「第8回 shiseido art egg 古橋まどか展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第8回 shiseido art egg 古橋まどか展」 
3/7-3/30



資生堂ギャラリーで開催中の「第8回 shiseido art egg 古橋まどか展」を見て来ました。

「日用品を美術品に見立て、美術が成立する場や枠組みを検証しています。」(ギャラリーサイトより)

それこそ昨今、作品の素材に身近な日用品が使われることは珍しくもありませんが、素材そのものを美術に見立てることに、今回ほどダイレクトに挑戦した作家もそう滅多にいないかもしれません。

1983年に長野で生まれた古橋まどかは、2013年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート美術修士の課程を修了。帰国後、この資生堂にて日本では初めてとなる個展を開きました。



それにしてもメインのフロア、何やら鎮座するのは古びた家具に電気製品。それに絵筆などもあります。また園芸用の棚でしょうか。スチール製の階段のようなものもある。それらは何も散乱しているわけではありません。そっと寄り添い、また上に載って組み合わさり、さらには床面へと広がっていく。ともかくも相互に接して出来た何らかの一つのボリューム、言い換えればオブジェを形成しています。

何でもこれらはいずれも作家が祖母の家で見つけたものだそうです。電気ポットや小さな木製の椅子には祖母の思い出も詰まっているのでしょうか。しかし当然ながら見る側の我々にとっては伺い知ることも出来ません。



もう一つの小さなスペースも同様です。壁面にはカーテンが吊るされ、また同じように古びた日用品が置かれている。今度は壁に立て掛ける形式です。椅子の四角。そしてコードを巻く機器でしょうか。その円。さらには上に載る鉛筆。手前の床へは洗濯バサミ5~6個ほど置かれている。不思議とこちらはどことなく型としての面白さを感じます。とは言え、これもおそらく祖母の家のもの。やはり日用品に過ぎません。

作家はこうも述べています。

「陳列された品々が、清掃員のみなさまにとって、一掃に値するようであれば、それは、実に真っ当な批評ではありませんか。」

これを見て先月イタリアの美術館で起きたとある事件を思い出しました。

【EU発!Breaking News】美術館の清掃係、現代美術作品をゴミと間違え処分する。



今、一体自分は何を目の前にしているのか。そこに何らかの「美」を意識するのかもしれないし、そうでないのかもしれない。古橋はデュシャンの「レディ・メイド」や、いわゆる「用の美」でもある民藝運動も引込んでいます。率直なところ手強い展示ではありましたが、色々と考えさせるものはありました。

現代アートの祖マルセル・デュシャンを継ぐ、古橋まどかの精神(CINRA.NET)

なお本年度のアートエッグはこの古橋まどか展で終了です。また今回もいつものように会期後、3名の審査委員により「shiseido art egg賞」が選定。4月下旬にWEB上で発表されます。

私は最初の加納さんの展示が一番面白いと思いました。



【第8回 shiseido art egg 展示スケジュール】
加納俊輔展 1月10日(金)~2月2日(日)
今井俊介展 2月7日(金)~3月2日(日)
古橋まどか展 3月7日(金)~ 3月30日(日)

3月30日まで開催されています。

「第8回 shiseido art egg 古橋まどか展」 資生堂ギャラリー
会期:3月7日(金)~3月30日(日)
休館:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。

*写真は全て「第8回 shiseido art egg 古橋まどか展」の会場風景。撮影が可能でした。
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「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 目黒区美術館

目黒区美術館
「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 
2/15-3/30



目黒区美術館で開催中の「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」を見て来ました。

1902年に横浜に生まれ、東京美術学校に進学。後に渡欧。戦後はニューヨークにも渡り、「幽玄主義」と呼ばれる作風で注目を集めた画家、岡田謙三(1902-1982)。

「和」という言葉を用いて良いでしょうか。時に日本の伝統色を用いての色面構成。いわゆる抽象画ながらも独特の温かみがある。以前から私も漠然とながらも強く惹かれるものを感じていました。

