奈良原一高「消滅した時間」 東京国立近代美術館 7/10

東京国立近代美術館(千代田区北の丸公園)
常設展示3階写真コーナー
「奈良原一高 消滅した時間」
6/7~7/18

東京国立近代美術館の常設展示「写真コーナー」では、今、奈良原一高の「消滅した時間」が特集されています。奈良原が1970年からアメリカで暮らした4年間に撮影されたという一連の写真シリーズは、モノクロでシャープな味わいを感じさせながらもどこか刹那的で、旅愁すら誘うようです。

「砂漠を走る車の影」(1971年)は、彼がアリゾナ砂漠で車を走らせながら撮影した作品です。車の廻りを包み込むようにして大きく伸びるの光と影の美しさ。どことなく幻想的な空間が形成されています。一見、砂漠の無機質で乾いた風景の中にも、一瞬の光の輝きや影の移ろいが多く点在し、その大自然への畏怖の念を込めながら作品を提示しているようにも思えました。神秘的な作品でもあります。

「インディアン村の二つのゴミ缶」(1972年)は、二つの缶が空中に浮いている奇妙な作品ですが、作品中の建物や雲が、全て遠方の一点へ集められているような独特の構図感も持っています。現実ではないあり得ない空間。そこに超現実を見るのか、それともまた別の世界観を見出すのかは、見る側によって変わってきそうです。一瞬、マグリットの作品を連想させました。

美術館の2階にあるアートライブラリでは、「消滅した時間」の写真集を実際に見ることができるのだそうです。日曜日は休室なので残念ながら拝見できませんでしたが、今度行った際は是非見てこようと思いました。
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アンサンブル・モデルン・アカデミー・コンサート

先日、「イスラエル美術の兆し展」を見るためにトーキョーワンダーサイトへ出向いたところですが、そこで気になるコンサートの告知を見つけました。

インターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミー・コンサート
日時:2005年7月15日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:東京文化会館小ホール 
料金:全席自由3000円
出演:IEMA受講生+アンサンブル・モデルン
演奏が予定される作品・作曲家:
若手作曲家(IEMA受講生)による作品
スティーブ・ライヒ Steve Reich
ヘルムート・ラッヘンマン Helmut Lachenmann
ジョルジ・リゲティ Gyorgy Ligeti
原田敬子 Keiko Harada(IEMA招待作曲家)


ワンダーサイトで、9日から14日まで開催されるというIEMA。(インターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミー)今回のコンサートは、その成果発表の場として設けられたようです。アンサンブル・モデルン自体の公演は、6月にオペラシティで終了していますが、アカデミー・コンサートとは言え、大好きなスティーブ・ライヒが格安で聴けるなんてとても気になります。ぴあによればまだチケットも余っているようです。都合を合わせて是非行ってみようと思います。

「アンサンブル・モデルン」
1980年、自主運営のアンサンブルとして設立。年間100公演、初演20曲という驚くべきペースで20、21世紀の音楽を集中的紹介。演奏水準の高さと優れた現代作品に特化したプログラミンで世界をリードする。(アリオン音楽財団より。)
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「奇怪さ」への魅力 プロコフィエフの第五交響曲を聴く

第1546回N響定期公演 生中継 NHK-FMベストオブクラシック(7/8 19:00~)

曲 プロコフィエフ/交響曲第五番作品100

指揮 アンドレイ・ボレイコ
演奏 NHK交響楽団

今日の「ベストオブクラシック」は、N響C定期の生中継でした。ソリストにN響主席奏者の横川さんを迎えて、モーツァルトのクラリネット協奏曲なども演奏されたそうですが、時間の都合で最後のプロコフィエフだけを聴きました。

ところでプロコフィエフは、「偏食」の私にとって全く馴染みのない作曲家です。第五番は、「古典交響曲」などと並ぶ名作として知られていますが、恥ずかしながら殆ど聴いたことがありません。指揮のアンドレイ・ボレイコ氏も初めて聴く方です。新鮮な気持ちで音楽に耳を傾けてみました。

第五交響曲で大変印象的だったのは、曲想の目まぐるしい変化が生む、全体の奇想天外な構成感です。金管がティンパニの下支えと共に堂々と鳴らされたかと思いきや、いつの間にやらマーチ風の親しみやすいメロディーが登場し、まるで音楽中に「劇」が始まったかのように語り口調で話しかけてきます。最終楽章での派手なコーダは突如室内楽の様相を呈し、妙な後味を残しながら音像が消えていきます。とは言え、メロディーはどれも人懐っこい表情で、ショスタコーヴィチのような「あえて大げさに構えた深刻さ」よりも、むしろ諧謔性を思わせるフレーズが散見させられます。奇妙な魅力を感じました。

