○東京国立博物館 特別展『中国国宝展』
http://www.tnm.jp/
「中国の国宝」と聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか。私は、庭園とか石窟のような、動かしようのないものを除けば、青銅器と玉器である。そのあとが陶磁器(三彩を含む)。それから書画か。
だから、この展覧会の名称にはちょっと異議がある。東博のホームページを読むと、「(今回の展示は)『仏教美術』と『考古学の新発見』に焦点を当て、約170件の優品により紹介します」と説明してあり、いずれも超級の名品ぞろいであることは否定しない。だけど、ここまで徹底して「考古学」「仏教美術」限定とは思っていなかった。なので、うかつにも会場に入ったら、行っても行っても仏像だらけなので、嬉しいような、騙されたような、ヘンな気がした。
実はこの展示のボリュームの7割以上は仏教美術(仏像)である。その中でも山東省青州市博物館蔵(龍興寺址出土)の仏像の数が非常に多い。2000年秋の「中国国宝展」でも、衆目を集めた文物だ。
日本人好みなのかなあ、と思う。端正で思索的で、しかし、さほど超越的ではない、「至高の人間像」という感じ。ギリシャの古典彫刻に似ている。もしくは広隆寺の弥勒半跏像が半身を起こした姿かも。教義とか信仰を必要としない、一般の美術鑑賞家にも分かりやすい仏像である。
私は、もう少し土着的な妖気があって、近代的思惟を拒絶する感じの仏像のほうが好きなので、贅沢を言うと食い足りない。中国にも異形の仏像はあるはずだが、巨大すぎたり、石窟の壁刻だったり、それから、往々にして生きた信仰の対象になっているので、運び出せないのだと思う。
そんな中で、いちばん惹かれたのは、首のない天王立像。いかにも唐代らしい力強さと華やぎに充ちている。それから、山西省楡社県出土の菩薩立像。体の正面で結んだ天衣のなびきかた、裳(ひだスカート)のふくらみかたの柔らかさは、石像と思えないほどだ。小品では金色の如来三尊立像。夢のように優美かつ繊細。この一品を見るためだけに、本場中国まで出かけてもいいと思う。金製品の美しさは、写真では10分の1も伝わらないので、とにかく本物を見るに限る。
中国文化の”異形性”が存分に楽しめるのは、「考古文物」のパートである。まず、会場入口に展示された「羽人」で卒倒しそうになった。つぶれたカエルみたいな獣(?)の上に鳥がいて、その鳥の頭の上に、嘴と尾のある”羽人”が立っている。解説ボードには「これまでまったく知られていない形式の像である」って、まるで説明になってない。
この”羽人”をはじめ、湖北省荊州市の天星観遺跡からは、独創的な造型感覚の漆器が多数見つかっているようだ。雲南の金具と青銅器、徐州の玉器、陝西省西安の天王俑と鎮墓獣、どれもいい。見逃せないのは、始皇帝陵から出土した銅製の鶴。きわめて写実的なんだけど、写実がきわまって、抽象彫刻みたいな異形性を感じる。
時間があれば、もう1回見に行きたいものだ。
http://www.tnm.jp/
「中国の国宝」と聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか。私は、庭園とか石窟のような、動かしようのないものを除けば、青銅器と玉器である。そのあとが陶磁器(三彩を含む)。それから書画か。
だから、この展覧会の名称にはちょっと異議がある。東博のホームページを読むと、「(今回の展示は)『仏教美術』と『考古学の新発見』に焦点を当て、約170件の優品により紹介します」と説明してあり、いずれも超級の名品ぞろいであることは否定しない。だけど、ここまで徹底して「考古学」「仏教美術」限定とは思っていなかった。なので、うかつにも会場に入ったら、行っても行っても仏像だらけなので、嬉しいような、騙されたような、ヘンな気がした。
実はこの展示のボリュームの7割以上は仏教美術(仏像)である。その中でも山東省青州市博物館蔵(龍興寺址出土)の仏像の数が非常に多い。2000年秋の「中国国宝展」でも、衆目を集めた文物だ。
日本人好みなのかなあ、と思う。端正で思索的で、しかし、さほど超越的ではない、「至高の人間像」という感じ。ギリシャの古典彫刻に似ている。もしくは広隆寺の弥勒半跏像が半身を起こした姿かも。教義とか信仰を必要としない、一般の美術鑑賞家にも分かりやすい仏像である。
私は、もう少し土着的な妖気があって、近代的思惟を拒絶する感じの仏像のほうが好きなので、贅沢を言うと食い足りない。中国にも異形の仏像はあるはずだが、巨大すぎたり、石窟の壁刻だったり、それから、往々にして生きた信仰の対象になっているので、運び出せないのだと思う。
そんな中で、いちばん惹かれたのは、首のない天王立像。いかにも唐代らしい力強さと華やぎに充ちている。それから、山西省楡社県出土の菩薩立像。体の正面で結んだ天衣のなびきかた、裳(ひだスカート)のふくらみかたの柔らかさは、石像と思えないほどだ。小品では金色の如来三尊立像。夢のように優美かつ繊細。この一品を見るためだけに、本場中国まで出かけてもいいと思う。金製品の美しさは、写真では10分の1も伝わらないので、とにかく本物を見るに限る。
中国文化の”異形性”が存分に楽しめるのは、「考古文物」のパートである。まず、会場入口に展示された「羽人」で卒倒しそうになった。つぶれたカエルみたいな獣(?)の上に鳥がいて、その鳥の頭の上に、嘴と尾のある”羽人”が立っている。解説ボードには「これまでまったく知られていない形式の像である」って、まるで説明になってない。
この”羽人”をはじめ、湖北省荊州市の天星観遺跡からは、独創的な造型感覚の漆器が多数見つかっているようだ。雲南の金具と青銅器、徐州の玉器、陝西省西安の天王俑と鎮墓獣、どれもいい。見逃せないのは、始皇帝陵から出土した銅製の鶴。きわめて写実的なんだけど、写実がきわまって、抽象彫刻みたいな異形性を感じる。
時間があれば、もう1回見に行きたいものだ。