付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「黒猫の刹那あるいは卒論指導」 森晶麿

2014-01-30 | 学園小説(ミステリ)
 美術の若き大学教授“黒猫”と、その付き人である“私”が遭遇する事件簿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の前日譚で、2人が共に学生であった時代の物語。
 話のメインが美学とポオの作品に関する文学講義というのはいつものとおり。

「腹を括るだけさ。人生も研究もね。どのみちをいくのか誰と結ばれるのか、何を研究するのか。覚悟を決めたら、来た道を振り返らない。ただ全力で向かっていく。ただし、できるだけシャープな尺度をもってね。それ抜きでは、何事も独りよがりだ」
 君は研究対象に愛される自信はあるかと問い詰める黒猫。

 恋愛関係があるだかないだか、同門の研究者でもある2人の関係が興味深いし、ポオ作品の分析が面白いのも変わらず。

【黒猫の刹那あるいは卒論指導】【森晶麿】【丹地陽子】【ハヤカワ文庫JA】【落とし穴と振り子】【早まった埋葬】【赤死病の仮面】【ウィリアム・ウィルソン】【告げ口心臓】【アモンティラードの酒樽】
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「“六条”~ヒカルが地球にいたころ……(9)」 野村美月

2014-01-25 | 学園小説(ミステリ)
「友達になるのにはなぁっ! 努力が必要なんだよっ! 友達になりたいって思ったら、どんなにこっぱずかしくても、怖くても、まず近づいて、声をかけなきゃならねーんだよ!」
 そうやって距離を近づけていくしかないのだと、赤城是光は手を差し出した。

 帆夏と葵の告白に返事ができないまま、是光は初恋の夕雨と再会した。
 揺らぐ自分の心に戸惑う是光だったが、気がつけば赤城家にみんな集結してしまっていた。みんなって、みんななのだ。広くもない庶民の家に、どうしてみんな押しかけるのだ?
 ところがそんな時、学園にまたもや是光の名を騙った不穏な中傷メールが出回り、少女たちは……。

 収録短編は「帝門一朱の困惑」で、内容はタイトルそのまま。彼、粘着質だからな。
 クライマックスを前にいろいろ新事実が発覚し、ストーリーは後半から一気呵成に危急の展開ですが、本当に是光がピンチだったのは前半の家庭争議。なんというか、「ハーレム王にオレはなる!」とは絶対に言わない展開です。

「愛の告白は、もっとスマートに効率的に行うべきよ」
 生徒会長の朝衣さんは、みんながイチ押しです。みんな、考えることは同じです。 

【六条】【ヒカルが地球にいたころ……】【野村美月】【竹岡美穂】【ファミ通文庫】【学園ロマンス】【目つき悪い主人公】【愛人7号】【大告白大会】【ヒロインズ】【誘拐】【麻薬取引】
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「仮面教師SJ(6)」 麻城ゆう

2013-12-31 | 学園小説(ミステリ)
「オネエチャンに、あげるって」
 驚異的な記憶力でさまざまな分野の専門家に一夜漬けでなりすませる、クラクラこと笹蔵十蔵は教育機構監査局の潜入教師だ。もちろん男。
 そのクラクラが交通事故現場で小さな男の子から手渡された折り紙の鶴には、違法ドラッグが染みこまされていた。どうやら事故で死んだ赤毛の少女と間違われてしまったらしい。
 ちょうどペーパークラフト学校に不審な点があるとの報告もあり、クラクラは折り紙教室の臨時教師として送り込まれるのだが、やはり今回もショータとスナが当然のようについてきていた……。

 各地の専門学校に臨時教師として潜入する仮面教師SJですが、今回は折り紙教室への潜入捜査。本当に有象無象の専門学校が乱立している世界です。
 テレビドラマ化したなら1冊60分枠な内容で、お約束の軽いやりとりを交えながらするすると読了。
 具体的に特捜司法官の組織も見えてきて、後日譚ともいえる短編ではイカサマ占い師にかかわる事件からジョーカーに言及していて、次あたりでどんな具合に完結させようとするのか楽しみに待ちたいと思います。

