一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

6月13日のマンデーレッスンS(後編)・二度負けた

2011-06-15 00:05:26 | LPSAマンデーレッスン
「ああっ、二歩だ!!」
二歩をっ、二歩を打ってしまった!! 「7二」に歩が落ちていた。それに気付かず、私は二歩を打ってしまったのだ! それも自信満々で!! 何てことだ、恥ずかしい!!
ああうっ、二歩は何年ぶりだろう。少なくとも駒込サロンや芝浦サロンでは、二歩はなかった。
これは負けだ。私は潔く投了したが、これは指導対局である。植山悦行七段は「まあまあ…」と、そのまま指し継いでくれる。その優しさがつらい。
私は緊張の糸が切れたが、何とか気力を振り絞って、指し手を進めた。
私は待望の▲6六桂を打ち、以下、大振り替わりとなった。
「いつの間にかそちらに持ち駒がいっぱいあるねえ」
「いえ、それほどでも」
「ニャニオウ!!」
と苦笑いする植山七段。それにつられて、周りにドッと笑いが起きた。
上手は△4四歩から△4三王と早逃げする。その局面が下。

上手(角落ち)・植山七段:1一香、2三歩、2四銀、2五桂、3三歩、4二金、4三王、4四歩、5三歩、5四銀、5七金、6四歩、8一飛、9一香、9四歩 持駒:角
下手・一公:1四歩、1九香、2二歩、2八飛、2九桂、3五歩、4六歩、5六歩、6二成桂、6七歩、7二歩、7八金、7九玉、8六歩、9六歩、9九香 持駒:金、銀2、桂、歩3

(△4三王以下の指し手)
▲7一歩成△8六飛▲5一銀△3五銀▲3六歩△4六銀▲2五飛△4一金▲2三飛成△4五銀▲6六桂△6八角▲同金△同金▲同玉△8八飛成▲7八歩△5七金 まで、113手で植山七段の勝ち。

この局面、下手は角桂交換の駒損だが、上手は歩切れで持ち駒は角一枚だけ。下手は持ち駒が豊富のうえ6二成桂の存在が大きく、下手優勢といえる。
ここで▲7七銀と一枚入れれば下手陣は盤石、安全勝ちであろう。しかしいままで受けを続けていた私は、ここで攻め合って勝とうと考えた。
▲7一歩成は△8六飛を与えてお手伝い気味だが、次の▲5一銀に期待した。
植山七段、△4六銀。ここで▲2五飛と走りたいが、飛車の横利きが消えるので、△6八角からの攻めを警戒する必要がある。▲6八同金は一目あぶないので、▲6九玉と寄ってみる。これで逃れていると思いきや、以下△8九飛成▲7九歩△7八竜▲同玉△7七金▲8九玉△7九角成▲同玉△6八金左▲8九玉△7八金寄▲9八玉△8八金寄▲9七玉△8七金引までで詰むことに気が付いた。
では△6八角には▲同金か。以下△同金▲同玉△8八飛成▲7八歩△5七金に、▲6九玉(▲5九玉は△7九竜で、合駒が悪く下手負け)でわずかに詰まず、下手勝ちと信じた。
私は勇躍▲2五飛。数手後、いよいよ受けに窮した植山七段は、下手陣に目を転じ、「さっきから打てたのか…」という感じで、△6八角と打ってきた。