アンドレイ・ボレイコは、ロシア生まれの「俊英」の指揮者として紹介されていました。私が一番感銘したのは、ちょっとしたことで破綻しそうな、ある意味危なっかしいこの曲を、堅牢な構成感で整えながらも、決して窮屈な表情に陥らさせないで聴かせることです。低音部は端正にリズムを刻み、ヴァイオリンは機動的にその上を駆け巡らせ、全体の調和をハッキリと提示します。派手さこそないものの、木管の受け渡しへの細やかな配慮など、丁寧な仕事ぶりを感じさせます。N響の喰らいつきも見事でしたが、是非他の曲でも聴いてみたい方だと思いました。(これは私の好きなタイプの指揮者です。)

前半のモーツァルト、または、一曲目のオラスの「沈黙の王国」は、どのような演奏だったのでしょうか。残念ながら明日の公演には出向くことができませんが、ホールで聴くべきだったと思うほどの好演でした。
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「ルオーと白樺派」 松下電工汐留ミュージアム 7/3

松下電工汐留ミュージアム(港区東新橋)
「ルオーと白樺派 近代日本のルオー受容」
5/21~7/10

つい先日まで、木場のMOTにて大規模なルオー展が開催されていましたが、汐留にある松下電工のミュージアムでも、テーマをしぼったルオーの展覧会が開かれています。明治末期から大正期にかけて、文学の一潮流であった「白樺派」が特に敬愛したというルオー。当時の日本へのルオーの受容過程を軽く概観しながら、改めてルオーの魅力へ迫っていくという内容です。主に清春白樺美術館と、このミュージアムが所蔵する作品で構成されていました。

前回、現代美術館でルオーを見た時は、色彩の美しさに魅了されながらも、深い宗教性を思わせる表現に、やや突き放されるような印象も受けたのですが、今回は二度目だからか、宗教性云々と言うよりも、作品そのものの魅力にすっと入り込むことができました。鮮やかで力強いタッチと、大胆な配色の中に光る黄色が美しい「曲馬師」(1940-49頃)や、可愛らしい犬と戯れる踊り子の健気な様子が素晴らしい「踊り子と白い犬」(1920-29)、または、一際大きなカンヴァスに黒と赤の対比を見せながら、作中人物の顔に感情や思索を巧みに表現する様が見事な「法廷」(1909年)などは、どれもルオーの強い筆の力を感じさせます。

私が一番惹かれた作品は「マドレーヌ」(1956年)でした。一目見ただけでも黄色やオレンジ色などの、極めて華やかで明るい色彩感に驚かされますが、ルオーの被写体への愛情も汲み取れるような作品でもあります。くっきりと迷いを見せない太いタッチで描いた大きな眼を持つ女性。その瞳や表情からは強い意志すら感じさせます。これは必見です。

ルオー以外の作品では、土の匂いすら漂ってきそうな深い質感を思わせる岸田劉生の「代々木風景」(1913年)や、藍色のトーンでパリの風景を美しくまとめた梅原龍三郎の「ノートルダム」(1921年)などに惹かれました。また、武者小路実篤の有名な「自画像」(1956年)なども展示されていて、これもなかなか見応えがありました。

松下電工汐留ミュージアムへは初めて行きました。汐留の超高層ビル街「シオサイト」の中では最も銀座よりに位置する、松下電工東京本社ビルの4階にあります。ミュージアムの入口のすぐ隣には松下電工の総合受付があり、休日に出向いたにもかかわらず、何やら「仕事モード」の漂う場所ではありましたが、真新しい館内は隅々まで整備されていて快適です。元々、ルオーをコレクションしていることもあってか、今年の12月には「ルオーと音楽」という展覧会も予定されていました。次の日曜日までの開催です。
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ヤナーチェクの恋の行方 弦楽四重奏曲第二番「ないしょの手紙」を聴く

フェルメール弦楽四重奏団演奏会 NHK-FMベストオブクラシック(7/6 19:20~)

曲 ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」
  ベートーヴェン/弦楽四重奏曲作品59「ラズモフスキー第1番」
  シューベルト/弦楽四重奏曲作品168から「第1、第2、第4楽章」

