私の独断評価が0、1、・・・から0.5刻みを加え、まだ何か物足りないときの為、今回+、-を追加した。まるで企業投資判断の格付けみたいで、どれほどの意味があるのか私自身も定かではない。しかし、とにかくその時の私の感じを表現することにした。
今回のお勧めはサッチャーの時代を描いた「ウーマン・イン・パワー」、数年前評判になった型破り翻訳の「クルーグマン教授の経済入門」。その他の本も読んで時間の無駄と言うのは今回なかった。「憂国のスパイ」、「大統領とメディア」も私には新たな情報が多く面白い。
読書の共通テーマは戦争
(2.0+)憂国のスパイ Gトーマス 1999 光文社 イスラエル諜報機関モサドの起源から現代までの首相と長官の関係と凄惨な暗殺現場を重ね合わせて記述したもの。歴史の裏側で何が起こっていたのか面白い、娯楽読み物にもなりうるが事実と知ると怖い。9.11をモサドがどう見ていたのか興味がある、改訂版にあるかもしれない。
(2.5+)ウーマン・イン・パワー Gスミス 1991 フジテレビ出版 サッチャーが政権をとる前から終焉までレーガンとの個人的関係を主に英国外交を追ったもので、サッチャーの強い信念と米国との関係維持の為の努力が随所に出てくる。内政問題との絡みがないのは物足りない。ブレア・小泉首相とブッシュの関係を想起させ興味深い。
(2.0)決断の代償 山本浩 2004 講談社 英国がイラク戦争に踏み切るまで、情報操作疑惑の経緯をブレア首相とその側近の動きを追っている。上記「ウーマン・イン・パワー」に比べ密度が薄く速読でも要点を逃す心配ない本だが、普段英国事情に疎い私には興味あった。
(1.5+)大国フランスの不思議 山口昌子 2000 角川書店 外国に住むとその国の代弁者になる典型か。米国でフランス人は「デプロマット」と揶揄されていた背景が少し分かった気がする。アラブ系若者の暴動とフランスの多元主義の悩みなど掘り下げが私には不十分。
(2.0)メディア・リテラシー 菅谷明子 2000 岩波新書 英加がメディア活用の観点から国語の教育の一環として教えられているのに対し、米国は視聴者を守るという観点からメディア監視活動が主流で興味深い。何故米国では草の根活動がドンドン生まれるのだろうか。
(2.5)大統領とメディア 石澤靖治 2001 文芸春秋 米国大統領選のメディアの役割の変遷が整理されている。密室で決められた大統領候補選定プロセスに初めてテレビが入り、アイゼンハワーが指名を受けたとかネガティブ・キャンペーンが何時どう始まったか、ゴア・ブッシュの戦いまで要点がトピック的に説明され面白い。
(2.0+)日本人は戦争ができるか 松村劭 1999 三笠書房 自衛隊幕僚出身の軍事専門家の書。自衛隊が日本を守る為には侵攻軍の出撃基地を破壊する能力が必要で、機動打撃部隊の主力化・中央兵站力・海兵旅団の保持を提案している。戦後戦争論がタブーだったが北朝鮮ミサイル実験で今後この種の本がもっと読まれるだろう。
経済テーマ(よくもこれだけ多様な意見があるもんだ)
(2.0)科学事件 柴田鉄治 2000 岩波新書 水俣病からクローンまで戦後の科学事件を報道から振り返り問題提起。多くの場合官僚と科学者が企業側に立ち初期対応を誤り、被害を大きくしたというのが印象。不作為の責任を含め官僚はバイネームで仕事すべき実例多し。
(2.0)日本経済不作為の罪 滝田洋一 2002 日本経済新聞 前半の失われた10年の解説はデータを駆使して非常によく出来ている。しかし現状認識と将来予測となるとそれほど明晰ではなくなる。楽観的か悲観的かのどちらかに振れる。想像力の欠如だ。本書は後者の部類。
(2.0+)榊原英資氏の大罪 神谷一郎 1999 アスペクト 為替市場の介入に悩んだトレーダーが榊原氏を非難するいわば「為にする」書と思ったが、著者の将来に対する洞察力が意外にも的確に感じる。米国ITバブルや小泉改革に繋がるコンセプトをこの時点で予測している。
(1.5)世界史に見る工業化の展開 経欧史学会編 1999 学文社 学部とそれ以後の研究テーマを示唆する教科書。型どおりだが、産業革命時の経緯が現代自動車産業にどう関係するかの記述は興味深い。
(2.5+)クルーグマン教授の経済入門 Pクルーグマン 1998 メディアワークス 以前から読みたかった。経済関連の書物はギリシャ文字式、ジェットコースター式、空港式の3つあると始めぐっと来させる。次に経済にとって大事なことは生産性、所得配分、失業と切れ味良く言い切るのは気持ちがよい。しかし後半徐々に具体論になると歯切れが悪くなる。レベル高い。
(2.0)景気とは何だろうか 山家悠紀夫 2005 岩波新書 クルーグマンならジェットコースター式と呼ぶだろう。1997までは教科書どおりうまく整理されている。1997から自立的拡張メカニズムが崩壊した転換点だったと言う仮説と構造改革批判は一理ある。バブル時代とその後の10年間に対する反省と分析が全く無い元銀行マンらしい発想が本書の信頼性を損なっている。
読書の潤滑油
(1.5)最後の夏 山際淳司 1995 マガジンハウス V9最後の年の巨人阪神の戦いを個人にフォーカスして追っていたもの。週刊誌連載記事のせいもあるがストーリーが流れない。同じ時期、中東戦争と重なっていたことに気が付いた。
(2.0-)エビータ! WAハービンソン 1994 ダイナミックセラーズ出版 (原書は77年)エビータが男を取り替えながら国母になり病に倒れる間、アルゼンチンを破産させた物語。挿入された写真が効果的。際物ではない。ペロンが復権後、後妻のイザベルが大統領になった頃に書かれた。
田舎での夏休み後半の1ヶ月は毎朝2時間GMT受験の勉強をした。読書に最適の時間を使った。科目はエッセイと数学、やればやるほど自信がなくなった。ずいぶん昔のことで忘れているし、新しいことは成る程と思っても次の日はもう忘れている。もう無理かもしれない。読みたい本を沢山仕入れたけど東京に持ち帰ることになった。■