私は読み筋どおり応対する。▲7八歩と打つときイヤな予感がしたが、打った。その直後、私はまたも、あっ!! と言った。
植山七段、△5七金。
「しまったア!! 香を拾われるのをうっかりした!!」
私はそう叫ぶと、本局2度目の投了をした。
その直後、ふたりで大笑いする。先ほどの会話から、周りの会員は、そのまま私が勝ったと思ったらしい。
整理すると、△6八角▲同金△同金▲同玉△8八飛成▲7八歩△5七金(ここで投了)▲6九玉に、△9九竜(と香を取る)▲7九合△6八香▲5九玉△7九竜まで、下手玉が詰んでしまったのだ。
すぐに感想戦に入った。
「7八の合い駒が悪かったね。金? 銀でもいいのか。…金だね」
と植山七段。すなわち終了1手前、▲7八歩合で▲7八金合なら、△5七金▲5九玉△9九竜▲7九歩で下手玉は詰まない。こう指せばよかった。
余談だが、帰宅後考えてみると、△6八角に▲6九玉の変化も、△8九飛成▲7九歩△7八竜▲同玉△7七金のとき、▲6九玉と元に戻る皮肉な手があり、以下△7九角成▲5九玉△6八馬▲4九玉△6七馬▲3九玉で詰まず、△6六馬と桂を外す手に▲6三銀で、これも下手勝ちだと分かった。
何てことだ…。△6八角にスッと玉を横に寄り、上手の猛攻を凌ぎきったら、これも痛快な勝利だったろう。まあ、これも実力だから仕方がない。
マンデーレッスンの1コマは、2時間だから忙しい。8時からは、佐々木勇気四段との将棋の、ワンポイント解説となった。本来ならここは、十分時間を取って植山七段の解説を聴きたいところだったが、時間の関係で「次の一手」の周辺を解説したのみ。ちょっと消化不良だった。
夜のマンデーレッスンは8時半までである。塾長の藤森奈津子女流四段がせかすので、後半の植山七段は、勝利者とのツーショット写真やサイン、コメントの記入と、てんてこ舞いの忙しさだった。
けっきょく、指導対局が終わったのは、9時すぎだった。9面指しだから、これはやむを得ない。どうも、レッスンの「2時間」という設定自体に、無理があるのではないか。2時間半は欲しいところである。
残ったメンツで、とりあえず食事に行くことにする。このシチュエーション、懐かしい。サロンを出るとき、私は金曜サロンを思い出して、ちょっとホロッとした。
W氏、Ho氏、Ka氏、私が同行し、中華料理屋に入って、食事。食後は近くの喫茶店に入った。けっきょく、雨は降らなかったようである。
植山七段とのバカ話は楽しかった。考えてみれば、金曜サロンでは、毎週こんな感じだった。私たちは駒込で、本当に幸せな時間を過ごしていたのだ。
植山七段は、述べ17人と指したそうだ。いまLPSAで、これだけの将棋ファンを集められる女流棋士は、残念ながら、いない。これからもときどきでいいから、植山七段がLPSAに遊びに来てくれることを、私は切に願った。
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6月13日のマンデーレッスンS(前編)・植山悦行七段登場!!

