見もの・読みもの日記

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2022年5月関西旅行:大和文華館、大安寺のすべて(奈良博)

2022-05-08 18:23:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

大和文華館 特別企画展『泰西王侯騎馬図屏風と松浦屏風-越境する美術-』( 2022年4月8日~ 5月15日)

 関西旅行、まだ初日のレポートである。大阪で中之島香雪美術館と大阪市立美術館を見たあと、奈良の大和文華館へ向かった。本展は、東西の文明圏の境界を越えて行き来し、それぞれの地に根付いた美術工芸の諸相を眺める特別企画展。冒頭には「越境」が生み出した3つのうつわが並ぶ。ひとつはドイツのマイセン窯でつくられた柿右衛門写し。次はオランダ製の逆三角形のワイングラスで、東インド会社(VOC)の旗を掲げた帆船と農夫を側面に刻む。口縁には「祖国に繁栄を」の文字あり。最後は大越国(ベトナム)の銘を持つ山水人物文の茶碗で、日本から注文を受けて焼かれたものだという。どれも興味深い。

 本展にはサントリー美術館所蔵の『泰西王侯騎馬図屏風』が出ているはずなのだが、入口から展示室内を見渡した限り、それらしい作品が見えなかった。あれ?と思って展示室に入ると、巡路の冒頭、ちょうど入口から見えないコーナーに展示されていた。何度見ても飽きない作品。「1580年代にはスペイン王(フェリペ2世?)が甲冑姿で馬に乗る自分の肖像画を中国・明の皇帝(→万暦帝だ)に献上しようとした」「宣教師の間では日本の大名には武装した人物画が喜ばれるという情報が共有されていた」などのミニ情報が面白かった。

 『松浦屏風』も何度か見ているが、右隻第三扇の鹿の子絞りの小袖の女性は、元来、ロザリオの十字架をつまむ仕草で描かれていたが、十字架が塗りつぶされ、ただの首飾りになっている、という解説が添えられており、初めて気づいた。特に意味のない、おしゃれアイテムのつもりだったのかもしれないが、キリシタンの祈りを連想させるため、抹消されたのだろうという。

 このほか絵画は、サントリー美術館から伝・狩野山楽筆『南蛮屏風』も来ており、大和文華館所蔵の初期洋風画『婦女弾琴図』、江戸後期の宋紫石、司馬江漢、亜欧堂田善らによる洋風画も多数出ていて楽しかった。初めて見たのは『西洋戦争図巻』(江戸・19世紀)で、ヨーロッパで1830年代に刊行された銅版画(?)15図を日本で模写して紙本着色の図巻に仕立てたもの。神戸市博にもあるという。フランスのアルジェリア侵攻(1830年)、ロシアとオスマントルコの戦争(第4次?)、ポーランド11月蜂起(1830年)など、主な画題は19世紀前半の戦争と分かっているが、中世ふうの甲冑を描いた図も交じる。

 工芸は、オランダ18世紀のワイン瓶だという「オニオンボトル」が可愛かった。復刻品でもいいから欲しい。東洋陶磁を模倣してヨーロッパでつくられたうつわには、独特の「ゆるさ」が味わいになっているものも多い。マイセン窯の柿右衛門写しの『梅竹虎文皿』には、なぜか大きな赤い舌を出したトラが描かれていた。また『梅竹虎文菱花形皿』には、竹に巻き付いて溶けかかったようなトラが描かれていて、笑ってしまった。

奈良国立博物館 特別展『大安寺のすべて-天平のみほとけと祈り-』(2022年4月23日~6月19日)

 続いて奈良博へ。ゴールデンウィーク中は午後7時まで開館なので余裕で参観。本展は、わが国最初の天皇発願の寺を原点とし、時代をリードする大寺院であった大安寺の歴史を様々な角度から紹介する。大安寺には、2年前の2020年3月に拝観に行っており、木彫の仏像群の素晴らしさが、まだ記憶に新しかった。会場には、同寺が保有する奈良時代の仏像9躯のうち、8躯がいらしていた。あ、馬頭観音はいらっしゃらないのか、と思ったら、後期(5/24-)は十一面観音がお帰りになり、交代するようだ。

 前半は文書や発掘資料が多くて、やや地味な展示だが、巨大な風鐸(大安寺旧境内出土)や鬼瓦(伝・大安寺出土)から、かつての大伽藍を想像すると楽しい。三彩などの釉薬を施した陶枕のかけらが約300点(復元すると50個体以上)が見つかっていることは初めて知った。大安寺は、菩提僊那や空海など外国僧や留学僧を含む、多数の僧侶が滞在・往来する国際的な仏教道場だった。

 後半には、意外な仏画や仏像の名品が出ていてびっくりした。大安寺の本尊・釈迦如来像(現存せず)は、かつて日本随一の釈迦像として讃嘆された記録が残っているのだ。その姿を想像すべく、多様な釈迦像が集められている。また大安寺僧の勤操は、空海に虚空蔵菩薩求聞持法を伝えたといわれることから、虚空蔵菩薩の画像・彫刻もあり。さらに大安寺僧の行教が、大安寺の鎮守として八幡神を勧請した縁で、奈良・薬師寺(休ヶ岡八幡宮)の八幡三神像も展示されていた。

 興福寺・北円堂の四天王像は、もと大安寺に伝来したものだという。え~ちょうど北円堂が春の特別開扉(4/23~5/8)をしていたのだが、素通りしてきてしまった。見てくればよかった。会場には、興福寺像の模刻だという大分・永興寺と香川・鷲峰寺の四天王像が出ていた。いちばん驚いたのは、京博でおなじみ、西住寺の宝誌和尚立像で、大安寺金堂にも「面を裂いた中から仏身が現れる」三尺の宝誌像があったそうだ。

 長い歴史を刻んできた大安寺、このたび、奈良時代の大伽藍をCGで復元する試みが行われた。展覧会の会場では、CGの映像が流れている。現地に行くと、自分でコントローラーを操作することも可能らしい。ちょっと触ってみたい。

※産経新聞:900人が居住 失われた大伽藍 大安寺がCG復元(2021/12/1)


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