■東京芸術大学大学美術館 『藝大コレクション展-春の名品選-』(2016年4月2日~5月8日)
恒例、春の芸大コレクション展。ところが、毎年、この展覧会で見るのを楽しみにしていた黒田清輝の『婦人像(厨房)』は東博の『生誕150年 黒田清輝』展で展示中。また、私は3月に埼玉で見た『原田直次郎展』が、神奈川県立近代美術館(葉山)に巡回中で、こちらに出ている近代洋画も多いはずである。さて、どんな感じかな?と思いながら行ってみた。
冒頭には、破損の激しい月光菩薩坐像。腰を失い、断裂した上半身と下半身を木の柱が結びつけている。両腕もなく、頭部は両目の続きが割れている。片足を踏み下げた月光菩薩って珍しいんじゃないかと思って調べたら、東博の名品ギャラリーで『日光菩薩踏下像』を見つけた。「東京芸大保管月光菩薩像とともに、もとは高山寺薬師如来像に随侍していた像です。この三尊はさらに古くは京都府亀岡市の金輪寺の像であったといいいます」と注記あり。高く結い上げた髷、写実的で人間的な面持ちで、鎌倉仏?と思ったら、奈良(天平)時代の作だった。
この会場は、いつも入口から左側の壁に沿って右回りに進むのだが、なぜか今回は左回りだった。『絵因果経』は恒例の出品。『小野雪見御幸絵巻』(鎌倉時代)はちょっと珍しいんじゃないかと思う。牛車の中の貴人(白河院?俗体だった)の姿が、かなり見えるように描かれているのが面白かった。白鳳時代の繍仏裂2件もあり。曽我蕭白の『群仙図屏風』は何度見ても、見れば見るほどすごいなあ。
展示室の奥は『特集展示 藝コレの「60-70's」』のゾーンになっていて、これも面白かった。1960~70年代って、すでに確固とした「近代史」になりつつある。再び名品展に戻る。すごく目立たないところに高橋由一の『鮭』がいた。闇夜か暁かに咆哮する虎を描いた『猛虎一声』は山本芳翠の作品。最後に平櫛田中の『鏡獅子』があって、国立劇場のロビーにある同名の作を思い出した。
■東京芸術大学大学美術館・陳列館 東京藝術大学アフガニスタン特別企画展『素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~』(2016年4月12日~6月19日)
東博の『黄金のアフガニスタン』にあわせて開催中の企画展(入場無料)。1階の展示室には、内戦の混乱の下、アフガニスタンから海外に流出し、日本で保護された文化財が展示されている。壁画や塑像(ストゥッコ)の断片など。2001年、バーミヤン大仏がタリバンに爆破された直後から、芸大学長であった故・平山郁夫氏は「流出文化財保護日本委員会」を組織し、日本にたどりついたアフガニスタン流出文化財を「文化財難民」を保護・保管する活動を始めた。年表によれば、2002年7~9月に芸大美術館で『アフガニスタン 悠久の歴史』展が開かれている。私はこの展覧会に強い印象を受けたことを覚えている。「ゼウス神像左足」は確実にこのとき見たものだ。流出文化財102点は、今回、東博で15点、芸大で87点の全点が展示されている。そして、アフガニスタンへの返還が正式に決まったのだという。あの展覧会から14年か。明けない朝はないのだとしみじみ思う。
展示品は、人間や動物の小さな頭部がとても多い。そして、目の大きさ、鼻の高さ、顎のかたちなど、ひとつひとつ個性的で愛嬌がある。壁画は多くが仏像で、剥落で色彩が曖昧になっていても、顔だけはしっかり残っている(または後補されている)ものが多い。展示室の出口付近には、壁画片の複製があって、触ることができる。いかにも洞窟の壁から剥してきたらしい質感にドキドキした。
アフガニスタン仏教遺跡のシンボルだったバーミヤンの東西の大仏は、2001年に破壊されてしまった。日本の京都大学中央アジア学術調査隊は1970年代にバーミヤン石窟の調査を行っており、東西の大仏の頭上に壁画があったことが分かっている。このたび、芸大プロジェクトスタッフは、東大仏の仏龕天井にあった太陽神の壁画の復元に取り組んだ。2階会場に上がると、原寸大の復元壁画が、見る者の頭上に広がっている。壁面の立ち上がりは、ごつごつした岩肌を模していた(触ってみた)。図録を読んだら、復元画像データをインクジェットプリンタで印刷し、構造体に貼り付ける手順らしい。すごい。前面の壁には、大仏の頭部から眺めたような地上の村と遠い山並みが映し出され、太陽の高さが刻々と変わっていく。
なお文化財保護のため1,000円以上寄付すると、流出文化財全点(たぶん)のカラー写真+壁画復元の詳細を述べた『アフガニスタン流出文化財報告書』がいただける。普通に買ってもそれくらいの価値がある報告書だと思うので、絶対にお得。出口の学生さんに「復元した壁画は、この後どうするんですか?」と聞いたら「たぶん分解して保存します」とおっしゃっていた。以前、法隆寺金堂壁画の復元展示を見たときも、気になって同じようなことを聞いた記憶がある。芸大って、こういう復元品がどんどん溜まっているのかしら。仕舞い込まれているのはもったいない。