2011-06-14 18:54:35 | LPSAマンデーレッスン
6月13日の「LPSAマンデーレッスンS」は、植山悦行七段がゲスト講師だった。言うまでもないが、かつて植山七段は、旧金曜サロンの手合い係を2年ほど務めた。会員同士の手合いをつけ、終わった対局にはワンポイントアドバイスをし、返す刀で初心者に駒落ちの指導と、それは見事な動きだった。ことに大人数の手合いを決める華麗な「捌き」は芸術的で、いまでも私たち金曜サロン組の語り草になっている。そして私が芝浦サロンで会員との交流があるのも、植山七段のおかげなのである。
私は月曜日から将棋を指すほど将棋にのめりこんではいないが、かようなわけで、13日も芝浦サロンにお邪魔することにした。
植山七段と私は雨男なので、折り畳み傘を携帯する。芝浦サロンに入る前に、サロン近くの「小諸そば」で腹ごしらえ。「二枚もり」の注文は定跡どおりだが、きょうは店員さんが、きざみネギを別のそば猪口に山盛りで入れてくれた。芝浦小諸そばの店員さんは、絶対にこのブログを読んでいると思う。
芝浦サロンには午後6時ちょっとすぎに入る。指導対局の「芝浦サロン」は、松尾香織女流初段の担当だった。
夜のマンデーレッスンSは午後6時半から8時半まで。きょうは多数の予約が入っているという情報を得ていたから、場合によっては松尾女流初段に指導対局を仰ぐことも視野に入れていた。
しかし受付の船戸陽子女流二段や松尾女流初段によると、植山七段の指導面数を増やせば大丈夫ということで、その言葉に甘えることにした。
船戸女流二段のいでたちはレオタード風で、「キャッツ・アイ」の泪ねえさんを想起した。「アサヒワインコム」に掲げられていた画像と雰囲気が似ている。あの船戸女流二段は、本当に綺麗だった。もっとも、実物のほうがもっと綺麗だが。
ほどなく植山七段が登場。植山七段にお会いするのは、4月の信濃わらび山荘将棋合宿以来だ。先日の竜王戦6組では「将来の名人候補」との呼び声も高い佐々木勇気四段に快勝し、大いに株を上げた。私はちょっと照れながら挨拶。植山七段はきょうも肌ツヤがよく、なによりだった。
ちょっと早いが、指導対局開始。この時点では4面指しだった。私に居飛車を勧めた植山七段が講師ということもあり、私は居飛車を明示。植山七段は袖飛車に構える。
近くで指導対局をしている松尾女流初段が、「芋焼酎勝負」に言及してきた。
「ワタシ大沢さんにまだ1回しか負けてないんだけどー」
「分かってますよ」
「ワタシ、勝ったらワインにしてほしいんだけどー」
「ええっ! ワインですか。芋焼酎って、どんなに高くても数千円しかしないから、しめしめと思ってたんだけどなー」
チッ、めんどうなことになった。船戸女流二段が入れ知恵でもしたのだろうか。
「ワタシ、ワインがいい」
「あああ、いいですよ。どうせ私が勝ちますから。あと4局で終わらせます」
私はぶっきらぼうに返した。
植山七段の指導対局は、最終的に9面になった。W氏、Is氏、Ho氏の姿があったが、もちろん彼らは植山七段目当てだ。ただしIs氏はすでに前半(午後3時~5時)に指導対局を受けていた。またW氏は、松尾女流初段に指導を受けていた。植山七段と親しいW氏、芝浦サロンであらためて将棋を教えてもらわなくても…というところだろう。
植山七段は軽口を飛ばし、和気藹藹とした雰囲気になる。私は植山七段との角落ち戦は3勝4敗と、意外に善戦している。もちろん自分の実力以上のものが出ているからだが、これも植山七段の話術によって、リラックスして指せているからだろう。
角落ちの将棋は位負けしないのがコツだが、強く迎え撃つ気持ちも大切である。私は植山七段の猛攻を受けるが、辛抱強く指す。
中盤、植山七段が「ええい!」と△7五銀と打った局面が下。