【仮面教師SJ】【麻城ゆう】【道原かつみ】【ウィングス文庫】【特捜司法官シリーズ】【学園ミステリSF】【特殊加工紙】【非合法ドラッグ】【SNS】
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「悠木まどかは神かもしれない」 竹内雄紀

2013-12-29 | 学園小説(ミステリ)
「勉強するのは、あくまでも手段だ。いい大学に入るのも、あくまでも手段。いい大学を出たら、いい人生が保障されるなんて、思うなよ」
 無理に今、将来の夢を決める必要はないけれど、頭のイイやつには社会のためにそれを役立てる義務があるんだと、マッテルバーガーの篠原店長。
 店長、ただのバカじゃなかったんですね。

 悠木和(まどか)は小学5年生の美少女。しかも秀才ぞろいのアインシュタイン進学会でもとびっきりの。
 けれど彼女の名前がテスト結果のランキングに載ることはない。なぜなら、彼女はいつでも国語と算数のテストが終わると帰ってしまうからだ。
 小田切たちアインシュタイン進学会の三バカトリオは、彼女がどうして理科と社会のテストを受けないのか調べようとするのだが……。

 新潮文庫のTwitterアカウントで「タイトル会議に参加していた者全員が、『まどマギ』を知らなかったんです」とコメントしていて、編集者のアンテナがそんなに低くて大丈夫か!?と物議をかもしたけれど、そんなことを知る前に表紙イラストとあらすじと立ち読みで購入済み。

 でも、ストーリーは『魔法少女まどか☆マギカ』のストーリーを換骨奪胎したものではなかったし、帯にあるようなバカミスともちょっと違う。原稿は持ち込みだったそうだけれど、どちらかといえばジュニア新書向けの、青すぎて痛すぎる小学生の青春小説というのがいちばん近いかな。
 勉強が苦にならず、むしろ勉強が得意な自分が自慢で、男子は互いに「××キョージュ」と呼び合って、ジャーゴン混じりに頭の良い自分をさりげなくアピールしようという姿が、そろそろ微笑ましく見守れるようになりました。20歳頃に読んでいたら、痛すぎるか腹が立って読んでいられなかったかも(そんなことはありませんでしたか?)。
 今はただ、「そういうのって理屈じゃないでしょ」のセリフに胸キュンするだけです。
 はちまき姿の店長さんやナポレオン軍曹の根本さんも、読み終わればステキです。

【悠木まどかは神かもしれない】【竹内雄紀】【ちほ】【新潮文庫】【青春前夜の胸キュンおバカミステリ】【ベーガー深偵】【ナポレオン服の女】【やさしい悪魔】
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「黒猫の遊歩あるいは美学講義」 森晶麿

2013-12-28 | 学園小説(ミステリ)
「川は巨大な香水でもある」
 そしてポオは、川は強烈な死の匂いを発する水だと言う。

 「実際の地名や建物が記されているのに位置関係はでたらめな地図」や「失踪した女性研究者」など、若き大学教授“黒猫”と、その付き人を仰せつかった大学院生の“私”が遭遇する事件を、美学とポオの作品に関する文学講義を題材に紐解いていく短編集。
 ミステリとしてはアンフェアじゃないかと思うところがないわけではないけれど、なにより事件を刺身のツマにするように語られるエドガー・アラン・ポオの作品分析、文学談義、現代美術論が面白いので、謎解きとポオ談義とどちらがメインかよくわからない作品です(たぶんポオ)。
 黒猫は変わり者の若き天才ながらパフェ好き。ときどき出てくる彼のお姉さんも病気持ちながら単なる「病弱」では括れない個性がにじみ出ていて、シリーズとして追っていくのも愉しそうです。

【黒猫の遊歩あるいは美学講義】【森晶麿】【丹地陽子】【ハヤカワ文庫JA】【モルグ街の殺人事件】【黒猫】【マリー・ロジェの謎】【盗まれた手紙】【黄金虫】【大鴉】【アガサ・クリスティー賞】【地図】【香水】【ピアノ】【ウォーホール】
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「エーコと【トオル】と真夜中の落雷少女。」 柳田狐狗狸

