かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録10春

2010-06-04 23:11:35 | 本と雑誌

今まで余り読みたいと思わなかった内橋克人・佐高信氏に代表される人達の本を読んでみた。この人達の本も読むというアリバイ作りのためではない。私から見るとひねくれた見方を何故するのか、日本も世界も苦境の時に彼等の指摘がポイントをついているか、読んでみたくなった。

概して言うなら、部分的な不具合の指摘は事実に基づいているように感じるが、そこから全てを米国や市場主義を悪者にする論理が、私には底が浅いように感じて共感をもてなかった。その中で、「階級社会」(橋元健二)のデータに基づく分析、例えば「独身女性の貧困化」等、は現代社会の問題に右も左も無いロジックを展開して新たな視点を与えてくれる書として私は推薦したい。

今回読んだもう一つのジャンルが投資関連の2冊で、共に1900年からの米国経済と株価変遷などの豊富なデータを分析して投資のあり方を解説したもの。証券会社が勧めるままに投資しても儲かるとは限らない、考えるべきは今の相場が4/8年サイクルのどこにあるか、長期上昇か長期下降か、株が安い時に買え、ポートフォリオの見直しは1-2年に一度はやれ、等々。初心者には難しいかもしれないが、多少でも経験のある個人投資家には参考になる。

私は特に「バブル再来」(HSデントJr)の一読をお勧めしたい。その理由は人口動態と景気サイクルの中でバブルは必ずあるものと位置づけ、それをクールに状況判断して投資せよと説く新鮮さだけではない。その考え方が仕事上のビジネスプランや人生設計などに広く適用できる部分があると感じたからである。

1.5)IT産業崩壊の危機 田中克己 2007 日経BP 日本のIT産業がハード事業の収益性が低下する中、競争力のあるソフト商品を開発できず、結果として国内に閉じたシステム構築とサービス事業に向うが、ユーザのインド等へのアウトソーシングによるコスト圧縮の攻勢を受け伸び悩んでいる状況を報じたもの。網羅的になり平板な内容で踏み込み不足。

2.0+)デフレは終らない 上野泰也 2008 東洋経済 景気と雇用・賃金、構造デフレ、長期金利と通貨、日銀の独立性などについて私のような素人にも分かり易く解説したもの。リーマンショックの前に書かれたものだが、世界同時不況で激変した今読んでも違和感がない。

2.0)悪夢のサイクル 内橋克人 2006 文藝春秋 悪夢のサイクルとは資本自由化・規制緩和→海外マネー流入→バブル発生→海外マネー流出→バブル崩壊→財政出動→ハイパーインフレ→財政引締め→不況の循環であり、南米等の例を挙げて‘市場原理主義’を非人間的と説いた書。的を射た指摘もあるが、米国悪者で思考停止する後ろ向きで後付評論家の姿勢が気になる。

1.5)小泉純一郎と竹中平蔵の罪 佐高信 2009 毎日新聞 著名人を延々と酷評(賛辞もある)したものだが、その基準が論理的でなく好き嫌いで判断されている印象がある。時折品の無い表現が毒草の入ったごった煮のようで後味の悪い読後感が残る。著者流に評すると、ぶった切りする著者の刀が粗製濫造の「昭和新刀」並で、切れ味の爽快さは求めようも無い。

2.5+)階級社会 橋元健二 2006 講談社 日本の経済格差が拡大を続け戦前の水準に近づいていると説く。4つの階級(資本家・専門家・零細企業家・労働者)に分類して分析、貧困の女性化、特に独身女性に貧困が集中と結論付けている。私が読んだこの種の著作の中でベストだと思うが、マルクスの引用など専門家の使う語彙・妥当性は理解できない。最後の対応策が突如「労働時間の短縮」と説くが、消化不足でやや尻切れトンボの感がある。多分、格差拡大の背景として技術革新とグローバリゼーションを著者が積極的に議論しない為に踏み込めないと推測する。

2.0+)ワーキングプア NHK取材班 2007 ポプラ社 目一杯真面目に働いても貧困から抜け出せない収入面で最下層の人達の暮らしぶりを記録したもの。読んでいて辛くなる。マクロでの把握と原因追求は、本書の目的ではないにしても、きちんとした考察が無いのは物足りない。これが事実を伝えるだけという報道スタンスの限界か。

1.5)希望のニート 二神能基 2005 東洋経済 引きこもりや不登校の若者を支援する著者の経験から、ニートを3タイプに分けて対応を説いたもの。政治・社会とか格差を数字で議論するより、生の若者の心理状態を理解することから始めるミクロのアプローチ。両方必要だと思うが。

2.0+)埋没する国家 田中直毅 2008 講談社 小泉改革後三代続いた自民党政権が改革後退の道を歩む時に、このままでは日本売りが進み埋没すると警告し、政権交代の可能性を暗示している。冒頭に紹介された日本売りをする個人投資家ワタナベさんと私が重なり何故か哀しい。

2.0)あきらめの壁をぶち破った人々 中尾英司 2003 日本経済新聞 製薬会社のIT導入プロセスを、類型化された当事者達の心の動きを描写しながら進展を追うというNF風の小説。帯書きには実用企業小説と銘打ったビジネス書とのこと。土地勘があれば娯楽品として悪くない。

2.0)何故福知山線脱線事故は起こったのか 川島令三 2005 草思社 鉄道マニアから専門家になった著者が、福知山線事故は線路に速度検出装置が取り付けてなかったのが原因で起こったと説いたもの。今日その経営判断が裁かれることになっている。事故当時のメディアの扇情的で不正確な報道を正す目的が果たされている。専門用語が頻繁に出てきて読み難い。

2.5-)バブル再来 HSデントJr 2006 ダイヤモンド社 株価は人口動態と革新技術のライフサイクル(80年)をベースとして、4年サイクルと10年サイクルの組み合わせで予測可能と説く。バブルは必ず起こるという前提で、必ずしも悪と捉えず時機にあった投資判断を勧める。だがその時機の切り替わりをどう見定めるか曖昧で必ずしも実用的とは思わないが、物事の見方・考え方としてとても参考になる。

2.0)バイ・アンド・ホールド時代の終焉 Eイースタリング 2006 パンローリング社 長く保持すれば株は儲かる(バイ・アンド・ホールド)というのは長期上昇相場で有効だが、長期下降相場では絶対リターンを求める手法をとれと説く。現状は下降相場であり、証券会社の言いなりに投資せず頭を使えと。上記の著書「バブル再来」が説く相場変動のメカニズムには触れず、むしろ投資のテクニカルな点に注力した内容。

春は読書の最適のシーズンの積りだったが、3ヶ月経ってみていつもより読書量が少ないのに少々がっかりした。それを全て通風のせいにするのは言い逃れみたいな気がする。その他に思いつくのは、読んで楽しい本が少なかったからかもしれない。古本だけで読書録を書くのはそれなりの難しさがあるともう一度言い訳を最後に、次回もっと内容を充実させたい。■

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