■京都国立博物館 特別展覧会『法然-生涯と美術-』(2011年3月26日~5月8日)
『法然上人絵伝』を軸に、法然の生涯と思想、また法然をめぐる人々の事跡を展望する。 展示の中心は、国宝『法然上人絵伝』四十八巻(知恩院蔵)及び、各地に散らばるその模本、伝本、断簡等。『絵伝』は、物語としての魅力はあまり感じないのだが、さまざまな社会階層や職能が描き分けられていて、興味深かった。建築、調度、造船、服飾、風俗などの資料として一級品であるとともに、登場人物の仕草や表情の表現が細やかで、人間の「個性」や「感情」を意識している感じがする。民家の床下にイノシシが集まっている図とか、どうでもいい箇所も面白かったけど。
「ゆかりの美術」では、知恩院の『阿弥陀二十五菩薩来迎図』(早来迎)をはじめとする数々の来迎図を堪能。彫刻(仏像)はちょっと物足りなかった。→※公式サイト
■藤井有鄰館 『指定文化財等 中国書画特別展』(2011年5月1日)
ないと思っていた『関西中国書画コレクション展』のサイトが2/28に立ち上がり、だんだん情報が充実してきた。ありがたいことである。
藤井有鄰館は、滋賀県出身の実業家・藤井善助氏(1873-1943)が創設した私立美術館。秘仏並みに開館日が限られていて、指定文化財書画は「5月と11月の第1、第3日曜日の正午~午後3時半」しか公開しないという「難所」なので、さすがの私も一度も訪ねたことがなかった。しかし今回は、ここの参観を目的に5/1からの旅行スケジュールを組んできたのだ。獅子の石像に護られた正面玄関には「西門へお回り下さい」の看板。
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チケットは、第1館・第2館の個別or共通券が選べる。指定文化財の中国書画等を展示しているのは第1館で、第2館は明治期フランス人が設計した建築が見どころだという。せっかくなので共通券を購入。
第1館1階展示室を覗いて、うわ、タイヘンなところに来てしまった…と感じる。巨大な仏像・仏画が、むき出しのまま、ぎっしり並んでいる。法隆寺の仏像を思わせる東魏(5世紀)の石彫り弥勒三尊があるかと思えば、すぐ隣に元代の壁画、清代の梵鐘など、混乱で頭の中が沸騰しそうだ。いい意味で、一時代前の私設美術館の「濃密さ」が残っている。同行の友人が「秘宝館みたいだ」とささやく。
確か2階にあったのが、乾隆帝の玉座、龍袍(3種類)、そして玉印2件(乾隆御筆之寶と…康煕帝だったかな)。他人事ながら、ええ~こんなものが日本にあっていいの?とうろたえまくる。科挙のカンニング用にびっしり文字を書き込んだ下着は、確か宮崎市定著『科挙』の図版で見たもの。3階が書画。黄庭堅の『草書李太白憶旧遊詩』は、逸品中の逸品の名に恥じない。やっぱり書はスピードだなあ。佐理の『離洛帖』を思わせ(と言ったら、喩えが不相応か?)、もっと闊達で自由自在。特製の展示ケースのおかげで、左右にたっぷり見ることができ、しかも展示ケース内に照明がないためか、非常に見やすいのが嬉しい。絵画では袁耀の『楼閣山水図』(春景)が印象に残った。郎世寧・唐岱合作の『春郊閲駿図』は、意外と小さい画巻で、あまり「西洋風」の感じがしなかった。
時刻が3時を過ぎてしまったので、慌てて第2館を見に行く。見どころは建築と、あと「明治大帝」と貼り紙された衣装箱とか伊藤博文の書とか近世の民具とかが、雑然と展示(というより保管)されていた。3階の最後の部屋に先に入った友人が「ほお…」と思わず声を上げる。続いて入って、私も息を呑んだ。藤原時代ふうの端正な阿弥陀像が安置されていたのだ。丸みを帯びた穏やかな相貌は、鳥羽の安楽寿院の阿弥陀如来を思い出させた。部屋の入口に「仏殿」という札が掛っており、これは展示品ではなく、ご主人の礼拝の対象であるらしかった。それにしても優品である。古色を感じる幢幡など、荘厳にも意を用いており、空間全体の居心地がいい。無理なのは分かっていても、ご朱印がいただきたかった!!