2013-10-01 | 学園小説(ミステリ)
「殴りたいと思った時が殴るべき時だ」
 オバァちゃんはいつもそう言っていた。

 偽エーコが出没した。
 おかげで、エーコはいつも以上に他の生徒から不気味がられ、嫌われ、恐れられるようになってしまった。
 他人を信じない、心が空っぽになってしまったエーコにはそんなことはどうでも良かったのだが、自分が殺人未遂の容疑者にされてしまっては、ニセモノを見つけずにはいられなかった……。

 学園サイエンス・ミステリであり、理科室の人体模型だけが話し相手という孤独な少女の戦いを描いた学園小説の2冊目。帯にも書かれているように、今回も残酷で救いのない事件です。
 それでもかすかに、ごくごくかすかに何かが動いているような気がするのですが、人の心は目には見えないし、触れられないので確かめることはできません。

 でも、やはりいちばん迂闊なのは教頭先生だと思います。最後はひっくり返って当然だと思いますが、ナンパな刑事さんはちょっと気の毒すぎます。一歩間違えたら死ぬか大怪我かもしれないのに、いつもと変わらないヘラヘラは、なかなかの大人物なようです。

【エーコと【トオル】と真夜中の落雷少女(ラッキーガール)。】【柳田狐狗狸】【MACCO】【電撃文庫】【ひねくれ少女のシニカルな学園ミステリー】【レッドブルマー】【いじめ】【落雷】
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「“花散里”~ヒカルが地球にいたころ……(8)」 野村美月

2013-09-16 | 学園小説(ミステリ)
「間に合わねぇなんて言うのは、本当に間に合わなかったとき、はじめて言うセリフだぜ!」
 ぎりぎりまでやれることをするのだと赤城是光。

 本人も周囲も誰も望んでいないのに、「ぶ、文化祭の実行委員に、赤城是光くんを、推薦します」という委員長みちるの発言によって是光はクラス企画をとりまとめるはめに。
 さらには月夜子主催の日舞研も文化祭に出店すると言いだし、はたまた生徒会長の朝衣に特別警護班への参加を命じられるなど是光は右往左往。しかも母との別れを支えてくれた葵を変に意識してしまったこともあって、葵や帆夏との関係もギクシャクし始めた。
 そんな是光に、資料をこっそり提供してくれる正体不明の援助者が現れて……。

 目つきや人相の悪さから彼女どころか友達もいない主人公が、いつの間にか周囲の才媛才女から慕われるようになり、経験値不足から当初は気がつかないふり、誤解だろうと思いこもうとしていたけれど、真っ正面から好きですと気持ちをぶつけられたら知らぬ存ぜぬ聞こえない……とはいきません。人間関係だけ端折って丸めると、『僕は友達が少ない』と似ていますし、人相が悪いことを除けば『スカイ・ワールド』も似た展開で、どれも続きが楽しみなシリーズですが、野村美月はこのシリーズを10巻まで書き上げてシリーズ完結させている上に、その次のシリーズも刊行待ちという筆の速さ。速いだけでなく、編集部にゴーサインを出させるだけの売上げもあるのでしょうね。
 あと2冊でどう収まるのか、「誰がヒカルを殺したのか?」なんかよりも、「ヒカルほど物慣れていない是光が、この女性関係にどう収拾つけるのか?」の方がよほど大問題です。

【花散里】【ヒカルが地球にいたころ……】【野村美月】【竹岡美穂】【ファミ通文庫】【学園ロマンス】【目つき悪い主人公】【文化祭】【ナースさん】
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「仮面教師SJ(5)」 麻城ゆう

2013-08-28 | 学園小説(ミステリ)
……3巻と4巻を買ってない?

