〇根津美術館 企画展『遊びの美』(2022年12月17日~2023年2月5日)
公家が和歌の上達につとめた歌合や家の芸にまで高めた蹴鞠、武家が武芸の鍛錬として位置づけた乗馬や弓矢など、文化としての遊びの諸相を、屏風を中心に、絵画や古筆も含めて紹介する。メインビジュアルは『桜下蹴鞠図屏風』で、私は2010年に同館の新創記念特別展第5部で見たことを記録している。今年の秋、神戸市博で開催された『よみがえる川崎美術館』にも出品されて、けっこう注目を集めていた(展示替えで参観はできず)。
会場に入ると、すぐにこの屏風が目に入る。右隻には、4本の桜の木の下で蹴鞠に興じる8人の男性。2人ずつペアを組んでいるようだ。烏帽子を付けた正選手(?)が4人。そのパートナーは僧形が2人、小姓っぽい若者が2人。蹴鞠用の靴を履いていることが確認できるのは、たぶん2人だけである。 正式の儀礼としての蹴鞠は、四方に桜・柳・楓・松を植えた場所で行うというので、ここに描かれたのは、たまたま気分が盛り上がって始まった「遊び」としての蹴鞠なのだろう。8人の視線の先に、屏風の上端に半分だけ見切れた鞠が浮かんでいる。左隻では、14、5人の従者たちが蹴鞠の勝負を待っている。その1人が、満面の笑みで両手を上げてバンザイのポーズ。人体の描き方があまり巧いと言えないは、伝統的な絵手本にないポーズを、絵師の創意で描いたのではないかと思われる。とても楽しい作品。
このほか、絵画は『西行物語絵巻』(子供の遊び)『源氏物語画帖』(宮廷の遊び、絵合)などが出ていた。『内大臣殿歌合(類聚歌合)』や『二条切(寛平御時后宮歌合)』など、文学史的に重要な歌合資料も出ていて緊張する。『中殿御会図模本』(室町~桃山時代)は、順徳天皇の頃に内裏の清涼殿で行なわれた管絃と和歌の会の様子を描いたもの。何種類かの模本が伝わっているようだ。これは断簡だが色が付いているのが珍しい。みっしりと公卿たちが並んでいる。
時代不同歌合絵断簡の『藤原兼輔像』(鎌倉時代)と『平貞文・藤原重家像』(南北朝~室町時代)が見られたのもよかった。後者は左の肖像が色白デブだと思ったが、重家のほうだろうか?
武芸の時代を代表するのは『犬追物図屏風』『曾我物語図屏風』など。個人的には『玉藻前物語絵巻』を久々に見られて嬉しかった。九尾ならぬ、二股シッポの妖狐。また市井の楽しみを描いた作品では『風流踊図衝立』が出ていた。2021年の『はじめての古美術鑑賞-人をえがく-』で見たのが最初だったと思う。前かがみに姿勢を低くし、かつ足を大きく踏み上げる人々の躍動的なポーズが躍動的で印象に残る。
3階、展示室5は「山水」で、馬鱗筆『夕陽山水図』(南宋時代)が、狩野栄信の『倣馬鱗夕陽山水図』とともに出ていてびっくりした。展示室6「除夜釜-新年を迎える-」は備前、常滑、信楽など地味なやきものを取り揃えつつ、かすかな華やかさを感じさせる。展示室4の古代中国青銅器では、青銅鏡の「兎をさがせ!」を楽しませてもらった。