館内の案内をしていた女子学生の話では、展示物(書画)は、時によって変わるらしい。「前回と全く変わってるよ~」という会話が聞こえてきた。それでは、機会があったら、また行ってみたい。なお、ホームページ等では「午後3時半まで」と周知されているが、この日は表の看板が「午前11時~午後4時」に訂正されていた。
※参考:理事長・館長の藤井善嗣氏による藤井有鄰館紹介(PDFファイル)
『法然上人絵伝』を軸に、法然の生涯と思想、また法然をめぐる人々の事跡を展望する。 展示の中心は、国宝『法然上人絵伝』四十八巻(知恩院蔵)及び、各地に散らばるその模本、伝本、断簡等。『絵伝』は、物語としての魅力はあまり感じないのだが、さまざまな社会階層や職能が描き分けられていて、興味深かった。建築、調度、造船、服飾、風俗などの資料として一級品であるとともに、登場人物の仕草や表情の表現が細やかで、人間の「個性」や「感情」を意識している感じがする。民家の床下にイノシシが集まっている図とか、どうでもいい箇所も面白かったけど。
「ゆかりの美術」では、知恩院の『阿弥陀二十五菩薩来迎図』(早来迎)をはじめとする数々の来迎図を堪能。彫刻(仏像)はちょっと物足りなかった。→※公式サイト
■藤井有鄰館 『指定文化財等 中国書画特別展』(2011年5月1日)
ないと思っていた『関西中国書画コレクション展』のサイトが2/28に立ち上がり、だんだん情報が充実してきた。ありがたいことである。
藤井有鄰館は、滋賀県出身の実業家・藤井善助氏(1873-1943)が創設した私立美術館。秘仏並みに開館日が限られていて、指定文化財書画は「5月と11月の第1、第3日曜日の正午~午後3時半」しか公開しないという「難所」なので、さすがの私も一度も訪ねたことがなかった。しかし今回は、ここの参観を目的に5/1からの旅行スケジュールを組んできたのだ。獅子の石像に護られた正面玄関には「西門へお回り下さい」の看板。
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チケットは、第1館・第2館の個別or共通券が選べる。指定文化財の中国書画等を展示しているのは第1館で、第2館は明治期フランス人が設計した建築が見どころだという。せっかくなので共通券を購入。
第1館1階展示室を覗いて、うわ、タイヘンなところに来てしまった…と感じる。巨大な仏像・仏画が、むき出しのまま、ぎっしり並んでいる。法隆寺の仏像を思わせる東魏(5世紀)の石彫り弥勒三尊があるかと思えば、すぐ隣に元代の壁画、清代の梵鐘など、混乱で頭の中が沸騰しそうだ。いい意味で、一時代前の私設美術館の「濃密さ」が残っている。同行の友人が「秘宝館みたいだ」とささやく。
確か2階にあったのが、乾隆帝の玉座、龍袍(3種類)、そして玉印2件(乾隆御筆之寶と…康煕帝だったかな)。他人事ながら、ええ~こんなものが日本にあっていいの?とうろたえまくる。科挙のカンニング用にびっしり文字を書き込んだ下着は、確か宮崎市定著『科挙』の図版で見たもの。3階が書画。黄庭堅の『草書李太白憶旧遊詩』は、逸品中の逸品の名に恥じない。やっぱり書はスピードだなあ。佐理の『離洛帖』を思わせ(と言ったら、喩えが不相応か?)、もっと闊達で自由自在。特製の展示ケースのおかげで、左右にたっぷり見ることができ、しかも展示ケース内に照明がないためか、非常に見やすいのが嬉しい。絵画では袁耀の『楼閣山水図』(春景)が印象に残った。郎世寧・唐岱合作の『春郊閲駿図』は、意外と小さい画巻で、あまり「西洋風」の感じがしなかった。
時刻が3時を過ぎてしまったので、慌てて第2館を見に行く。見どころは建築と、あと「明治大帝」と貼り紙された衣装箱とか伊藤博文の書とか近世の民具とかが、雑然と展示(というより保管)されていた。3階の最後の部屋に先に入った友人が「ほお…」と思わず声を上げる。続いて入って、私も息を呑んだ。藤原時代ふうの端正な阿弥陀像が安置されていたのだ。丸みを帯びた穏やかな相貌は、鳥羽の安楽寿院の阿弥陀如来を思い出させた。部屋の入口に「仏殿」という札が掛っており、これは展示品ではなく、ご主人の礼拝の対象であるらしかった。それにしても優品である。古色を感じる幢幡など、荘厳にも意を用いており、空間全体の居心地がいい。無理なのは分かっていても、ご朱印がいただきたかった!!
館内の案内をしていた女子学生の話では、展示物(書画)は、時によって変わるらしい。「前回と全く変わってるよ~」という会話が聞こえてきた。それでは、機会があったら、また行ってみたい。なお、ホームページ等では「午後3時半まで」と周知されているが、この日は表の看板が「午前11時~午後4時」に訂正されていた。
※参考:理事長・館長の藤井善嗣氏による藤井有鄰館紹介(PDFファイル)