演奏 フェルメール弦楽四重奏団

最近、じっくりとクラシック音楽を聴くことが少ないのですが、今日は久しぶりに「ベストオブクラシック」に耳を傾けてみることにしました。録音は、今年四月、フェルメール四重奏団が紀尾井ホールで行った演奏会の模様で、ヤナーチェクなどの比較的有名な弦楽四重奏曲が三曲ほど演奏されていました。(シューベルトは時間の都合で第三楽章がカット。)

フェルメール弦楽四重奏団は、1969年のマールボロ音楽祭にて結成されたカルテットです。第一ヴァイオリンのシュミュエル・アシュケナージ以外のメンバーは、全て入れ替わって構成されています。(第二ヴァイオリンのタッケは、アンサンブル・モデルンから、またチェロのジョンソンはピッツバーグ響から加わったそうです。)私自身、このカルテットを聴くのは、CDを含めても初めてですが、チェロの硬めで力強い響きの上に、細めの線で美しく歌う二つのヴァイオリンがのせられて、温かみや響きの厚みを感じさせる音楽を聴かせてくれました。

最も興味深い演奏だったのは、一曲目のヤナーチェクの「ないしょの手紙」です。この曲は、ヤナーチェクの運命の女性とも言える、いわゆる「人妻」のカミラへ綴った手紙(十年間送り続けたそうですが。)に由来して作曲されたそうで、音楽もその彼の「恋心」を明け透けに見せるような表現が散見されます。メロドラマ風の甘いリズムから始まり、時には激しい求愛が、そしてまたある時には二人の愛が達成されることへの期待感を思わせるメロディーが折り重なって進みます。二人の愛の囁きのようなピアニッシモの美しい表現が聴こえてきたかと思いきや、突如破滅的な、想いを掻き乱されるような炸裂の響きが交錯し、ヤナーチェクの許されない恋が、これでもかと言う程哀愁を漂わせながら流れていきました。

フェルメールカルテットは、機敏で繊細な表情の味付けよりも、全体の響きの温かみの方により魅力を感じます。滑らかで艶やかとまではいきませんが、どのパートも比較的明晰な音で、音楽の構造をハッキリと示してくれたのは好印象でした。他の二曲では、「ラズモフスキー第一番」に軍配が上がると思います。シューベルトはもう一踏み込み欲しいように思いました。
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「イスラエル美術の兆し展」(東京会場) トーキョーワンダーサイト 7/3

トーキョーワンダーサイト(文京区本郷)
「イスラエル美術の兆し展 多文化社会に生きる」
6/10~7/3(会期終了)

先月、ヨコハマポートサイドギャラリーで見てきた「イスラエル美術の兆し展」の、東京での展覧会です。(その時の感想はこちら。)場所は本郷にあるワンダーサイト。ヤロン・レシェムとミリ・シガルの二作品の展示でした。

まず二階の展示室にあったのは、ヤロン・レシェムの「Village」です。暗い展示室には、横4メートル、縦1メートル弱はあろうかという大きな写真が、後ろからライトを当てられる形で飾られています。被写体は、一見しただけでは中東のどこかの村であることしか分かりませんが、随分と人気がなく、まるで廃墟のように佇んでいます。そして、良く目を凝らして見ると、建物のあちこちに人物や窓などがペイントされていました。一体何なのでしょうか。

これを解く鍵は、写真の左手奥に置かれていた一台のテレビの映像です。そこには、おそらくCNNと思われる、イラク戦争の従軍レポートが延々と流されています。そしてこのレポートの中に「写真の村」が登場してくるのです。つまり、村はイラク戦争によって「廃墟」となった場所でした。

レポートでは、記者が実際に村に入って、死体の転がる生々しい映像を伝えます。人気のなくなった村に、あえて生活感を思わせるペイントがなされているのは、この村の再生への期待なのか、それとも過去の賑わいへの追憶なのか…。ともかく「廃墟」の村に描かれた人間や窓は、写真の背後から照らされたライトに相まって、不気味な存在感を示していました。

もう一点、三階の展示室は、ミリ・シガルのビデオ・インスタレーション「Downcast Autumn Dale」です。中東を思わせる甘いメロディーと、心臓の鼓動のようなリズムが重なり合うBGMに合わせながら、スクリーンにはバスや車、それに人々が行き交う賑やかな街の様子が映し出されます。言葉が分からないので、映像を雰囲気でしか感じとれなかったのですが、スクリーンの前に張られた薄い水の幕に映像が反射して、二面の視点から鑑賞できるのは興味深い点でした。外国の見知らぬ街を彷徨う時に得られるような不安感などが上手く表されていたと思います。

