○奈良国立博物館 特別展『国宝 信貴山縁起絵巻-朝護孫子寺と毘沙門天王信仰の至宝-』(2016年4月9日~5月22日)
平安絵巻の傑作として名高い『信貴山縁起絵巻』の全貌(全三巻・全場面)を一挙公開し、あわせて信貴山朝護孫子寺の寺宝の数々を紹介する展覧会。『信貴山』はもちろん大好きな絵巻のひとつである。ブログを検索したら、2007年に『院政期の絵画』で尼公の巻を見ており、2008年に「飛倉(山崎長者)の巻」を見た記録がある。どちらも奈良博。実際は、「延喜加持の巻」を含めて、もう少し頻繁に見ていると思う。しかし、全三巻・全場面の一挙公開というのは記憶にない。
前日は奈良泊まりだったので、朝、早めに博物館に出かけた。まさか並んでいる人はいないだろうと思っていたのに、開館30分前に15~20人くらいの人影があったので、慌てて列に並んだ。開館と同時に入ったが、荷物をロッカーに預けたりしていたので、会場に入ると、第1巻の前には列ができてしまっていた。ちょっと考えたが、まだ誰もいない第2巻(延喜加持の巻)から見ることにした。『信貴山』は各巻の物語の独立性が強いので、順不同の鑑賞をしても、あまり違和感がない。第3巻もゆっくり見て、それから第1巻に戻った。
ああ、第1巻(山崎長者の巻)って、何のプロローグもなく、いきなり大騒動の場面から始まるんだな。序破急も起承転結もあったもんじゃない。倉の扉から飛び出した鉢が、縦に転がっているのも躍動感がある。倉はすでに斜めに傾いでいて、ヘンな突起が描かれていると思ったら、軒の丸瓦が滑り落ちて、まさに空中を落下していく瞬間を描いているのだった。倉の床下と微妙な距離を保ちながら悠然と飛んで行く鉢からは、昭和の特撮の空飛ぶ円盤の効果音が聞こえてきそう。この画家(というより、現代風な親しみを込めて絵師と呼びたい)動きの緩急を描くのが本当に巧い。
第2巻(延喜加持の巻)は、歩いているのか止まっているのか分からない、勅使の一行の姿から始まる。貴族の姿が多く、どの登場人物も動きが少ない中で、長い長い距離を一気に駆け抜けてくる剣の護法童子の躍動感が際立つ。風になびく多数の剣が触れ合う、リズミカルな金属音が聞こえてくるようだ。
第3巻(尼公の巻)は、久しぶりに細部をじっくり見ることができて面白かった。市井の人々の暮らしぶりに気になる点がたくさんある。家の中には猫、家の外には犬の姿も。あと東大寺の大仏殿には、扉の影に四天王の足(と踏まれる邪鬼)や菩薩像(?)の膝とてのひらも描かれているのが心憎い。大仏の光背の化仏や回廊の屋根の鬼瓦もしっかり描かれている、というのは会場内の巨大・高精細写真を見て分かったこと。
『信貴山』は、これまでいくつかの模本がつくられているが、驚いたのは、平成20年度から5か年に渡り、文化庁で制作された最新の復元模写。赤や緑や青の鮮やかな色彩が復元され、やや「興ざめ」の感もあるが、風になびく木々の葉やはためく衣など、ものの動きが鮮明になった点もあり、非常に興味深かった。
『信貴山縁起絵巻』は、ほかにも多くの絵巻の制作にかかわった後白河法皇の関与が想定されている。そこで西新館の第1室では、後白河法皇と蓮華王院宝蔵にゆかりのある絵画史料が展示されていた。なんと『地獄草紙』(後期は『辟邪絵』)に『粉河寺縁起絵巻』に『彦火々出見尊絵巻』(福井・明通寺。原本は失われており、展示は江戸時代の模本)。全く予想していなかったので、嬉しくてテンションが上がった。
さらに信貴山朝護孫子寺の寺宝の数々。バラエティに富んだ毘沙門天像(彫刻、絵画)が面白かった。中国・元代の毘沙門天像(絵画)もあるのだな。信貴山は聖徳太子信仰と縁が深かったことから、太子信仰に関する絵画等も。また、東大寺の裏の若草山から見た信貴山の写真パネルがあって、両者が遠いようで近いことを感じさせた。
最後に、博物館の入口前に来ている信貴山名物の張り子の虎(開館時間になると警備員さんがセットする)。
入場ゲートをくぐったところのディスプレイ。これはけっこう好きだけど…米俵はもっと編隊を成すくらい、たくさん飛ばしてほしかった。本気度が足りない!