知りませんでした。その岡田謙三、アトリエを目黒区の自由が丘に構えていたそうです。館蔵の岡田謙三コレクションを紹介します。


古茂田守介「裸婦1」1940年

さて本展、何も岡田謙三の回顧展というわけではありません。タイトルに「&」と続くように目黒区に所縁のある画家も展観する。と言うのも岡田が自由が丘にアトリエを築いた1929年以降、界隈には画家や彫刻家などの様々な芸術家が集まった。例えば海老原喜之助。岡田の隣接する家に住んでいたとか。また一緒に満州への写生旅行へ出かけた荻須高徳も目黒の中町の在住です。さらに時代は前後しますが、駒井哲郎や浜口陽三も目黒。ようはそうした芸術家たちの制作も合わせて見ていくわけです。


岡田謙三「5人」1949年

ではお目当ての岡田謙三から。出品は全10点です。時代は1936年から1980年代まで。ほぼ画業の全般に渡っているとして良いでしょう。初期は戦前の「セーヌ河」に「花売り」です。渡欧期に見たパリの風景に女性。端的に具象画です。また興味深いのは「五人」。こちらは戦後の展開です。女性をモチーフにしながらも、後に見られる色面分割が展開されている。ちなみに岡田は1950年に渡米。ニューヨークへと渡ってから抽象画へと転換します。彼の地での抽象表現主義に喚起されたに相違ありません。

興味深い作品と出会いました。1970年制作の「三つの四角形」です。後期の抽象画ですが、その周囲をエスキースが囲んでいる。これが面白い。何と和菓子屋の包装紙です。包装紙を三角形に切ったり、手で破ったりして、白いキャンバス面に貼付けている。コラージュと呼んで良いのでしょうか。そしてその画面が先の「三つの四角形」のような抽象画と響きあっている。隣に岡田のアトリエの写真がありましたが、同じように周囲にエスキースを並べ、中央にキャンバスを立てて向き合う姿が写されていました。


槻尾宗一「鉄花器」1957年

目黒の他の作家も挙げましょう。モダン・クラフトの分野で活躍したという槻尾宗一の立体、花器はどうでしょうか。素材は鉄です。円錐や円柱を組み合わせた造形。しかしながらどこか有機的でもある。キャプションには「昆虫」とありましたが、確かにそうした趣きもあるかもしれません。

飯田善國の「目黒川夜景」シリーズが目を引きます。全4点の油画。時代はいずれも1953年頃。言うまでもなく目黒川を表した風景画ですが、何せ筆致が独特。ゴッホとまでは言いませんが、分厚い画肌にうねるようなタッチ。それでいて直線を多用した幾何学的な構成も見られる。闇が支配する中、街灯でしょうか。仄かな明かりが点々と灯っています。


秋岡芳夫「大きな風」1950年 

後半はモダンダンス、そしてデザインへの展開です。1920年代に目黒に舞踏詩研究所を開設した石井漠、そして土方巽らの活動。さらにデザインでは本展に続く特集展示でも登場する秋岡芳夫の制作を紹介。1960年代前後のトランジスタラジオなどが登場します。何でも目黒は1950年代に早くも秋岡らをはじめとしたデザイナーらが集まっていたそうです。

また会場内の目黒区の地図パネルに各作家の居住地点が明示されているのもポイントです。実際、私は全く目黒に縁がなく、殆ど右も左も分かりませんが、こうした地図を見ればある程度は頭に入るもの。さらに細かいことですが、出品リストにも各作家や作品名とともに地域名が記されています。嬉しい配慮です。

ちなみに岡田謙三の展覧会としては1989年に目黒区美術館で、また没後20年の2003年に横浜美術館(他)でも回顧展があったそうです。

1989年はともかく、2003年もまだ私はそれほど強く美術に関心がなかった頃。今だったら必ず行ったに違いありませんが、当時は残念ながら見逃してしまいました。また大きな展示なりがあればと願うばかりです。

「画家・謙三とともに/岡田きみ/鹿島出版会」

主に所蔵品、一部館外品での展示。規模は小さめです。しかしながら岡田謙三を筆頭にして目黒の地域性、文化的活動を探る内容。ご当地ならではの企画だと感心しました。

3月30日まで開催されています。

「岡田謙三&目黒界隈のモダンな住人たち展」 目黒区美術館
会期:2月15日(土)~3月30日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
料金:一般500(400)円、大高生・65歳以上400(300)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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「観音の里の祈りとくらし展」にてブロガー内覧会が開催されます

東京藝術大学大学美術館で3月21日よりはじまる「観音の里の祈りとくらし展ーびわ湖・長浜のホトケたち」。



滋賀県は長浜市に残る18体の「観音像」を展観。琵琶湖北岸地域では度重なる戦乱や災害を逃れ、住民によって代々守られてきた観音像があった。「観音の里」の名の由来です。彼の地で今も受け継がれる観音信仰の歴史を紹介する展覧会でもあります。

