〇東京国立博物館・本館特別1-2室、11室 特別企画『令和6年新指定国宝・重要文化財』(2024年4月23日~5月12日)
連休の1日、特別展『法然と極楽浄土』を見ようと思って行ったのだが、会期の短いこの展示を優先することにした。「新指定国宝・重要文化財」の展示は、コロナ禍の近年、開催時期や展示室を変えていたが、以前の方式に戻ったようである(→令和5年の記事)。
文化庁のホームページによれば、今年は、美術工芸品6件を国宝に、美術工芸品36件を重要文化財に、さらに1件の美術工芸品1件を登録有形文化財に登録することが、文化審議会から答申された(2024年3月15日)。本展は、この国宝・重要文化財指定予定品を紹介するものである。
本館1階、11室(彫刻)の入口に「令和6年新指定国宝・重要文化財」の大きな掲示が出ていたので、インフォメーションデスクで目録を貰いつつ、「この部屋だけですか?」と聞くと「特別1・2室もです」と教えてくれた。11室に入ってすぐ目に入るのは木造牛頭天王坐像(平安時代、重文)(中日新聞2024/3/16、画像あり)。一瞬、馬頭?と思ったら、頭上に載っているのは牛だった。三面十二臂で、左右に日月を掲げ、斧や弓や数珠や、さまざまな品を持ち、蓮華座(?)に坐して片足を踏み下げる。その台座を背中に載せて、うずくまっているのは虎。くわっと口を開けて牙を剥き出してはいるのだが、耳が寝てるし、長い尻尾も下がり気味だし、そもそも前足をたたんだ香箱座りなので、あまり威圧感がない。福井県・八坂神社とあっても、どこだか全然分からなかったが、越前町(鯖江市の西)らしい。同じ八坂神社からもう1件、木造女神坐像も重文に指定されていた。唐装の女神で、頭上に十一面観音みたいな菩薩面を戴く不思議な像(参考:織田文化歴史館)。
法隆寺・玉虫厨子安置の小さな銅造観音菩薩立像が重文になり、京都・大報恩寺(千本釈迦堂)の木造六観音菩薩像(展示は准胝観音)と木造地蔵菩薩立像が国宝になるなど、なつかしくて嬉しい展示もあったが、印象に残ったのは、静岡・南禅寺伝来の諸像。木造十一面観音立像は奈良時代の作だという。現地の工人か造仏僧によるものと見られ、プロポーションはアンバランスだが、顔立ちが妙にリアルに人間くさい。木造二天王(展示は1躯)は大きな目に愛嬌があって惹かれる。「河津平安の仏像展示館」という施設で見られるようだ。
彫刻以外も充実していて面白かった。考古資料は6件が重文指定へ。『千葉県殿塚古墳・姫塚古墳出土埴輪』の中に、さりげなく「異形の人物埴輪」というキャプションをつけたものが2点あって、そのうち1点は「はいもとろう人」とも呼ばれるそうだ。ちょっと諸星大二郎的な想像力を刺激されて好き。多賀城碑が国宝になり(写真展示のみ)多賀城関連の出土品や木簡・文書が重文に指定されたのは、2024年が多賀城創建1300年に当たるのを見込んでのお祝いかな。
根津美術館所蔵の『百草蒔絵薬箪笥』は内容品と一括で重文指定。『紙本著色天子摂関大臣影』(三の丸尚蔵館)は、期待したのだが現物は出ていなかった。新しいものでは油絵の『羽衣天女』(1890年、兵庫県立美術館、写真のみ)が指定されて喜ばしい。小野竹喬『波切村』(1918年、竹喬美術館)が指定されたのは、美術史的な評価があるのだろうけど、私はこのひとの作品が単純に好きなので嬉しい。
結局、この日は常設展示とミュージアムシアター『VR作品・洛中洛外図屛風 舟木本』で疲れて引き上げることにした。特別展はまた次回。