上手(角落ち)・植山七段:1一香、1三桂、1四歩、2三歩、2四銀、3二王、3三歩、4二金、4三歩、5三歩、5四銀、6四歩、7四金、7五銀、8一飛、9一香、9四歩 持駒:なし
下手・一公:1六歩、1九香、2二歩、2九桂、3五歩、3八飛、4六歩、5六歩、5七銀、6七歩、7二歩、7七角、7八金、7九玉、8六金、8七歩、9六歩、9九香 持駒:桂2、歩2

ここで私は自信を持って▲7六歩と打った。△8六銀なら▲同歩で、歩切れの上手は後続の攻めがむずかしい。しかしあらためて盤面を見た私は、アッと叫んだ。
これは!!
(つづく)
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角館の美女(第4回)

2011-06-13 00:46:16 | 小説
(第1回は2009年7月31日、第2回は2009年9月5日、第3回は2010年1月31日に掲載。画面内の「カテゴリー・小説」をクリックのこと)

奥から出てきたのは、頭が禿げあがった老人だった。そこには申し訳程度に白髪がちょぼちょぼと生えているのみだ。土曜の午後らしく、ステテコに腹巻きというラフな姿である。ちょっと異様に見えたのは、老人が禿げ頭やステテコ姿だったからではなく、サングラスをかけていたからだ。この人が郁子さんの父親なのだろうか。
「なんだあ?」
「あ、あの、はじめまして。私あの、い、い、郁子さんに6年前旅先で会ったものでして、それであの、郁子さんのことが、いやあの、郁子さんにまた会いたいと思いまして…」
私は焦りつつも、用意していた言葉を述べる。「それで先週来たんですけど、そのときにあの、小説を送ることになったんですけど、それであの…」
「なんだあ? なんだお前は」
老人はひざをつくと、要領を得ない私に、怒ったように応えた。
「はい、あのそれで、小説を郁子さんに読んでいただこうと思いまして、きょうお持ちしたんですけど、あの――」
「なんだお前は! 何者だお前は!」
老人は私の言葉を遮り、警戒の言葉を吐く。私は冷静に事情を説明しようと努めたが、すっかり平常心を欠いてしまった。
「はい、だからあの、私は小説を持って――」
「ああ? 何がだ、何をしに来たんだ!!」
老人が上目使いに私を見て、怒鳴る。サングラスから覗く瞳は白く濁っており、とても正常とは思えない。老人が眼を患っているのは明らかだった。
この老人が、本当に郁子さんの父親なのだろうか。俄かには信じがたいが、よく見ると鼻の形が郁子さんにそっくりだ。ということは、先週の母親とは夫婦ということになる。母親は物腰もおだやかで品がよく、さすがは秋田美人だと感心したものだった。しかるにこの老人はどうだろう。母親の配偶者だから、もっと紳士的な男性を想像していたが、全然イメージが違う。
もっとも、どこの馬の骨とも分からない人間がいきなり訪ねてきて、小説、小説、と騒いでいるのだ。老人が警戒感を露わにするのは当然といえる。それにしたって、この扱いはないだろうと思う。
「あ、あの、これ」
私はうろたえながら、洋菓子の紙包みを差し出す。
「なんだこれは! 帰りなさい! お前は!! 帰れ!!」
「ああー、あの、これ、その小説です、おねがいします!!」
私は老人の異様な迫力と雰囲気に、恐怖を感じた。私はファイルに綴じた「角館の美女」を紙バッグごと差し出すと、逃げるように郁子さんの家を出た。
まさかの展開に、私は混乱しきっていた。いやこれがふつうの応対なんだ、と自分を納得させる。そもそも先週の母親の応対が、私に親切すぎたのだ。
私は放心状態で、いま来た道を戻る。しかし…小説をファイルした封筒には封をしていなかったが、あれはまずかったのではないか、といまにして思う。誰に読まれても恥ずかしくない内容と自負していたが、小説の中では、「私」と「郁子」が劇的な再会を果たし、結婚している。こんな小説をあの老人が読んだら、怒りで小説を破り捨てるに違いない。もっとも、白濁した瞳の老人が、字が読める状態かは疑わしいが…。
気がつくと、理容店の前に来ていた。先ほど入った店だ。人の良さそうな夫婦が経営していて、いい腕だった。だけど3,500円をはたいた甲斐はなかった。
中ではふたりが所在なげにしている。私は意を決し、再び入ってみた。
怪訝そうな顔をする夫婦に、実は…と、私がここ角館を訪れた経緯を話す。そしてあの家族の状況を訊いてみた。
「そうかい。郁子さんをねえ。でもあの家とはあまり付き合いがないからねえ」
と、ご主人は言う。
「そうですか…。でも、何かありませんか。お父さんとか…」
「ないねえ。あそこのオヤジさんは気むずかしいからねえ。何年か前に目を患ってから、あの人はとくにひどくなった」
やはりあの父親は、相当アクの強い人物らしい。私はあまりにも、無防備に乗り込んでしまったようだ。
「年賀状のやりとりとかは」
「ないない」
それほど多弁とも思えぬご主人だったが、ご主人はとくに私を怪しむでもなく、よく相手をしてくれた。奥さまも無口だったが、言わんとすることは、ご主人と同じだったろう。
