見もの・読みもの日記

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屏風と扇面図/国宝 燕子花図屏風2011(根津美術館)

2011-04-19 22:56:03 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『国宝 燕子花図屏風 2011』(2011年4月16日~5月15日)

 東日本大震災の影響で、首都圏でも、いくつかの展覧会が中止・延期になった。理由のひとつは、海外の美術館などから、作品の貸出を断られたためだという。根津美術館でも、メトロポリタン美術館所蔵の『八橋図屏風』と同館所蔵の『燕子花図屏風』を並べる『KORIN展』(4月16日~5月15日→まだデータあり)が来春まで延期となり、同じ日程で、このコレクション展が始まったところである。

 まあさ、いいんじゃないの。私は根津美術館なら、わざわざ海外から目玉作品を借りてこなくても、既存のコレクションをゆっくり見せてくれるほうが嬉しい。なので、あまりがっかりもせず、初日から見に行った。館内はすいていたので、しめしめと思う。展示室1は屏風の名品揃い。桜と紅葉を描いた『吉野龍田図屏風』は見慣れた作品だがやっぱりきれいだ。『武蔵野図屏風』は、出る月を描いた左隻だけ見る機会のほうが多いんじゃないかな。赤い入日を描いた右隻が並ぶと、幾何学的な対称性が強調されて面白い。俵屋工房の絵師、喜多川相説(きたがわそうせつ)の『四季草花図屏風』は、視点を低く、華やかさを抑えたところが好ましく感じられた。

 面白かったのは、縦2段に整然と扇100図を描き、「扇の草子」とも称される『扇面歌意図巻』(室町時代)である。扇の外側に和歌が添えられているのだが、展示されていた冒頭にあったのが「山田もるそうづの身こそかなしけれ 秋はてぬればとふ人もなし」。なんとか読み解いて、おお、この和歌、知ってる!と色めき立ってしまった。調べたら、続古今和歌集に載せる、三輪の僧都・玄賓(げんぴん)の作(とされるもの)。謡曲「三輪」にも登場する。「そうづ(僧都)」には「そほづ」の異文もあって、「山田のそほづ」といえば案山子のことと、むかし教わって、どういう情景を思い浮かべればいいのか、悩んだことを思い出した。図巻の扇面には、山裾に広がる一面の稲穂を、墨染の衣の僧侶が肩を丸めて眺めている後ろ姿が描かれていた。

 同じ図巻に「するがなる宇津の山べの うつつにも夢にも 人にあはぬなりけり」(伊勢物語)もあって、これはどうやら山の間に俵型(?)の枕がころがっているというシュールな図様。「虎と見て石に立つ矢もあるものを などわが恋のとおらざらまし」って、面白い歌だなあ。典拠が史記の李広伝なのは分かるが、こんな和歌、どこに載っているんだろう。田植えの図に添えられた「はかなしやみちゆく人のころもでに こ○へうちつけうたふをとめご」(?)も気になる。絵になりやすい和歌を選んでいるのかな。

 2階にあがって、展示室5「棚と卓」も異色のテーマで面白かった。江戸時代や元・明代の螺鈿・蒔絵の卓が並ぶ中に、ひときわボロボロの文机(朱漆案)があって、「伝・楽浪遺跡出土」(後漢時代)と説明されていたのには、呆気にとられた。でも、どこかで見たことがあると思ったんだが…後漢時代の木製机。どこだったろう?

 展示室1を見ている最中、観客の携帯に地震警報が入り、まもなく大きく揺れた。久しぶりの大きな余震だった。なんだか気をそがれて、ほかをまわることは止して、この日は早めに家に帰った。

 追記。メトロポリタン美術館の光琳筆『八橋図屏風』が日本に来るのなら、むしろ出光美術館で見た、抱一筆『八ッ橋図屏風』と並べてみたい。そういえば、『京都 美の継承~文化財デジタルアーカイブ展』(2011年2月9日~25日)を見逃したときは、4月にはホンモノが根津に来るからいいもん、と胸の内で思っていたのだった。諸行無常。
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