※参考:展覧会特設サイト
恒例、春の芸大コレクション展。ところが、毎年、この展覧会で見るのを楽しみにしていた黒田清輝の『婦人像(厨房)』は東博の『生誕150年 黒田清輝』展で展示中。また、私は3月に埼玉で見た『原田直次郎展』が、神奈川県立近代美術館(葉山)に巡回中で、こちらに出ている近代洋画も多いはずである。さて、どんな感じかな?と思いながら行ってみた。
冒頭には、破損の激しい月光菩薩坐像。腰を失い、断裂した上半身と下半身を木の柱が結びつけている。両腕もなく、頭部は両目の続きが割れている。片足を踏み下げた月光菩薩って珍しいんじゃないかと思って調べたら、東博の名品ギャラリーで『日光菩薩踏下像』を見つけた。「東京芸大保管月光菩薩像とともに、もとは高山寺薬師如来像に随侍していた像です。この三尊はさらに古くは京都府亀岡市の金輪寺の像であったといいいます」と注記あり。高く結い上げた髷、写実的で人間的な面持ちで、鎌倉仏?と思ったら、奈良(天平)時代の作だった。
この会場は、いつも入口から左側の壁に沿って右回りに進むのだが、なぜか今回は左回りだった。『絵因果経』は恒例の出品。『小野雪見御幸絵巻』(鎌倉時代)はちょっと珍しいんじゃないかと思う。牛車の中の貴人(白河院?俗体だった)の姿が、かなり見えるように描かれているのが面白かった。白鳳時代の繍仏裂2件もあり。曽我蕭白の『群仙図屏風』は何度見ても、見れば見るほどすごいなあ。
展示室の奥は『特集展示 藝コレの「60-70's」』のゾーンになっていて、これも面白かった。1960~70年代って、すでに確固とした「近代史」になりつつある。再び名品展に戻る。すごく目立たないところに高橋由一の『鮭』がいた。闇夜か暁かに咆哮する虎を描いた『猛虎一声』は山本芳翠の作品。最後に平櫛田中の『鏡獅子』があって、国立劇場のロビーにある同名の作を思い出した。
■東京芸術大学大学美術館・陳列館 東京藝術大学アフガニスタン特別企画展『素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに~』(2016年4月12日~6月19日)
東博の『黄金のアフガニスタン』にあわせて開催中の企画展(入場無料)。1階の展示室には、内戦の混乱の下、アフガニスタンから海外に流出し、日本で保護された文化財が展示されている。壁画や塑像(ストゥッコ)の断片など。2001年、バーミヤン大仏がタリバンに爆破された直後から、芸大学長であった故・平山郁夫氏は「流出文化財保護日本委員会」を組織し、日本にたどりついたアフガニスタン流出文化財を「文化財難民」を保護・保管する活動を始めた。年表によれば、2002年7~9月に芸大美術館で『アフガニスタン 悠久の歴史』展が開かれている。私はこの展覧会に強い印象を受けたことを覚えている。「ゼウス神像左足」は確実にこのとき見たものだ。流出文化財102点は、今回、東博で15点、芸大で87点の全点が展示されている。そして、アフガニスタンへの返還が正式に決まったのだという。あの展覧会から14年か。明けない朝はないのだとしみじみ思う。
展示品は、人間や動物の小さな頭部がとても多い。そして、目の大きさ、鼻の高さ、顎のかたちなど、ひとつひとつ個性的で愛嬌がある。壁画は多くが仏像で、剥落で色彩が曖昧になっていても、顔だけはしっかり残っている(または後補されている)ものが多い。展示室の出口付近には、壁画片の複製があって、触ることができる。いかにも洞窟の壁から剥してきたらしい質感にドキドキした。
アフガニスタン仏教遺跡のシンボルだったバーミヤンの東西の大仏は、2001年に破壊されてしまった。日本の京都大学中央アジア学術調査隊は1970年代にバーミヤン石窟の調査を行っており、東西の大仏の頭上に壁画があったことが分かっている。このたび、芸大プロジェクトスタッフは、東大仏の仏龕天井にあった太陽神の壁画の復元に取り組んだ。2階会場に上がると、原寸大の復元壁画が、見る者の頭上に広がっている。壁面の立ち上がりは、ごつごつした岩肌を模していた(触ってみた)。図録を読んだら、復元画像データをインクジェットプリンタで印刷し、構造体に貼り付ける手順らしい。すごい。前面の壁には、大仏の頭部から眺めたような地上の村と遠い山並みが映し出され、太陽の高さが刻々と変わっていく。
なお文化財保護のため1,000円以上寄付すると、流出文化財全点(たぶん)のカラー写真+壁画復元の詳細を述べた『アフガニスタン流出文化財報告書』がいただける。普通に買ってもそれくらいの価値がある報告書だと思うので、絶対にお得。出口の学生さんに「復元した壁画は、この後どうするんですか?」と聞いたら「たぶん分解して保存します」とおっしゃっていた。以前、法隆寺金堂壁画の復元展示を見たときも、気になって同じようなことを聞いた記憶がある。芸大って、こういう復元品がどんどん溜まっているのかしら。仕舞い込まれているのはもったいない。
※参考:展覧会特設サイト