見もの・読みもの日記

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阿蘭陀人と唐人/長崎版画と異国の面影(板橋区立美術館)

2017-03-06 21:47:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
板橋区立美術館 『江戸に長崎がやってきた! 長崎版画と異国の面影』(2017年2月25日~3月26日)

 長崎版画とは、オランダ船や唐船など、異国趣味に溢れた長崎の風物に題材を求めた版画で、18~19世紀に長崎で版行され、主に土産物として親しまれた。蘇州版画を源流とするという説明を読んで、あまり質のよくない、色数も少ない地味な版画をイメージしていた。ところが行ってみたら、全く予想と違った。

 第1室は、広い展示室にくねくねした巡路をつくって壁を増やし、小さな版画作品(B4からA3くらい)をたくさん展示している。さまざまな異国船の姿を描いた作品が楽しい。オランダ船はだいたい三本マストの帆船で、色とりどりの小さな旗をたくさん付けている。唐船(中国船)は縦に折りたためる帆を持ったジャンク船で、舳先に魔除けの大きな目玉が描かれている。少数だが蒸気船の姿もある。乗り物好きとしては、これらを見ただけで心を奪われてしまった。

 次に異国の人物像と異国人の暮らしぶり。中国人がこんなにたくさん描かれているとは思わなかった。「唐人」と呼んだり「清朝人」「大清人」と呼んだりしている。もちろん辮髪頭で、朝帽をかぶる。眼鏡をかけた清人も描かれている。元気に遊ぶ唐子の図、関帝の図、どこだかよく分からない中国風の庭園風景など、中国製にしか見えない版画が、実は長崎で刊行され、売られていたのは面白い。「長崎八景」も面白かった。江戸や東海道を思わせる風景の中に、石造りの眼鏡橋や異国の帆船がおさまっているのは、瀟湘八景図のパロディのようにも見える。

 第2室に入ると華麗な色彩の洪水が目に飛び込んでくる。おお~南蛮画だ。いや、時代的には洋風画と呼ぶのが正しいかな? 日本人が制作した西洋風の絵画。荒木如元『蘭人鷹狩図』と若杉五十八『鷹匠図』は、かなり本格的に洋風な油彩画。解説によると、舶来の銅版画集『狩猟家と鷹匠』の挿絵を参考にしているそうだ。『鷹匠図』の鷹がミミズクっぽいなあと思ったら、原画もそんな雰囲気だった。皐錦春の『洋人散歩図』は色白の美青年。梅湾竹直公の『西洋婦人図』は睦まじい男女を描いたものだが、歪んだ空間がグロテスクで怖い。谷鵬紫溟『唐蘭風俗屏風』は六曲一双、片方に遊ぶ唐子たちを見守る唐人夫妻、片方に阿蘭陀人たちの祝宴を描いたもの。色彩の強烈さが、ほとんど曽我蕭白。

 眩暈のしそうなキッチュな洋風画もある一方で、安定した描写力を見せるのが川原慶賀。オランダ人も唐人も、肌の茶色い従者も、話せば分かりそうな聡明な表情をしている。商館ブロンホフの妻と幼い息子の図も愛らしい。今回の展示作品は、長崎版画の下絵を描いた絵師の作品を中心に集められており、知らなかった絵師の名前を新たにずいぶん覚えた。長崎歴史文化博物館と神戸市立文化博物館から多数の作品が来ていて、とても嬉しかった。

 最後に展示室の外に、長崎版画の版元に関するパネル展示があって面白かった。「針屋」「竹寿軒」「豊嶋屋(富嶋屋)」など判明している版元について、活動時期、所在地、特徴が紹介されていた。でもだいたい幕末には店を閉めてしまい、残っている版元はないのだな。次に長崎を歩くときは往時をしのんでみたい。
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