先週角館を訪れたときは大いに収穫があり、晴れがましい思いで角館町内のビジネスホテルに泊まった。しかしきょうは、打ちひしがれた思いで角館を後にしなければならない。
その夜はけっきょく盛岡のビジネスホテルに泊まり、翌日曜日に、帰京した。篠崎愛に似ている女性には、連絡をしなかった。
帰宅後、抵抗はあったが、郁子さんの家に電話をかけてみた。できればかけたくなかったが、やむを得ない。
電話には運よく母親が出た。しかし先日会った時とは明らかに声のトーンが違い、警戒の色が現われていた。私が父親と会った後、一悶着あったことは容易に想像がついた。
――あの男は何者なのか。
――お前はあの男に会ったのか。
――郁子はこのことを知っているのか。
あれこれ詰問されたに違いない。突然再訪して、母親には申し訳なかったと思う。
「小説を、かならず郁子さんに送ってください」
私は電話口から必死に懇願したが、母親は「はい、はい」と素っ気ない返事をして、電話を切った。先週と比べて、何というよそよそしさか。
とにかく、これで振りだしに戻ってしまった。しかし、いても立ってもいられない。あの雰囲気では、両親が郁子さんに小説を送ったとは到底思えない。いや小説などどうでもいい。私の居所さえ知らせてくれればいいのだ。しかしそれはあり得ない状況だ。
結局私は、また角館を訪れるしかないのだった。もちろん目的は、母親と会うことである。何とか母親を説得して、郁子さんの居所を聞きたい。頼みの綱は、もはや母親だけになっていた。
翌週の土曜日、スーツを着用した私は、また角館に向かった。これで3週連続である。
ところで安月給の私になぜこれだけの交通費があったかといえば、当時JRには「ウイークエンドフリーきっぷ」という、JR東日本管内の全列車に週末の2日間乗り放題で15,000円、という便利な切符があったからである。それ以前に発売されていた「EEきっぷ」の3日間有効・15,450円には及ばないが、いずれにしても重宝な切符だった。
三たび角館に着く。いや昭和63年を入れると、4回目…いや、平成4年のゴールデンウイークの東北旅行を入れて、5回目だ。
駅前をまっすぐ歩き、武家屋敷通りとは反対方向に歩を向ける。市民病院入口前の公衆電話から、郁子さんの家に電話をかける。電話をかけるだけなら、東京からでもできる。しかし、母親に会ってもらえることになった場合、すぐ近場にいる必要があった。非効率のようでも、角館からの電話は、絶対だったのだ。
家を訪ねたときと同じ時間帯である。母親が電話に出てくれることを祈ったが、出たのは聞き覚えのない、年配の男性だった。表札には、郁子さんとその両親と思しき2人の名前しか記されていなかった。とすると、この人物は誰なのか。
私はまた一から説明するが、男性は私に不審者の烙印を押したようで、途中から「お前は誰でやあ?」を繰り返した。私は構わず説明を続けるが、男性は訛りを強くし、ベラベラとまくし立てる。私は電話の向こうの男性が何を言っているか分からず、閉口した。
あちらはこちらの言っていることが分かっている。もちろん標準語を話すこともできたろう。しかしわざと訛りを強調することで私との会話を遮断し、退散させたかったのだろう。
結局、今回も母親との再会は叶わなかった。それでも私はふらふらと、郁子さんの家に行く。道路から見た彼女の家はシーンとしていて、人のいる気配がない。しかし家の中には、先ほどの男性がいるはずだ。だが私に門を叩く勇気はもうない。
私は家の前に立つ。数ヶ月前、たしかに郁子さんはここで生活していたのだ。どうしてもっと早く訪ねなかったのかと、あらためて後悔がわきたった。
私は踵を返し、広い敷地を少し戻ったところにある民家を訪ねてみた。
出てきたのは初老の夫婦だった。ふたりは土地の者ではない私を、胡散臭い目で見た。私はこの夫婦にも、これまでの経緯を話す。すべてを正直に話すことが、真実を知る近道になる。
最初は私を値踏みするふうだった奥さんが、私の話を聞くにつれ、身を乗り出してくるのが分かった。ゴシップ好きの主婦には、私の話は興味を惹くのだろう。
ひととおり話を聞いた奥さんは、やはり郁子さんの家とはあまり交流がないと言った。そして
「あなたは長男?」
と訊いてきた。
「はい」
「じゃあむずかしいね。あの家は姉さんが結婚して、向こうに出ちゃったからね」
奥さんは冷笑を洩らす。「あんた、家を出て角館まで来ることはできる?」
そう聞かれて、私は即答ができなかった。私は郁子さんが好きだ。その気持ちは、これからも変わらないと思う。しかしもし私が郁子さんとの再会を果たし、トントン拍子に話が進んで結婚の運びとなった時、私は家と東京を捨ててまで、この片田舎に来ることができるだろうか。
――あなたにそれだけの覚悟がありますか。
興味本位で私の話を聞いたふうだった奥さんは、最も現実的な問題を、私に突きつけたのだ。
私は答えが見いだせぬまま、夫婦に礼を言って、その家を後にした。
5度目の角館からの帰路は、つらかった。
(2017年1月29日につづく)
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6月10日のLPSA芝浦サロン・沖縄に行っていたはずだった