その「観音の里の祈りとくらし展」にてSNSユーザー向けに内覧会が開催されます。

[東京藝術大学大学美術館 「観音の里の祈りとくらし展」ブロガー内覧会 開催概要]
・日時:2014年3月20日(木) 18:00~19:15
・会場:東京藝術大学大学美術館 展示室2(東京都台東区上野公園12-8)
・スケジュール
 18:00~18:20(予定) 展示解説:長浜城歴史博物館 太田副館長
 18:20(予定)~ 自由内覧会
 19:15 終了
・定員:30名
・参加費:無料(会場までの交通費はご負担下さい。)
・参加資格:美術展・文化・歴史等の情報をブログ、Faceboook、Twitterで発信されている方。
・申込方法:kannon2014@tm-office.co.jp までメールでの申込。
 1.ブログアドレス、2.Faceboookアカウント、3.Twitterアカウント(1~3のいずれか)と、連絡の取れるメールアドレス、お名前をご明記の上、メールをお送りください。
・申込締切:3月12日(水)まで。抽選の上、3月15日(土)までに、当選者のみ記載のメールアドレスに連絡します。



日時は展覧会開始前日の3月20日(木)の18時より。参加資格はブログ、Faceboook、Twitterアカウントをお持ちの方です。

[参加の特典]
「観音の里」で守られてきた仏様18体が、東京に集結!
奈良・平安時代から受け継がれる「湖北(滋賀県)の観音文化」を紹介する展覧会です。
今回、一般公開に先駆けて、ブロガー様向け特別内覧会を開催します。
当日は、企画担当者による展示作品の解説に加え、撮影も自由に行っていただけます。(三脚・ストロボはNGです。)

定員は30名。事前の抽選制です。3月15日(土)までに、当選者のみにメールで連絡があります。また当日は、長浜城歴史博物館の太田副館長によるレクチャーが行われる上、会場内の撮影も出来ます。(一部制限事項あり。)

それにしても今回の観音様は全て東京初出展。そもそも東京で琵琶湖周辺の仏像が紹介されることはあまり多くありません。内覧の開始は金曜の夜6時から。貸し切りイベントです。少し早めの時間でありますが、じっくりと観覧出来るチャンスではないでしょうか。

観音の里の祈りとくらし


展覧会の会場で流される動画もyoutubeにアップされました。また公式アカウント(@nagahama_kannon)が情報発信をこまめに行っています。要フォローです。

申込メール:kannon2014@tm-office.co.jp

申込の締切期限は3月12日です。まずは奮ってご応募下さい。

「観音の里の祈りとくらし展ーびわ湖・長浜のホトケたち」 東京藝術大学大学美術館
会期:3月21日(金・祝)~4月13日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 但し4月11日(金)は午後8時まで開館。 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、高校・大学生300(200)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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「伊藤幸久展ーあなたならできるわ」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「伊藤幸久展ーあなたならできるわ」 
2/28-4/12



LIXILギャラリーで開催中の伊藤幸久個展、「あなたならできるわ」を見て来ました。

「ロリータファッションの女の子をモチーフにしたテラコッタによる立体作品」(*)

下着姿でミルクを顔に垂らしてまでガブガブと飲む少女。その向うにはベットからずり落ち、手と顔を床になすりつけてまで寝る女の子がいる。

1981年に東京で生まれた伊藤幸久は、金沢美術工芸大学の美術工芸研究科の博士後期課程を満期退学。現在は同大学で非常勤講師をつとめながら、主に金沢で個展などを行ってきました。



私も初めて見ました。東京では二度目の新作個展です。ほぼ等身大の彫像。テラコッタでしょうか。いずれも陶で出来ている。乳白色のざらっとした質感、色は殆どありません。ホワイトキューブのガランとした展開される彼女たちのドラマ。互いに関することなく演じられる。奇妙な距離感です。独特の世界が広がっています。



やはり気になるのは牛乳を飲む少女です。まずは出立ち。先にも触れたようにほぼ裸。そして飲み方です。牛乳パックを両手で持ち、頭の上にまであげ、少し斜めの角度でたらし込む。口と牛乳パックが離れています。必然的に牛乳は口に入りきれず、あごから頬を伝って、首まで流れ出している。どこかシュールな印象さえ与えられます。



