世界的な食料価格高騰を受けてブッシュ米大統領は14日200億円の緊急食糧援助を行うと発表したと伝えられた。
ブッシュ政権下で国務副長官を務めたゼーリック世銀総裁がIMFとの合同開発委員会で「世界33カ国が食糧問題による社会不安に懸念を示し、世界食糧計画(WFP)に5億ドルの緊急食料援助を要請し、ブッシュ大統領が直ちに呼応した形だ。
実態は、世界の食料価格が過去3年間で83%上昇、中でも主食の小麦は181%上昇したという。ここに来て食糧価格はまさに前代未聞の速度で上昇、例えばコメは2ヶ月で75%上昇、小麦は昨年来120%上昇した。(産経新聞4/15)
食料不安でハイチ首相は解任され、他の途上国にも飢餓や政情不安の拡大が危惧されているという。この実態を聞かされるに付け我国の食糧や燃料価格上昇など可愛いものだと思わずにはいられない。
食糧価格高騰の構図
その原因は原油価格高騰と全く同じ構造的なものである。オーストラリアなどの異常気象による不作、中国など新興国の急成長と食生活の変化による需要増、ガソリン転用によるバイオ燃料ブームなどにより需要に供給が追いつかなくなったからだ。
しかし需給逼迫だけが原因ではない。食料価格が需給関係以上に急騰したのはサブプライム問題で低迷する株式市場から逃げ出した膨大なリスクマネーが、原油やレアメタルから食糧などあらゆるコモディティに向かい価格を上昇させた。
悪いことに、サブプライム問題は金融不安を起した為欧米の先進国は利下げや量的緩和など金融緩和を続けざるを得ず、結果的に投機に向うリスクマネーを膨張させ食糧価格高騰に火を注いだ。異常な価格高騰はまさにこの投機資金のターボ・チャージャーが点火した結果といえる。
グローバリゼーションは色々なものの国境をなくした。情報は世界を駆け巡り、資本、仕事、テロ、資源、何でも価格がつきリアルタイムで取引され膨大な額の富の移転が続いている。そしてついに「飢餓のグローバリゼーション」が始まったというのが私の解釈だ。朝日新聞は市場の暴走というのも理解できる。
応分の役割が求められる
事態の深刻さは日本では余り報じられていない。例によって日本に直接関係の無いことは全く関心をもたれない。メディアも無視していないとアリバイ程度に小さい扱いで伝えるか、全く無視する。だが、米国大統領の突然の緊急食糧援助発表にも少なからず違和感がある。
この問題のかなりの部分は米国に原因がある。「よく言うよ、お前のせいだろう」と言いたくなる。米国は自分で問題を起し世界中に問題を巻き散らしながら、その問題解決を世界に提案しリーダーとして振る舞う。それ以上の説得力のある解決案は出てこない場合が多いのも事実だが。
いずれにしろ、世界は日本が積極的な役割を果たすことを求めるだろう。ホワイトハウスによると、米国は2007年度に21億ドル、250万トンの食糧援助を行った世界最大の食糧援助供給国であり、日本にも積極的な援助を求めるだろう。
ブラウン英首相が7月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)議長を務める福田康夫首相に書簡を送り、国際社会が協調してこの問題に取り組むよう求めたという。
根本解決策はあるか
食糧価格上昇は構造的なもので、もう元には戻らないというのが世界の認識になっているという(ファイナンシャル・タイムズ(FT)3/18)。確かに国籍不明の投機マネーが食糧に群がるのを抑制する手段は難しいかもしれない。お金に道徳を求めても無駄だろう。
だとしても、構造的な部分を見直して価格の上昇を抑え歯止めをかける方法はいくつかある。先ずはエネルギー問題と食料問題の政策レベルでの衝突を早急に止めるべきだ。欧州政府や世界銀行内にも米政府がガソリン消費削減のため掲げたバイオ燃料増産計画は有害と指摘する声が高まりつつあるが、最大の資金拠出国に対する遠慮があるという。
ペリーノ大統領報道官は14日の定例会見で、「大統領は食糧不足に責任を感じているか」と追及され、「需要増とエネルギー高、干魃など多くの異なる要素によるものだ」と反論したと報じられている。
だが上記FTの記事によれば、米政府が近々国内産エタノールへの51セントの税還付を減らすか、ブラジル産エタノールにかけている54セントの関税を減らす可能性ありと見ている。実行されれば米国バイオ燃料産業の急拡大を減速させることが期待される。
もう一つは農業の生産性を改善することだろう。手っ取り早いのは遺伝子組み換え技術を活用した品種改良による農産物の増産と効率的な農場経営だ。特に欧州ではバイオ作物に対する反発は依然残っているが、事態が深刻になれば選択の余地が無い時代が来ると専門家は見ているようだ。
農業改良技術は日本が貢献できる分野でもある。しかし、日本国自体が賞味期限など食糧危機国にとって見れば、壮大な食糧無駄遣いを国家レベルでやっている。これを止めるだけで数千万人を飢餓から救えるという事実をかみ締めるべきだろう。■
食糧問題や政治や金融問題など大変共感できる文章だったので、4月中の記事は全部見させていただきました。非常に面白かったです。
バイオエタノールについては、僕も興味あり調べたことがありますが、大規模農場ほどエネルギー効率が悪く、今急速に導入する必要がないように思えます。そもそも発酵も大変エネルギー効率が悪いですし
食料価格に関しては、EUやアメリカの農業への支援政策で世界の食糧生産の集中が、石油価格の上昇によって構造が変わったと考えてました。
遺伝子組み換えに関しても共感します。科学的に有効なものでも日本だと特に導入が遅れたり厳しかったりするようですね。安心はきりがないのでしっかり考えて政策や報道を行ってほしいです。
また次の記事楽しみにしてます。
コメント有難う御座います。
レスターブラウン等の本を数冊読んだ程度で、この分野は意見交換できるほど詳しくありません。
しかし、本件については日本のメディアがまともに取り上げると思えなかったのでまさに記事の寄せ集め(パッチワーク)になりましたが、私の考えを整理する意味を兼ねてまとめてみました。
食の安全や自給率の議論も良いのですが、自国のことばかり声高に報道し世界が飢餓の淵に立っている認識を持たせるような姿勢が無いのは残念です。
これからも気が付いたことがあればコメント下さい。
現在ジンバブエは危機的状況にあり、アメリカは動き出しました。ジンバブエの危機に対して背景にあるものとして食糧問題があることは確実です。アフガニスタンでもおそらく深刻でしょう。
このような食料価格の上昇による国際情勢の変化や対応も日本は報道すら遅れているように思います。
今日本のニュース(google)を見ると、ジンバブエについてまだ報道されてません。アメリカやイギリスでは二時間前には報道されています。
今年から京都議定書の約束期間ですが、環境問題も大切ですが、現実的には中国の石炭消費はこれからますます増えます。食料価格の上昇で疲弊する国を救うことこそ外交的にも世界の平和のことでも必要な気がします。