2011-06-12 00:37:21 | LPSA芝浦サロン
10日(金)のLPSA芝浦サロンは、中倉宏美女流二段の担当だった。
以前もチラッと書いたが、もしJALのマイルがたまっていたら、私はこの時期沖縄に行っていた。無料航空券の該当マイルに1,513マイルほど足りなかったため断念せざるを得なかったが、何とかできなかったものかと、いまでも頭の隅に引っかかっている。
数年前にJALとJAS(日本エアシステム)が統合した際、JAL(JAS)は統合キャンペーンとして、15,000マイルで往復無料のところ、12,000マイルで無料、とのキャンペーンを打ち出した。
私は嬉々として、電話で「羽田(JAL)→福岡、長崎(JAS)→羽田」の行程を予約した。ところが案内嬢は、統合はしたけれども、行きと帰りの両方とも同一の会社でないと、マイルキャンペーンは適用されない、という意味のことを言った。
バカな。それじゃ統合の意味がないじゃないか、と私は憤慨したが、怒ったところで規定が変わるわけでもない。決められたルールには従うしかない。
長崎へは例の喫茶店へ行くから、帰りの長崎空港は変えられない。よって、変えるなら福岡空港であろう。往復長崎空港なら、同じJASの運航なので、キャンペーンどおり12,000マイルで無料航空券と交換できる。しかし当時は私も30代でまだ若かったので、中洲での夜遊びをどうしてもしたかった。ハメを外したかった。
そこで、バカバカしいのを承知で、15,000マイルを使って、ふつうに無料航空券と交換したのだった。
このときムダ使いした3,000マイル。これが数年後に、私の沖縄行きを阻むことになろうとは、何という巡り合わせだと思う。もうやってられない。
いやそもそも、JALが上場廃止をしなければ、私は現在も、JALでマイルをためていたはずなのだ。まったく人生も企業も、一寸先は闇だ。
現在のマイルの一部(3,227マイル)は8月31日に消失してしまうため、そうなると無料の空港往復はむずかしくなる。
さて5時すぎに芝浦サロンに入ったが、サロンは休憩中だったので、「小諸そば」に行く。きのうも入ったから、連日の入店だ。小諸そばの特色のひとつは「ネギの入れ放題」である。テーブルの上にあるネギ入れから、めんつゆにネギをどっさり入れて(通は、薬味を直接そばにつける)、そばをたぐる。ネギそばの趣があって美味いが、そのネギは衛生上、6月~9月の間は、店側が個別にネギをのせる。
それでもいいが、のせる量が少なくなって、いささかテンションが下がった。
サロンに戻ると、Tod氏がいた。旧金曜サロン・ジョナサン組のひとりである。聞くと、彼はすでに午後3時に入って、宏美女流二段と1局指したという。小諸そばにも行ってきたらしい。小諸そばの利用者は多いようである。そしてTod氏は、これから宏美女流二段とおかわり対局をするといった。
何度も書くが、旧金曜サロンは、1日3,000円で、女流棋士と2局指せた。いまは3,500円で女流棋士と1局。2局指せば4,500円だ。これはけっこうな額である。日本の労働者は、そんなにお小遣いはない。私も頑張ってきたけれど、そろそろ芝浦通いを見直す時期にきたようだ。
6時まで時間があるので、Tod氏とリーグ戦。しかし私ばかりリーグ戦を消化している。芝浦リーグは、勝数はもちろんだが、対局数も重視される。たとえば「5勝3敗」と「5勝5敗」なら、対局数の多い「5勝5敗」が、順位が上になるのだ。より多く芝浦サロンに通った人に軍配を上げるわけだ。
とすれば、私はかなり有利な立場にいるが、対抗がいないのにひとりいきり立っても、虚しい。
Tod氏とは飛車落ち。中盤、Tod氏の▲8八角がココセ級の大悪手で、私に△7六桂と飛車角両取りに打たれ、一発で終わってしまった。
宏美女流二段との指導対局に入る。もし沖縄に行っていたら、きょう10日は、梅雨の明けた沖縄本島・渡嘉敷島の阿波連ビーチで泳いだろうか。それとも宮古島まで飛んでいたろうか。
返す返すもいまいましいが、しかしそんな考えも、宏美女流二段を見たら、雲散霧消する。宏美女流二段の美しいこと! 遠く平安時代から舞い降りた天女のようだ。私がもし沖縄に行っていたら、きょう宏美女流二段とは、お手合わせ願えなかったのだ。前日の船戸陽子女流二段もそうだ。
宏美女流二段を見つめる度胸はないから、視線を下に落とす。と、宏美女流二段のミュールからかわいい親指が見えて、ドキッとしてしまった。
Tod氏は宏美女流二段との2局目を終えて、退席。私は宏美女流二段との「ワイン勝負」第5、6局を終え、そのあとは社団戦の参加費を納めにきたY氏と、芝浦サイゼリヤへ行った。
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52人に聞く52本のワイン