そして作品のタイトルもずばり「口付けたくないけどコップ使うのはいや」です。作家が述べるのは「生きる象徴として牛乳を飲むポーズ」(*)という言葉。ちなみに作品にはテキストも付くのだそうです。そこには如何なる物語があるのか。思わず色々と空想してしまいます。



出品は立体の計3点のみ。展示自体は至ってシンプルです。これを例えばホワイトキューブではなく古民家や洋館などで展示したらどう見えるだろうか。そうしたことも思いました。

4月12日まで開催されています。

*印は伊藤幸久展アートニュースより引用しました。また写真はいずれも伊藤幸久展の会場風景です。

「伊藤幸久展ーあなたならできるわ」 LIXILギャラリー
会期:2月28日(金)~4月12日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分。
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「世紀の日本画」(後期展示) 東京都美術館

東京都美術館
「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」
1/25-4/1 前期:1/25-2/25、後期:3/1-4/1



東京都美術館で開催中の「世紀の日本画」展の後期展示を見て来ました。

大正3年に再興した日本美術院の活動を追いかける。大観や春草らに始まって現代の画家まで。院展という括りこそあるものの、近代日本画の歴史を辿る展覧会でもあります。

「世紀の日本画」 東京都美術館(はろるど)*前期の感想です。

会期は前後期の完全2期制。後期は3月1日からのスタートです。作品は全て入れ替わりました。

では後期、まずは明治・大正期の名品を集めたセクションです。芳崖は「不動明王」から「悲母観音」へ。また前期ではここで出ていなかった大観が登場。「無我」と「屈原」が展示されていました。


狩野芳崖「悲母観音」明治21年(1888年) 東京藝術大学 *後期:3/1-4/1

リニューアル後の都美館の照明の効果もあったのでしょうか。「悲母観音」も「屈原」も際立って見えます。例えば「悲母観音」、それこそ芸大のコレクション展などでも見る機会がありますが、より発色良く映る。全体を覆う金色の輝き。また手の細い指を象る線描。そして着衣の透明感。うっすら水色を帯びています。見事です。


横山大観「屈原」明治31年(1898年) 厳島神社 *後期:3/1-4/1

また「屈原」は昨年の横浜美術館の大観展以来の鑑賞でしたが、こちらもやはり鮮やかです。鬼気迫る屈原。天心の姿に重ねあわせています。そして背景の不穏な気配。人物表現の細密な描写に対して草木は大胆な筆致で描かれている。ケースの写り込みも少なかったかもしれません。細部の細部までをじっくりと見ることが出来ました。


橋本雅邦「龍虎図屏風」明治28年(1895年) 静嘉堂文庫美術館 *後期:3/1-4/1

橋本雅邦の「龍虎図屏風」も目を引きます。静嘉堂文庫美術館所蔵の名品。都内では一号館美術館での「三菱が夢見た美術館」展以来の出品かもしれません。

もはや劇画調とも言える大胆な描写。触手のようにのびる波間から龍が飛び出し、風に煽られて大きく曲がる竹林を背に虎が対峙する。大きく口を開けて咆哮する姿。改めて感じたのは作品がどこか『立体的』であるということです。というのも例えば右隻から左隻へ迸る稲光、3Dとまでは言いませんが、奥から手前へ飛び出してくるような印象がある。渦を巻く波も同様。今度は手前から奥へ。左右の対比ではなく、空間としての前後の関係、言わば構図感にも見入るべき点があるのではないでしょうか。

小倉遊亀の「コーちゃんの休日」はどうでしょうか。院展では初めて女性の同人であった画家。両手をあげて横たわりながらポーズをとるモデル。宝塚の大スター越路吹雪です。紫の帯にストライプの着物。色の配置も巧みです。センスの良さが光ります。

また前田青邨では「京名所八題」が後半の4幅に入れ替わり。一番好きな先斗町が出ていました。縦の構図で連なる京町屋。瓦屋根が生むリズム感。小路には人々が多数行き交う。宴席の様子も垣間見える。いわゆる納涼床でしょうか。繁華街の賑わいが伝わって来ます。