平安絵巻の傑作として名高い『信貴山縁起絵巻』の全貌(全三巻・全場面)を一挙公開し、あわせて信貴山朝護孫子寺の寺宝の数々を紹介する展覧会。『信貴山』はもちろん大好きな絵巻のひとつである。ブログを検索したら、2007年に『院政期の絵画』で尼公の巻を見ており、2008年に「飛倉(山崎長者)の巻」を見た記録がある。どちらも奈良博。実際は、「延喜加持の巻」を含めて、もう少し頻繁に見ていると思う。しかし、全三巻・全場面の一挙公開というのは記憶にない。
前日は奈良泊まりだったので、朝、早めに博物館に出かけた。まさか並んでいる人はいないだろうと思っていたのに、開館30分前に15~20人くらいの人影があったので、慌てて列に並んだ。開館と同時に入ったが、荷物をロッカーに預けたりしていたので、会場に入ると、第1巻の前には列ができてしまっていた。ちょっと考えたが、まだ誰もいない第2巻(延喜加持の巻)から見ることにした。『信貴山』は各巻の物語の独立性が強いので、順不同の鑑賞をしても、あまり違和感がない。第3巻もゆっくり見て、それから第1巻に戻った。
ああ、第1巻(山崎長者の巻)って、何のプロローグもなく、いきなり大騒動の場面から始まるんだな。序破急も起承転結もあったもんじゃない。倉の扉から飛び出した鉢が、縦に転がっているのも躍動感がある。倉はすでに斜めに傾いでいて、ヘンな突起が描かれていると思ったら、軒の丸瓦が滑り落ちて、まさに空中を落下していく瞬間を描いているのだった。倉の床下と微妙な距離を保ちながら悠然と飛んで行く鉢からは、昭和の特撮の空飛ぶ円盤の効果音が聞こえてきそう。この画家(というより、現代風な親しみを込めて絵師と呼びたい)動きの緩急を描くのが本当に巧い。
第2巻(延喜加持の巻)は、歩いているのか止まっているのか分からない、勅使の一行の姿から始まる。貴族の姿が多く、どの登場人物も動きが少ない中で、長い長い距離を一気に駆け抜けてくる剣の護法童子の躍動感が際立つ。風になびく多数の剣が触れ合う、リズミカルな金属音が聞こえてくるようだ。
第3巻(尼公の巻)は、久しぶりに細部をじっくり見ることができて面白かった。市井の人々の暮らしぶりに気になる点がたくさんある。家の中には猫、家の外には犬の姿も。あと東大寺の大仏殿には、扉の影に四天王の足(と踏まれる邪鬼)や菩薩像(?)の膝とてのひらも描かれているのが心憎い。大仏の光背の化仏や回廊の屋根の鬼瓦もしっかり描かれている、というのは会場内の巨大・高精細写真を見て分かったこと。
『信貴山』は、これまでいくつかの模本がつくられているが、驚いたのは、平成20年度から5か年に渡り、文化庁で制作された最新の復元模写。赤や緑や青の鮮やかな色彩が復元され、やや「興ざめ」の感もあるが、風になびく木々の葉やはためく衣など、ものの動きが鮮明になった点もあり、非常に興味深かった。
『信貴山縁起絵巻』は、ほかにも多くの絵巻の制作にかかわった後白河法皇の関与が想定されている。そこで西新館の第1室では、後白河法皇と蓮華王院宝蔵にゆかりのある絵画史料が展示されていた。なんと『地獄草紙』(後期は『辟邪絵』)に『粉河寺縁起絵巻』に『彦火々出見尊絵巻』(福井・明通寺。原本は失われており、展示は江戸時代の模本)。全く予想していなかったので、嬉しくてテンションが上がった。
さらに信貴山朝護孫子寺の寺宝の数々。バラエティに富んだ毘沙門天像(彫刻、絵画)が面白かった。中国・元代の毘沙門天像(絵画)もあるのだな。信貴山は聖徳太子信仰と縁が深かったことから、太子信仰に関する絵画等も。また、東大寺の裏の若草山から見た信貴山の写真パネルがあって、両者が遠いようで近いことを感じさせた。
最後に、博物館の入口前に来ている信貴山名物の張り子の虎(開館時間になると警備員さんがセットする)。
入場ゲートをくぐったところのディスプレイ。これはけっこう好きだけど…米俵はもっと編隊を成すくらい、たくさん飛ばしてほしかった。本気度が足りない!