2011-06-11 17:45:09 | LPSA木曜ワインサロン
第3回AKB48総選挙は、前田敦子が1位だった。私が投票権(券)を持っていたら、篠田麻里子に投じた。その篠田麻里子は4位。大健闘であろう。日本全国のファンが参加した、白熱したいい戦いだったと思う。

9日は、船戸陽子女流二段主宰の「LPSA木曜ワインサロン」に行った。このブログの読者なら当然ご存じだと思うが、船戸女流二段は女流棋士でありながらソムリエの資格も持つ、世界でただひとりの女性である。昨年11月15日現在、日本のソムリエは15,253人。女性はそのうち7,237人である(日本ソムリエ協会発表)。女流棋士とソムリエの数を比較しても意味はないが、ひとついえることは、どちらもなるのは大変だということだ。
木曜ワインサロンは、その船戸女流二段が勧めるワインに、ミニ講座、指導対局もつくという、ワイン通には堪えられない企画である。今回は全6回(4月~6月)の第5回目だった。
さて今回の木曜ワインサロンで、船戸女流二段には、ここ13日間で6回もお会いしたことになった。すなわち、

5月28日(土) 将棋ペンクラブ関東交流会
5月29日(日) みんなハッピー!LPSA将棋パーク
5月30日(月) LPSAめいめいトーナメント
6月3日(金) LPSA芝浦サロン
6月6日(月) LPSA芝浦サロン
6月9日(木) LPSA木曜ワインサロン

である。
ほかの船戸ファンが見たら「羨ましい」の一語だろうが、女流棋士に会うにはおカネがかかるわけで、けっこうたいへんである。
きょうの客はKun氏、ミスター中飛車氏に、K・T氏、それと私の4人。私以外はいずれもワインに詳しく、私には場違いな感じがする。
今回はいきなり指導対局から入り、途中からワイン講義になった。その冒頭に船戸女流二段からお知らせがあり、「アサヒワインコム」というサイトの「52人に聞く52本のワイン」のコーナーに、10日から自身が登場する、とのことだった。後日私もそのサイトを開いてみたが、アップされた船戸女流二段の写真がとても美しく、見とれてしまった。やっぱり彼女は心理評論家の植木理恵に似ている。船戸女流二段も植木理恵も、本当に美人だと思う。
船戸女流二段の「きょうのおススメワイン」は「Muscadet」の「Sur lie」。「Muscadet」は、フランス・ロワール地方の河口にある辛口の白ワイン。「Sur lie」は澱(おり)抜きをしない製法で造ったものをいう。通常は澱を抜きながら造るので、たぶん珍しい製法なのだろう。
船戸女流二段の講義は分かりやすい。分かりやすくて、つい右の耳から左の耳へ抜けてしまう。こんなことだから、船戸女流二段に「全然憶えないんですね」とため息をつかれてしまうのだ。
6日の船戸女流二段はいい香りのする香水をつけていたが、きょうは香りがしない。余計な香りは、ワインを楽しむのに邪魔になるという考えだろう。いつだったか船戸女流二段から、ワインを楽しむときは口紅をつけない、と聞いたことがある。恐らくデートのときも、そうなのだろう。
指導対局は船戸女流二段の中飛車になった。
「きょうは暑かったので、穴熊にはしません」
と船戸女流二段の宣言があった。ただ木曜ワインサロンの船戸女流二段は、ソムリエに力を入れているからか、指導対局はいまひとつのように思う。
きょうは中盤の折衝で船戸女流二段に弱気な手が出て、気がついたら私の優勢になっていた。
終盤、△9二王にめがけて▲8五桂と据えた局面。ここで船戸女流二段は△3一金打と竜をしかる。貴重なカナ駒をここに投入するのだからふつうはない手だが、船戸女流二段はなりふり構わない。その気迫に押されて私は▲1一竜とひるんだが、ここは▲9三銀と打てば、△同桂▲同歩成△同銀▲同桂成△同馬▲同飛成△8一王▲9一竜まで、即詰みだった。
形勢が大差だったので以後は私が押し切ったが、一手争いの最中だったら、あぶなかった。
次回の木曜ワインサロンは23日である。興味のある方は、LPSAへお問い合わせください。
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