小杉未醒の「山幸彦」。山幸彦と海幸彦の日本神話に取材した作品だそうですが、何でもシャヴァンヌに影響されていたとか。確かに片ぼかしと呼ばれる技法による色彩感は壁画、シャヴァンヌ画を彷彿させる面もある。福岡の石橋財団所蔵の作品。初めて見たかもしれません。

さて後半は歴史や花鳥、それに風景や人物、幻想といったテーマ別での展開です。例えば歴史では安田靫彦の「項羽」。敗北を悟った項羽と寄りそう虞美人の姿。悲嘆にくれている。鎧の金色が驚くほど鮮やかです。また背後に長城が描かれていますが、これは明代のものとのこと。後に画家が時代を誤ったとして後悔したというエピソードも残っているそうです。


前田青邨「芥子図屏風」昭和5年(1930年) 光ミュージアム *後期:3/1-4/1

一際目立つのが青邨の「芥子図屏風」です。都内ではおそらく明治神宮文化館の「和紙に魅せられた画家たち」(2011年)以来の展示ではないでしょうか。岐阜は光ミュージアム所蔵の屏風絵。6曲1双の大画面にはほぼ同じ高さの芥子だけが描かれる。右隻は満開。白い花をたくさん咲かせている。一方で左隻はほぼつぼみ。ぐっと首を垂れて横たわる先には紅色の花が2、3輪だけ咲いている。全体的にはそれこそ琳派の意匠を思わせるような展開。しかしながら目を凝らせば花の描写も精緻です。意外と写実的であることが分かります。

大パノラマです。石橋英遠の「道産子追憶之巻」は北海道立美術館の所蔵品です。全8面。長い長い絵巻物のような画面には、四季の北海道の自然と人々の生活が描かれています。まさに雄大の一言。広がるのは白樺の林。その向うには鹿の群れも。飛び交うのは赤とんぼです。また面白いのはラストの展開。火にあたり暖をとる男たちが描かれている。情緒的でもあります。

中ば衝撃的な一枚に出会いました。馬場不二の「松」です。モチーフは文字通りに松ですが、ともかく描写が変わっている。ボナール画を思い出しました。松は限りなく平面的でかつ装飾的。図案と言っても良いかもしれません。ちなみに画家の馬場、この頃に肺がんで安静を命じられながらも制作。何とか完成して会場に搬入したものの、会期中に亡くなってしまったそうです。つまり画家の遺作ということかもしれません。


速水御舟「比叡山」大正8年(1919年) 東京国立博物館 *後期:3/1-4/1

その他では速水御舟の「比叡山」も心に留まりました。いわゆる青の時代の作品です。一面の群青に沈む比叡山。山肌は思いの外にゴツゴツと隆起していて力強い。そして微かに後光が滲んでいる。まさしく霊峰です。また手塚雄二の「市民」は、西洋美術館のロダンの彫刻、「カレーの市民」に取材したものだそうです。雨の夜でしょうか。苦悩する男たちの群像。重々しい。暗がりにぼんやりと浮かび上がっていました。


小林古径「出湯」大正7年(1918年)/大正10年(1921年) 東京国立博物館 *後期:3/18-4/1

長くなりました。もちろんあまり惹かれない作品がないわけではありませんが、やはりこれほどのスケールで近代日本画を楽しめる機会もそう滅多にないもの。前後期を合わせて一つの展覧会です。堪能しました。

「自ら学び 革新せよ~日本画家たちの戦い」@NHK日曜美術館 再放送:3月23日(日)20時~ 出演:山口晃

*お知らせ*
本展のチケットが若干枚、手元にあります。お一人様一枚ずつ、先着順で差し上げます。ご希望の方は件名に「世紀の日本画展チケット希望」と明記の上、harold1234アットマークgoo.jp(アットマークの表記は@にお書き直し下さい。)までメールでご連絡下さい。なお迷惑メール対策のため、携帯電話のアドレスからは受け付けておりません。あらかじめご了承下さい。

会場内、現段階ではまだ余裕があるそうですが、最終盤にかけて混雑してくるかもしれません。金曜の夜間(20時まで開館)も狙い目となりそうです。

「近代日本の画家たちー日本画・洋画美の競演/別冊太陽/平凡社」

4月1日まで開催されています。

「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月25日(土)~4月1日(火)
 前期:1月25日(土)~2月25日(火)、後期:3月1日(土)~4月1日(火)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。2月26日(水)~28(金)。但し2月24日(月)、3月31日(月)は開館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「島からのまなざし」 東京都美術館

