です。開館前でしょうか。一般の観客が入り込めない開館前、その意味では館の裏側です。その姿を何ら包み隠すことなく見せています。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
開館です。ナショナル・ギャラリーは英国を代表する美術館、老若男女問わず、年間500万名もの人々が訪れます。観客らはさも感心したように頷きながら、ある時には怪訝そうに首をひねりながら、絵画の前で立ち止まり、または過ぎ去っていきます。その姿は千差万別です。中には疲れたように椅子に座り込む人もいます。絵画に同じ作品が一点とないのと同様、観客の絵に対するスタンスも一つとして同じものはありません。
ギャラリートークが始まりました。スタッフは身振り手振りを交えて熱心に絵について語り出します。実に雄弁です。冒頭であれほど静寂に包まれていた美術館は、いつしか観客の出す足音や物音、さらにはギャラリートークの声も巻き込み、大いに活気を帯びていきました。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
館の裏側へ潜り込んだワイズマン、会議室で館長と話し合うスタッフの様子までも捉えています。観客のニーズにどこまで寄りそうべきなのか、また外部のイベントにどれほど関わるべきなのかについて議論は沸騰。互いに遠慮はありません。喧々諤々、時に鋭く対立してぶつかり合います。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
一方で修復家たちの地道な活動も重要です。X線で作品調査をするスタッフや、額縁の制作家の活動を丹念に追いかけています。また展示室の設営、照明のスタッフも登場。ワークショップでしょうか。ヌードデッサンに取り組む人たちの姿も記録しています。

© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.
映画においてナレーションは一切入らず、例えば登場する人物に対しての説明もありません。ただし彼ら彼女らはギャラリートークに会議しかり、いずれも何らかの「声」をあげています。それをワイズマンは驚くほど丁寧に拾い上げています。つまり我々見る側は「声」を聞くことで、美術館の置かれている状況を知ることが出来るわけです。
もちろんナショナル・ギャラリーの誇る名画群もじっくりと紹介しています。ファン・エイクやレオナルド、カラヴァッジョにベラスケスからルーベンス。「岩窟の聖母」しかり、誰もが知る作品も少なくありません。また美術館内で行われたピアノリサイタルやバレエのシーンも目を引きました。
ただしそれでもワイズマンの視点は美術館の中の人々に強く向けられていると言えるでしょう。清掃員、教育プログラムの講師、修復師、学芸員、ガイド、それに館長。主人公は美術館のスタッフ全員です。美術館の歴史や価値は何も作品のみが作り上げているわけではありません。

「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」特別試写会&トークセッション 12月23日(火・祝) 国立西洋美術館
試写会を終えた後は、馬渕明子氏(国立西洋美術館館長)、岩井希久子氏(絵画保存修復家)、寺島洋子氏(国立西洋美術館 教育普及室長)、新藤淳氏(国立西洋美術館 研究員)の4氏を迎えての簡単なトークセッションがありました。
うち興味深かったのが、馬渕館長が「この映画を見ると日本の美術館に何が足りないか分かる。」と述べられたことです。また新藤氏も「まず美術館の中にあれほど多様な『声』があるのに驚いた。」と話し、岩井氏も「ナショナル・ギャラリーは世界で初めて修復を体系化した美術館。そもそも日本の国公立美術館には修復部門がない。」との発言をされました。
つまり日本の立場から見ればナショナル・ギャラリーは色々な意味で恵まれた美術館とも言えるわけです。とすれば逆に映画を見ることで、日本の美術館の問題点や学ぶべき点も浮かび上がってきます。新藤氏の「日本の美術館はあれほど充実していない。我々も美術館をもっと良くするために議論をするべきだ。」という言葉も胸に響きました。
なおトークの詳細は映画の公式フェイスブックにまとまっています。そちらもあわせてご覧下さい。
ナショナル・ギャラリー 英国の至宝 | Facebook(トークセッションレポート)
上映は全3時間。映画としてやや長い部類ではあります。ただこの巨大な美術館の中にある多様な「声」を拾うのにはひょっとすると3時間ですら足りないのかもしれません。かつてこれほど美術館に正面から向き合った映画があったのでしょうか。まさにドキュメンタリーの極致ともいうべき作品でした。
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』予告編
映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」。1月17日(土)より東京・渋谷のBunkamura ル・シネマのほか、全国の映画館で上映されます。(劇場公開情報)
「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」(@treasuremovie)
監督・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
出演:ナショナル・ギャラリーのスタッフのほか、エドワード・ワトソン&リアン・ベンジャミン(英国ロイヤル・バレエ団)
原題:National Gallery
製作年:2014年
製作国:フランス・アメリカ合作(英語)
時間:181分
日本語字幕:金関いな
後援:英国政府観光庁
配給:セテラ・インターナショナル
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