○京都国立博物館 特別展覧会『大絵巻展』
http://www.kyohaku.go.jp/jp/index_top.html
私は絵巻が好きだ! 今でこそ仏画、大和絵、水墨画、浮世絵など、何でも選り好みしないが、日本・東洋絵画の魅力に目覚めた最初のきっかけは絵巻だった。それまでは、「絵は絵であれば足りる」的な、つまり、小林秀雄の『近代絵画』的な絵画論に縛られていて、呪術とか宗教とか工芸とか、まして文学的な要素の混じった絵画は、二流品であると思っていたのだ。
しかし、絵巻は、複雑な物語を表す詞書が加わって、初めて成立する芸術である。その「絵」には、時間の経過を表し、劇的効果を高めるため、さまざまなあざとい技法が使われている。純粋絵画にはあり得ない、絵巻の面白さを素直に認めるところから、私の日本美術開眼が始まった。と言うと聞こえがいいが、要するに、なあんだ、これは(純粋絵画がどうこう言いながら、ウラでは大好きだった)マンガじゃないか!と悟ったのである。
以来、機会があるごとに、絵巻を熱心に見てきた。だから、この展覧会でも、全く初見という作品は少なかった。大分の柞原(ゆずはら)八幡宮に伝わる『由原八幡宮縁起絵巻』(室町時代)は、さすがに初見。新羅から襲来した八頭の悪鬼「塵輪」を仲哀天皇が射殺す場面(正史にはない)は、横長の画面を有効に使って、射手である天皇の登場まで、ぎりぎりまで間を持たす構図が憎い。『餓鬼草紙』の後半も初見かもしれない。登場する餓鬼が、人間に比べて、だんだん大きくなってくるのが面白い。『源氏物語絵巻』の「蓬生」(徳川美術館)も、こんなにしげしげ見たのは初めてだろう。荒れ果てた建物の描写がすさまじいと思った。
白描画の『善教房絵巻』は、サントリー美術館所蔵だし、見ていると思うが、画中の科白を現代語訳で示してあるのが新鮮だった。手慣れた描線と言い、リアルな科白と言い、「夢見がちでない少女マンガ」みたいである。サイバラ理恵子みたいな。
そうすると、『絵師草紙』は、大きな手足とほほえましいオーバーアクションが宮崎駿っぽい。『鳥獣戯画』は、擬人化された動物の表情が、手塚治虫を思わせる。『後三年合戦絵巻』は東博でよく見る作品だが、剽悍な黒の具足、飛び散る血しぶき、激しい矢ぶすまなど、ニヒルで劇画的なカッコよさに満ちていて、『北斗の拳』の世界である。
「大絵巻展」を名乗るわりに、なくて寂しいと思ったのは、『平治物語絵詞』(東博、静嘉堂文庫)と『伴大納言絵巻』(出光美術館)。あっ、『春日権現験記絵』も出てなかったぞ。『北野天神縁起』は後期に出る予定だが、図録を見ると、国宝の承久本ではないらしい。ボストン美術館の『平治物語絵詞・三条殿夜討巻』や『吉備大臣入唐絵巻』を持ち出すのは難しいんだろうなあ。あと、大好きなのに、年来、未見の『長谷雄草紙』は、どこが持っているのかと思ったら、永青文庫なのか! 見たいな~。以上、欲が深くてすみません。
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私は絵巻が好きだ! 今でこそ仏画、大和絵、水墨画、浮世絵など、何でも選り好みしないが、日本・東洋絵画の魅力に目覚めた最初のきっかけは絵巻だった。それまでは、「絵は絵であれば足りる」的な、つまり、小林秀雄の『近代絵画』的な絵画論に縛られていて、呪術とか宗教とか工芸とか、まして文学的な要素の混じった絵画は、二流品であると思っていたのだ。
しかし、絵巻は、複雑な物語を表す詞書が加わって、初めて成立する芸術である。その「絵」には、時間の経過を表し、劇的効果を高めるため、さまざまなあざとい技法が使われている。純粋絵画にはあり得ない、絵巻の面白さを素直に認めるところから、私の日本美術開眼が始まった。と言うと聞こえがいいが、要するに、なあんだ、これは(純粋絵画がどうこう言いながら、ウラでは大好きだった)マンガじゃないか!と悟ったのである。
以来、機会があるごとに、絵巻を熱心に見てきた。だから、この展覧会でも、全く初見という作品は少なかった。大分の柞原(ゆずはら)八幡宮に伝わる『由原八幡宮縁起絵巻』(室町時代)は、さすがに初見。新羅から襲来した八頭の悪鬼「塵輪」を仲哀天皇が射殺す場面(正史にはない)は、横長の画面を有効に使って、射手である天皇の登場まで、ぎりぎりまで間を持たす構図が憎い。『餓鬼草紙』の後半も初見かもしれない。登場する餓鬼が、人間に比べて、だんだん大きくなってくるのが面白い。『源氏物語絵巻』の「蓬生」(徳川美術館)も、こんなにしげしげ見たのは初めてだろう。荒れ果てた建物の描写がすさまじいと思った。
白描画の『善教房絵巻』は、サントリー美術館所蔵だし、見ていると思うが、画中の科白を現代語訳で示してあるのが新鮮だった。手慣れた描線と言い、リアルな科白と言い、「夢見がちでない少女マンガ」みたいである。サイバラ理恵子みたいな。
そうすると、『絵師草紙』は、大きな手足とほほえましいオーバーアクションが宮崎駿っぽい。『鳥獣戯画』は、擬人化された動物の表情が、手塚治虫を思わせる。『後三年合戦絵巻』は東博でよく見る作品だが、剽悍な黒の具足、飛び散る血しぶき、激しい矢ぶすまなど、ニヒルで劇画的なカッコよさに満ちていて、『北斗の拳』の世界である。
「大絵巻展」を名乗るわりに、なくて寂しいと思ったのは、『平治物語絵詞』(東博、静嘉堂文庫)と『伴大納言絵巻』(出光美術館)。あっ、『春日権現験記絵』も出てなかったぞ。『北野天神縁起』は後期に出る予定だが、図録を見ると、国宝の承久本ではないらしい。ボストン美術館の『平治物語絵詞・三条殿夜討巻』や『吉備大臣入唐絵巻』を持ち出すのは難しいんだろうなあ。あと、大好きなのに、年来、未見の『長谷雄草紙』は、どこが持っているのかと思ったら、永青文庫なのか! 見たいな~。以上、欲が深くてすみません。