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周回遅れの読書録13春

2013-06-01 11:00:40 | 本と雑誌

 最初に「投資銀行バブルの終焉」(倉都康行)を紹介する。金融技術が商業銀行を投資銀行に様変わりさせ、それが高じて金融システムが崩壊していく様子をリーマンショックと同時進行で描いたもので、私が今まで読んだ関連書籍の中では最もリーマンショックの本質を描いたもので一読をお勧めする。やや難解だが、私のような専門外でも何とか読めたので興味があれば何とかなると思う。

 2冊目は「日本経済市場が問う成長戦略」(山川哲史)だ。これは大震災復旧と同時進行で書かれ、復興から成長戦略に繫げる提案をしたもの。迷走を続けた民主党政権下で今日のアベノミクスの登場を予感させる内容だ。一読を勧めたいが、専門用語乱発で私は読み進めるのに難渋した。我慢して読む根気のある方にお勧めしたい。

 安倍政権の華々しいデビューの陰で、たったの半年で忘れ去られたような民主党政権だが、そろそろ民主党政権登場の意味や功罪を冷静に評価した本が出てくるのを期待している。まだ私の期待に応える本を見つけていないが、その先駆けとして「日本の悲劇」(中西輝政)は政権交代果たした小沢一郎の役割を描いており参考になる。

 2.0日本は没落する 榊原英資 2007 朝日新聞社 日本は技術と人材が劣化しつつあり、中印や韓国にやられて世界の変化に取り残されつつある。これに対しマスコミはポピュリズムに走り官僚叩きをするだけで建設的な議論をできないでいる。対策は女性と教育と結論付ける。ポイントをついている部分もあるが、サブプライム危機の切迫感が感じ取れず内容が軽い感じがして、先が読めないエリート官僚の作文の域を越えてない印象を受ける。

 2.5+投資銀行バブルの終焉 倉都康行 2008 ダイヤモンド社 商業銀行と投資銀行を経験する著者が、金融技術がレバレッジとリスク管理を通じて銀行経営を劇的に変え投資銀行的性格が崩壊に向かう姿を描いた佳作。異なる商品の将来価値を現在価値に置き換えて取引するコンセプトが金融技術のベースにあると説き、その上で銀行にとって持つ意味の背景説明は専門外の私にとって金融工学の詳細な解説よりよく理解できた。

2.0日本の悲劇 中西輝政 2010 PHP 民主党政権誕生時点で雑誌投稿記事を編集した小沢一郎悪者論。過去20年間の政治改革の堕落と失敗の殆どは小沢氏が関わった日本の悲劇だった。著者は政治の神髄は政策ではなく国を担う至純の心であり、政局は悪ではないという立場から小沢氏と鳩山首相を指弾する。著者を国粋主義者と見做していた私だが、政治家は政策から理念・精神に戻れ、保守は政権にしがみつくな、年金問題は民意を劣化させる、マスコミの負の役割等の指摘を新鮮に感じた。一方、彼の主張の向かう延長線上には右翼的危険な香りを感じた。

(2.5)日本経済市場が問う成長戦略 山川哲史 2011 日本経済新聞 大震災から半年後、如何にして復旧から持続的な経済成長に繫げていく為に取るべき成長戦略を唱えたもの。震災後の市場から見た日本経済、民社党政権政策の問題、世界の「日本化」現象を解説し、最後にあるべき姿として輸出主導型経済、世代間再配分、税制等の反企業・反富裕層・反市場からの転換等を提案している。人口構成と一票の格差や韓国前大統領の政策を評価などの指摘が的確で、1年後のアベノミクスを予見(金融政策はそれほど大胆ではない)する内容で一読に値する。

2.0ビジネスマンの為の金融工 Dブローディ 2005 東洋経済新報 金融工学の基本的な概念を物理学・統計確率論を用いて分かりやすい言葉で説明しようとする狙いは分かるが、それでも専門外の私には結構難解だった。関連書籍を併読した後、もう一度読み返すと理解が進むと思われる。

2.0ファンド資本主義とは何か 武藤泰明 2005 東洋経済新報 企業買収を目的とする投資ファンドのM&Aについて買収の形態と狙い(大きく儲ける、キャピタルゲインの追求)から企業再建、買われる企業の特徴と防御策、雇用のあり方の変化等を網羅した解説書。退屈である。