ワンダーサイトでの展示は既に終了し、横浜会場も7日までとなっています。出品作家は全部で四名なので、わざわざ二つの会場に分ける程ではなかったかもしれません。(ワンダーサイトの全ての展示室に集めてしまった方が集客的にも良かったのではないかとも思いました。)作品の趣向や視点の斬新さはとても楽しめました。なかなか秀逸な現代美術の展覧会だったと思います。
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村山書店(神保町)

神保町の靖国通り沿いにある村山書店です。有名な店なのでご存知の方も多いと思います。元々、建築やカメラ関連の書籍では定評があって、一見理工系の専門店かと思ってしまいますが、意外と哲学や宗教、それに音楽関連の本が揃います。人文系でも必見の店です。

この店の最大の特徴は、新刊本が発売からかなり早い時期に店頭へ並ぶことです。値段は定価の約3割引程度ですが、神保町としてはなかなか良心的な価格設定ではないでしょうか。まだ、三省堂などでたくさん積まれているような話題の本なども安く手に入ることがあります。同じく神保町にある日本特価書籍とまではいきませんが、神保町の古本屋の中では、かなり新しめの本が手に入る店ではないでしょうか。

美術関連はまだまだといった感じですが、クラシック音楽や宗教に哲学、それに歴史関連はかなり充実しています。私も神保町へ出向いた際には必ず立ち寄りますが、新しい本を中心に掘り出し物が良く見つかる店です。(店頭の平台に並ぶ、岩波文庫の絶版本や、講談社学術文庫などは「神保町価格」ですが、たまに面白いものが見つかります。)

神保町の古本店は土・日が休みのところが多く、なかなか平日に足を運ぶのが難しいところですが、村山書店は基本的に年中無休で、日曜日も店を開けています。この辺は特に嬉しいです。

村山書店
千代田区神田神保町1-3
03-3291-1617
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7月の予定と6月の記録

7月の予定

 展覧会
  「イスラエル美術の兆し展(東京会場)」 トーキョーワンダーサイト(7/3まで)
  「ルオーと白樺派」 松下電工汐留ミュージアム(7/10まで)
  「写真はものの見方をどのように変えてきたか 第二部」 東京都写真美術館(7/18まで)
  「大木裕之展」 SCAI THE BATHHOUSE(7/23まで)
  「レオノール・フィニ展」 Bunkamuraザ・ミュージアム(7/31まで)
  「フィリップ・コレクション展」 森アーツセンターギャラリー(9/4まで)
  「フォロー・ミー! 新しい世紀の中国現代美術」 森美術館(9/4まで)
  「ドレスデン国立美術館展」 国立西洋美術館(9/19まで)  

 コンサート/映画
  未定です。

6月の記録(リンクは私の感想です。)

 展覧会
  4日 「コレクション展」 目黒区美術館
  4日 「ジェームス・アンソール展」 東京都庭園美術館
  11日 「北斎と広重展」 三越日本橋本店ギャラリー
  11日 「小林古径展(前期展示)」 東京国立近代美術館
  18日 「イスラエル美術の兆し展(横浜会場)」 ヨコハマポートサイドギャラリー
  18日 「ルーヴル美術館展」 横浜美術館
  19日 「広がりのある風景画」 山種美術館
  25日 「ハンス・アルプ展」 川村記念美術館
  25日 近・現代日本美術のあゆみ」 千葉市美術館

 コンサート
  7日 「新国立劇場2004/2005シーズン」 ベートーヴェン「フィデリオ」/ボーダー

 映画
  12日 「9日目」 ドイツ映画祭2005
  18日 「海が満ちる時」 フランス映画祭2005

今月の予定をたててみました。まだ、コンサートと映画の予定がありませんが、何か面白そうなものがあれば行ってみたいと思っています。美術展の「ドレスデン」や「フィリップ」は言うまでもなく話題の展覧会です。「古径展」の後期展示と合わせてなるべく早めに足を運ぶ予定です。

6月も盛りだくさんでした。ベストはやはり「古径展」でしょうか。また、「アンソール」と久々の川村での「アルプ展」も楽しめました。映画は「9日目」が深く印象に残っています。

それでは今月もよいものに出会えますように…。
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