見もの・読みもの日記

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美しき線/吉川霊華展(東京近美)

2012-08-08 23:55:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立近代美術館 『吉川霊華展 近代にうまれた線の探究者』(2012年6月12日~7月29日)

 行ったのは3週間前になるのだが、記憶を掘り起こして、ひとことだけでも書き留めておきたい。春に関西に行ったとき、ポスターを見て、あまりに美しい描線にゾクゾクして、どこの美術館でやっている展覧会だろう、と思ったら、東京の近代美術館だった。吉川霊華(きっかわ れいか、1875-1929)という画家のことは、いつ、どんな活躍をしたか、何ひとつ知らなかった。

 解説によれば、明治8年、東京湯島の生まれ。近代の黎明期に生を受けた世代ということになるだろうか。浮世絵や狩野派の手習いを受け、有職故実の研究者であった松原佐久(まつばら すけひさ、1835-1910→このひとも知らなかった)の影響を受け、冷泉為恭(→は知っている)に私淑して、やまと絵を学んだ。

 会場には、若い頃からの膨大なスケッチ帳や習作も展示されていた。風景や身の回りの品々のほかに、多数の古画を模写しているのだが、これが、スゲー上手い。年齢と完成度を見比べて、エエエ、と唸ってしまった。やがて、ゆっくり円熟を増していくが、古画の品格を失わない程度に、近代の個性や写実性(肉体の肉体らしさ)が加わっていて、とても魅力的である。

 (まだ残っている)展覧会サイトに「この画家こそ、筆を『使えた』最後の世代の最高峰です」とあるのを読んで、再び唸った。この繊細で変幻自在の描線は、筆から生まれていたのか、と思って。

 本展の見どころに位置づけられている作品は、大正15年の『離騒』対幅。いま、図録を手元で見ているのだが、意外なほど大きい作品だったなあ…。モノクロのように見えて、実は描線自体に多くの色彩が用いられている。それから、この上唇がめくれ気味の、胴の短い龍は、大陸風というか、半島風というか、少なくとも桃山~江戸に描かれてきた和臭の龍とは異なる(実は「契丹」展で見た龍に似ていると思った)。作者は、当時の考古学の成果も学んでいたのではないかと思った。

 「個人蔵」の作品が多いことが、ひとつの特徴になっているそうだが、確かに私も、できることなら1点くらい手に入れて、部屋に飾っておきたいと思う。仏画がいいなー。
コメント (2)
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