 2.0+)ソ連が満州に侵攻した夏 半藤一利 1999 文芸春秋 太平洋戦争終末に日本首脳の根拠のないソ連への期待、ソ連が対日参戦を決定し194589日に満州侵攻開始、無条件降伏から約20日間まで如何に無駄な命が失われたかが描かれている。最悪の段階になっても政府・軍が現実を認識できず独善的で想像力に欠け多くの命が失われた描写は、今迄何度も歴史書を読んでいても情けなくつらい。トップの優柔不断は今も変わらない日本の遺伝子だ。

 *世界がもし100人の村だったら 池田香代子・CDラミス 2001 マガジンハウス 10年位年前にインターネットで世界に流れ話題になったエッセーを絵本風に再構成したもの。題名通りの内容で評価しようがない。手元に置いておいてもいいかもしれない。

 (*)市塵(上・下) 藤沢周平 2005 講談社文庫 六代将軍家宣が甲府藩主時代に召し抱えられた儒者新井白石が、理解者に引き立てられて抵抗勢力に直面しながら幕政を改革していく姿を描いた歴史小説。珍しく切り合いが出てこず理を戦かわせ、庇護者がなくなると急速に権勢を失っていく様子は、まるで現代サラリーマンの姿を見るようで面白い。

 *闇の傀儡師(上・下) 藤沢周平 1984 講談社文庫 十代将軍家治の世継の命を狙う八嶽党と、これを利用しようとする老中田沼意次とその対立派とい舞台設定で、御家人崩れの剣の達人の主人公が縦横の活躍をするもの。このジャンルを伝奇小説というらしいが、私には実在した歴史上の人物が登場する「市塵」の方が面白いと感じた。

 *影法師 百田尚樹 2010 講談社 小藩の中下級武士の子供が互いに命を懸けて助け合ったことから刎頚の友の契りを結び、やがて一方が君主に取り立てられ立身出世していき、一方が秘かに我が身を犠牲にして助けていく物語。放送作家出身らしき泣かせるテクをこれでもかと連射して最後にとどめを刺す、涙線が緩くなった老人は公共の場では読まない方がいい。私は好きだ。 

 (*)プリズム 百田尚樹 2011 幻冬舎 多重人格者の一人格に恋に落ちた人妻の家庭教師が、多重人格の病が癒えて人格が消えると同時に恋が失われたというおとぎ話。村上春樹ほどではないが、百田作品の中では現実感に乏しい荒唐無稽な設定と展開。私には今一乗れない小説だった。

 *幸福な生活 百田尚樹 2011 祥伝社 最後の1言でどんでん返しする短編集。帯書きの「稀代の怪作」はうまい評価だが、そのブラックユーモアは若干あざとさを感じ読後の爽快感がない。

 *ルパンの消息 横山秀夫 2005 光文社 時効直前にタレこみがあり自殺した女性教師が他殺で犯人は3人の高校生だったという設定から、実は別の女性教師と3人のうちの一人が犯人と絞り込まれ、最後にお決まりのどんでん返しが来る良くできたミステリー。著者が作家としてデビューする前に書かれ、15年後に公に出たものという。

 今回、全作品を読んでみたいと思う私のタイプの作家を発見した。その作家は最近マスコミで紹介され露出度の高い百田尚樹氏で、すでに良く知られた存在だ。今年初めにバドミントン練習仲間が貸してくれた「永遠のゼロ」で百田作品に嵌まり、市立図書館で見つけた3冊を読んでみた。

 この3冊は私には「永遠のゼロ」ほどの出来映えではなかった。報道では百田氏は毎回全く異なったジャンルのテーマを扱う稀有な存在だそうだ。その為に毎回何十冊も関連書籍を読むという。まるで論文を書くみたいな執筆スタイルで、他の作品も是非読んでみたいと思う。

 「影法師」は何となく藤沢周平のテーストを感じ、「プリズム」は村上春樹風の設定と展開を感じた。「幸福な生活」は安っぽい短編小説集みたいだった。言い換えると、3冊とも読むと面白いのだがこれぞ百田氏といったテーストを感じなかった。どんでん返しだけの為のストーリー展開という感じがしないでもない。百田氏は50歳まで放送作家だったという経歴と無関係ではないと推測する。もう少し他の作品を読んでからもう一度感想を述べてみたい。■

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