見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

天台の声明/東京国立博物館

2006-04-08 22:51:42 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館『天台声明公演』~特別展『最澄と天台の国宝』関連事業

http://www.tnm.jp/jp/servlet/Con?pageId=B01&processId=01&event_id=2775

 金曜日、声明公演を聴きに行った。このところ、日中はそこそこ暖かい陽気が続いていたので、すっかり油断していたら、日が落ちると同時に、冷たい夜風が吹き始め、野外で聴くのはかなり辛かった。途中で帰ろうかとも思ったが、人だかりの中に入ってしまうと、なんとかしのげた。

 上記のサイトに上がっている写真は、昨年秋、京都国立博物館で行われた同じイベントの様子らしい。京博では、本館の前に特設ステージが作られているが、東博では、本館正面の車寄せ(玄関の前に張り出した、屋根付きのスペース)が、そのままステージになった。車寄せの頭上には、左右に流れ下る滝のような、見事な瓦屋根が載っている。ちょっと権威主義的な装飾だが、この日は典礼の晴れがましさによく似合っていた。声明が始まると、夕暮れの空から飛天が下りてこないかと思って、ときどき、屋根を見上げていた。

 仏教の声明は、機会があれば聴きに行く。いちばん好きなのは東大寺の修二会の声明で、「南無観(ナムカン)」「観自在(カンジザイ)」という、跳ねるような撥音(ンの音)が、早いリズムで繰り返される下りが好きだ。昨年は、国立劇場で行われた万福寺の声明公演を聴きに行った。中国・明代の発音に近いという黄檗宗の声明は、やはり撥音の多い、明るいものだった。

 それに対して、天台の声明は、「アァァァ~イィィィ~」という具合に、長く尾を引く母音が耳に残る。素人の印象では、相撲甚句や民謡に似ている。日本語音と日本人の感性に適応し、土着化した声明であると思った。笙や篳篥など、雅楽の楽隊を引き連れた声明というのも初めてだった。

 言語学では母音を陽性と陰性に分ける考え方がある。と思ったが、いま、ネットで探してみると、朝鮮語やモンゴル語についてはあっても、日本語についてはめぼしい記述がない。子供の名付け方や名前占いのレベルだったかしら。しかし、実際、伸ばす「ア」は明るく感じられるのに対して、「イ」は暗い。メロディも声量も変わらないのに、発音が「ア」から「イ」に切り替わると、光が翳り、寒さが増すように感じた。

 そこで思ったのだが、「君が代」が嫌われるのは、「イ」音の多さと関係がないだろうか。国歌を定めるなら、内容はともかく、「ア」音や「オ」音の目立つ歌詞にすればいいのに、と思う。
コメント
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