東京都美術館
「島からのまなざし なぜ今、アーティストは島へ向かうのか」
2/19-3/7



2001年に開館したトーキョーワンダーサイト。早10年です。比較的若い世代の若手のアーティストを支援。これまでにも様々な形で作品を公開してきました。

本展のテーマはずばり「島」です。島を描き、島に滞在する。島に因んだ作品を発表する6名のアーティストを紹介します。

[出品作家]
池田晶紀、大小島真木、小松敏宏、林千歩、村上佳苗、吉田夏奈

会場内、撮影が可能でした。簡単で恐縮ですが、展示の様子を追ってみたいと思います。


小松敏宏「アーキペラコ」2014年 ガラス瓶、海水

まず床面に積まれたガラス瓶。小松敏宏の「アーキペラコ」。会場中央で何やらランドスケープを描くかのように広がる。一体何個あるのでしょうか。


小松敏宏「アーキペラコ」2014年 ガラス瓶、海水

そして瓶には水が入っている。何でも瀬戸内海で採取した海水なのだそうです。それを群島状に配する。どうでしょうか。かつて一度、瀬戸内海をフェリーで渡った時の景色を思い出しました。確かに瀬戸内海で無数に浮かぶ小島のようにも見えます。


村上佳苗「この島に生きること」2013年 ミクストメディア

村上佳苗の「この島に生きること」。これまた瀬戸内海の大三島に取材したもの。島民との共同制作で出来た作品です。


村上佳苗「還る地」2014年 キャンバス、油彩

「還る地」も目を引きます。黒を背景に浮かぶ丸い岩のような島。足元にはうねる波。その合間を人が歩いている。七色に光るのは虹なのでしょうか。空を飛んでいる人もいる。黒は宇宙の闇。とすると島はあたかも惑星のようでもあります。


吉田夏奈「城山日出峰の目」2012年 紙にオイルパステル、クレヨン

さて実際に島に移住して制作しているのが吉田夏奈。あざみ野コンテンポラリーやリクシルギャラリー他、このところ個展やグループ展を見る機会の多い作家です。私も惹かれたのはそれらの展示。依然として強く印象に残っていますが、今回は平面作品のみの展開です。単純に量的な面からすると少し物足りなかったかもしれません。


大小島真木「星の歌」(壁画)2012年 鉛筆、色鉛筆、クレヨン、紙、パネル他

今回一番好きな展示を挙げるとすれば大木島真木です。とりわけ大作の「星の歌」はなかなかの迫力。南国を思わせる密林。中央には大きな大木がそびえる。目を凝らすと何やら得体の知れない生物がいる。そして下部には鳥の羽。タッチも色彩も繊細です。さながら原始の森。そうしたイメージもわいてきました。


林千歩「You are beautiful」2011年 ビデオ、絵画、立体など

林千歩のインスタレーションが強烈です。小豆島に滞在しての作品とありましたが、映像にレリーフ状の平面も大変な存在感。まさに異彩を放っていました。

「島からのまなざし」@トーキョーワンダーサイト

ワンダーサイトの企画。なかなか本郷のスペースまではという方も多いかもしれません。私はなるべくエマージング展は追うようにしていますが、今回のように何らかのテーマを設定しての展示は意外と多くありません。次の展開にも期待したいです。

入場は無料です。3月7日まで開催されています。

「島からのまなざし なぜ今、アーティストは島へ向かうのか」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2月19日(水)~3月7日(金)
時間:9:30~17:30 *2/21は20時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
休館:3月3日(月)。
料金:無料
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「清麿」 根津美術館

根津美術館
「清麿 幕末の志士を魅了した名工」
2/26-4/6



根津美術館で開催中の「清麿 幕末の志士を魅了した名工」展のプレスプレビューに参加してきました。

江戸は幕末の名工、源清麿(1813-1855)。当時の復古主義にも呼応してか、いわゆる鑑賞用ではなく、時に実戦に耐えうる刀を作る。かの鎌倉時代の「正宗」になぞらえ「四谷正宗」とも讃えられ、多くの人々を虜にしてきました。

2013年には生誕200年を迎えました。それを記念しての回顧展です。初期より絶作までの50点の名刀を展観します。


「刀 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の大)」1848年 個人蔵

ではまず代表作から。「刀 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の大)」。もう一刀の脇指の「小」とあわせて大小を構成する名刀。作例の少ない嘉永元年の作品です。


