見もの・読みもの日記

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ヤングアダルト諸君/日本という国(小熊英二)

2006-04-13 08:51:47 | 読んだもの(書籍)
○小熊英二『日本という国』(よりみちパン!セ) 理論社 2006.4

 「中学生以上」を対象とする、いわゆるヤングアダルト本のシリーズである。同じシリーズで、みうらじゅんの『正しい保健体育』(2005.1)が出たときは、ちょっと気になったが、結局、買わなかった。その後、養老孟司や重松清など、当代の”人気作家”が起用されているのは知っていたが、本書を見たときは、うわ!小熊センセイ登場か!と膝を打った。

 このテーマ(日本の近現代史)を取り上げてくれたのは、当然のことと言いながら、嬉しい。私が中学高校で受けた歴史の授業では、本書のような内容は、ほとんど、まともに時間を割いてもらった記憶がない。最近は、歴史教育の重点の置き方も、少し変わってきているかも知れないが、逆に(かつての私のように)日本史を全く選択しない、という学生は、増えているのではないかと思う。  

 主に中高校生が対象ということで、ルビ付き、平易な語り口、構成もよく考えられている。 昨年、私は山室信一氏の『日露戦争の世紀』(岩波新書 2005.7)を読んで、高校生にも手に取ってもらえる本を意図した、という著者の努力に感動した。しかし、同書に対して、紀伊國屋書店『書評空間』の早瀬晋三さんのコラムは「多くの学生には、なお難解である」という厳しいコメントを寄せていた。さて、早瀬さんなら、本書はどう評価するだろう?

 冒頭は、「なんで学校に行かなくちゃいけないの?」という、学生にとっては最も日常的な疑問に始まる。その答えとして、明治の日本が取り入れた義務教育という制度は、国を強くすること(国のためにつくす国民を作ること)、端的には、強い軍隊を作ることを目的としたものであるという説明がなされ、「侵略される国」から「侵略する国」を目指した近代日本初期の歩みが概観される。

 第2部では、戦後日本が、どうやって戦争の痛手を克服し、国際社会に戻ることができたかが、赤裸々に語られる。西側世界の「大親分」アメリカの後ろ盾を頼みに、アジア諸国の親米独裁政権と「手打ち」を行っただけで、本当の被害者である民衆のもとには、「謝罪」も「賠償」も届いていないという指摘。最後は、サンフランシスコ講和条約を前にした丸山真男の激烈な感想「日本は、アジアの裏切者としてデビューするのであるか」という一文でしめる。

 小熊さんの本は、論理が明快で、文章が小気味よくて、しかもツボで感動させられる。ヤングアダルト本として、難点はカッコ良すぎることかも知れない(読者の多くは、少し内攻的で思春期コンプレックスの強い青少年だと思うので、こんなカッコいい著者に同調できるかどうか)。にもかかわらず、著者は最後に自著『<民主>と<愛国>』を挙げて、「日本の戦後について、もっとくわしく知りたい人は」「読んでみるといい」と勧めている。あの厚くて高い本を! でも、図書館を利用してでも、あの本を読んでみようという中高生が増えたら嬉しい。著者の言うとおり、「読みにくい本ではない」と思う。

 そして、あの厚い本の評判を聞きながら、恐れをなしている大人は、まず本書から。言葉は平易だが、内容は濃い。世代を超えて討論するためのテキストに使ってみても面白いと思う。
コメント
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