見もの・読みもの日記

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昭和生まれの犯罪簿/殺人者はそこにいる(「新潮45」編集部)

2017-03-08 21:20:59 | 読んだもの(書籍)
〇「新潮45」編集部編『殺人者はそこにいる:逃げ切れない狂気、非情に13事件』(新潮文庫) 新潮社 2002

 実はこの本、清水潔さんの『殺人犯はそこにいる』を探していて、間違えて購入してしまった。同じ新潮文庫で、ここまで似た題名で、しかも著者記号まで同じ「し」ってヒドイなあ。ちなみに文庫の刊行年は、本書のほうが早い。

 本書は、昭和の終わりから平成の始めにかけて世間を驚かせた13件の殺人事件を紹介している。雑誌「新潮45」に掲載されたもので、巻末に執筆者の一覧がついている。私が記憶していたのは、冒頭の西宮「森安九段」殺人事件くらい。あとは、ぼんやり思い出せる事件もあったが、たぶん一般の報道では、犯行のあまりにも凶悪で猟奇的な側面は伏せられるから、記憶と結びつかないのではないかと思う。

 平成に起きた事件も含まれているのだが、犯行の動機や背景には「昭和」を感じるものが多かった。妬みや恨み、あるいは愛欲などのどろどろした感情。最近は、昭和の頃に比べると、凶悪な殺人事件は減ったような気がする。そのかわり、いじめとかヘイトスピーチとかパワハラとか、あるいは衝動的な犯罪など、昭和と違うタイプの事件が増えているような気がするが、どうなのだろう。

 いろいろ酷い犯罪が並ぶ中で、最も酸鼻をきわめる凄惨な事件は、熊本「お礼参り」連続殺人事件だろう。昭和37年、妻に離婚を迫られた男は、ナイフで妻に重傷を負わせ、妻の実母を刺し殺してしまう。「無期懲役」の判決を受けたが、14年後の昭和51年に仮出獄となる。養母でもある叔母夫妻が身元引受人となったが、仕事もせずにぶらぶらしている男に意見をした叔母夫妻と口論になり、刺身包丁を振り回したため、再び刑務所へ。しかし、それでも昭和59年には、二度目の仮出獄が認められる。これ、本当にこんな制度でいいのか?

 男は30人以上をリストアップして復讐計画を立てていたが、実際に襲われたのは、男の元妻に離婚を勧めた仲人男性の弟の未亡人。仲人男性もその弟もすでに故人になっていたため、「特別個人的な恨みはありませんでしたが、私に冷たく当たり、相談にも乗ってくれなかった」という理由で殺害され、その娘も、一面識もない男に殺害されてしまう。

 この事件は犯行の凶悪さもさることながら、「無期懲役」という刑罰、「仮出獄」という制度がこれでいいのか?と考えさせられる。明治のはじめには「終身刑」(生涯のすべてをもって償う罰)が存在していたが、明治13年に旧刑法が制定された際、終身刑は廃止された。「無期懲役」とは「懲役期間(の定め)がない」という意味で、終身刑ではない。無期刑の場合は「仮釈放」が許される。仮釈放は「改悛の状が認められた場合」等の条件が定められているが、実際は厳密に守られているわけではない。本書には、仮釈放を許された受刑者のうち、実に四割近くが再び犯行に走るという数字も示されている。

 私は死刑にはあまり賛成しない立場だが、日本では有期刑の最高が20年であるのに、「無期懲役」は平均19年4ヶ月で仮釈放を許されているというデータを見ると釈然としない。なんとかならないものか。
コメント
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