「脇指 源清麿/嘉永元年八月日(号 一期一腰の小)」1848年 個人蔵

清麿の刀、よく地鉄の美しさを指摘されますが、本作はまさに最たるもの。そして刀文です。白波が沸き立つような景色も広がる。切先が長い。端正でもある。力強さと繊細さを兼ね備えています。


「脇指 天然子完利 二十七歳造之/一貫斎正行十八歳造之 文政十三年四月日」1830年 個人蔵

さて信州は小諸藩の郷士の次男として生まれた清麿。兄の手ほどきを受け早くも10代で作刀を始めます。「脇指 天然子完利 二十七歳造之/一貫斎正行十八歳造之 文政十三年四月日」は兄との合作でかつ清麿の処女作。刀文はどうでしょうか。丸みを帯びた球状の紋様の連なり。軽やかです。躍動感もあります。

20歳の頃になると江戸へと出向いた清麿。生涯にわたって影響を受けた兵法家、窪田清音に作刀の指導を受けながら、様々な古名刀を実見する機会を得ます。そこで鎌倉時代の質実剛健な「相州風」と呼ばれる刀に惹かれ、自らの作風を確立すべく模索していきました。


「刀 於萩城山浦正行造之/天保十三年八月日」1842年 個人蔵

そして萩へ渡る。おそらく招かれたのではないかと考えられています。時に30歳。これまで江戸で制作してきた刀とはまた違ったものを求めます。中世の「備前一文字」を彷彿させる展開。おおむね華やかな意匠をとるそうです。


「太刀 為窪田清音君 山浦環源清麿製/弘化丙午年八月日」1846年 個人蔵

萩の滞在は2年です。再び江戸へ戻った後、34歳の時に四ッ谷に鍛冶場を構えました。「四谷正宗」の名の由来です。いよいよ名工としての地位を確立。ここで初めて清麿と名乗ります。ちなみに最初期は本名の山浦環、その後に秀壽、源正行と称していました。確かに刀を見ても制作年代によって銘が異なっていました。

死の理由を知って驚きました。自刀です。享年42歳。場所は自宅でした。死の理由については今も定かではありませんが、晩年の生活については「常に大酒を為し、清貧洗うが如し」(図録P124より転載)であったとか。また病に悩まされていたとも言われています。


上段:「刀 嘉永七年正月日/源清麿 (切付銘)切手山田源蔵 安政三年十月廿三日於千住太々土壇拂」1854年 個人蔵

その絶作が「刀 嘉永七年正月日/源清麿 (切付銘)切手山田源蔵/安政三年十月廿三日於千住太々土壇拂」です。大きく流れる刀文。荒々しいとも言えるのか。しかしながら銘の清麿の文字はどこか弱い。完成から二年後に試し斬りが行われたことも記されています。


「太刀 弘化二年八月日/源正行」1845年 個人蔵

最後に私が一番見惚れた作品を挙げてみます。それが「太刀 弘化二年八月日/源正行」。ともかく目を見張るばかりの鮮やかな刃文。眩い。またスピード感という言葉は適切ではないかもしれませんが、激しく流れるような動きがある。そしてこの流れと変化。清麿の刀文でもとりわけ魅力的な要素ではないでしょうか。


「清麿展」会場内解説パネル

ところで刀の部分の名称など表す専門用語、なかなか馴染みがありませんが、本展ではその辺もパネルでカバー。刀や文の呼び方についての解説もあります。


手前:「十文字槍 源正行/弘化二年二月日」1845年 個人蔵

同館では「名物刀剣」以来となる刀剣の展覧会。少なくとも私は根津よりも刀が美しく見える場所を知りません。かの展示で導入された光ファイバーによる直接照明。今回も効果的です。思わず我を忘れて刀の放つ青白き光に吸い込まれる。見事でした。

なお清麿展は「展示室1」のみでの展開です。同じ1階の「展示室2」ではテーマ展「神護寺経ーきらめく経文」を開催。所蔵の神護寺経18巻が初めて同時に公開されています。

4月6日まで開催されています。まずはおすすめします。

「清麿 幕末の志士を魅了した名工」 根津美術館@nezumuseum
会期:2月26日(水)~4月6日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。入場は16時半まで。
料金:一般1200円、学生(高校生以上)1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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