 クラクラこと笹蔵十蔵は教育機構監査局の潜入教師。その驚異的な記憶力をベースに専門家としての技能を再現することで、各地の専門学校に臨時教師として潜入し、校内に不正が無いか調査するのが任務だ。
 今回の任務は孤島にある陶工学校。
 ところが行く先々で生徒として出会うショータとスナがまたしても生徒として同行。まだ16歳のはずのショータが特捜司法官ではないかと疑うクラクラだったが……。

 異色の学園ミステリSF、仮面教師の5冊目。後日譚ともいえる短編「タンブラー」も収録。
 今回は、無人島に設置された陶工の養成校での物語です。渡り鳥のようにあちらこちらの学校を、料理やらカクテルやら時計修理やらの専門家として渡り歩く教師と、これまたいつの間にか同じ学校に転校している生徒2人組という、道中物の変形パターンがなんだか愉しくなってきましたが、今回はちょっとクラクラが悩みすぎ。こういうのはたいてい一ひねりされちゃうものなのです。 

【仮面教師SJ】【麻城ゆう】【道原かつみ】【ウィングス文庫】【天目学園島】【竜窯】【学園七不思議】【タタラ】【海上警察】【曜変天目】【合コン】【詐欺師】
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「昨日まで不思議の校舎」  似鳥鶏

2013-07-30 | 学園小説(ミステリ)
『人生は、なかなかどうして素晴らしい』

 「にわか高校生探偵団」シリーズの第5弾で、シリーズ1作目の『理由あって冬に出る』での伏線も回収されてしまったので「これで完結!?」かと思ったら、まだまだ続きますよと作者あとがき。編集者も同じことを思ったようです。

 オカルト研の会報によれば、この高校には7不思議があるというが、そのうち4つは不思議でも何でもない。だって、どれも自分が絡んだ事件が元ネタなんだから。
 あえていうなら、これだけの事件が起こるこの学校そのものがおかしいのだろうか。どこの学校も似たようなものかと思ったら、そんなことはないという……。

 オカルト研のいい加減な記事から始まる怪奇な事件の、背後に隠された本当の怪異の物語。出番は少ないけれど、こっちの妹はなかなかするどい。あちらの妹の出番にも期待します。
 コミカルではあるけれどドタバタではなく、ときにほろ苦くやるせなく、だからこそ彼らには希望があってもいいと思う。

「日本人はとにかく控え目なのを褒めたがるけど、問題が起こった時、対処する能力のある人間が遠慮して前に出ないのは、決して美徳なんかじゃない」
 困っている人がいたら助けようとしてもいいのだと管家先生。

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「生徒会探偵キリカ(4)」 杉井光

2013-07-09 | 学園小説(ミステリ)
「それでは、これから閉会式にかえて、ええとなんだっけ……戦死者をヴァルハラに見送るエターナル・ヴォイド・レクイエムの儀式とかいうものを執り行う」
 その後、生徒会長の舞いは1時間ほど続いたらしい……。

 中高一貫の巨大学園「白樹台学園」に君臨する天王寺会長だが、唯一彼女が一度も勝利できていない相手があった。
 学園はいよいよ体育祭シーズン。校内を紅白に二分しての激戦が繰り広げられるが、体育科だけで占められた紅組とそれ以外による白組では常に紅組の優勝が続いており、3000万円にものぼる体育祭予算は体育会系団体の手に握られ続けていた。
 この雪辱を果たさんと、普段は敵対している生徒会、中央議会、監査委員会が一団となって臨むが、紅組が総大将に押し立ててきたのは邪気眼の中二病患者、ルイーナ・アクアドラコこと瀧沢瑠威那だった……。

 今、シリーズもので楽しみにしている学園ミステリはこれとにわか高校生探偵団の事件簿シリーズで双璧。
 事前の諜報戦から始まり電波の入った外交交渉を経由して、華やかな応援合戦あり、怒濤の騎馬戦あり、隠された企みありで、ちゃんと巨大学園もので、学園ミステリで、体育祭をテーマにした青春小説でした。

「戦いに善悪はない。勝つか負けるか、それだけだ」

 巨大学園の生徒会・中央議会・監査委員会を仕切るのはいずれも才媛の美少女たちだけれど、中身はいろいろ残念な人たちばかりで、主人公である牧村ひかげがツッコミを入れっぱなしなんだけれど、そのひかげからして「何か悪巧みがおこなわれていたら彼の仕業」という定評が定まってしまって残念。もうキャラクター紹介が「詐欺師」ですよ。
 でも、体育祭は全員が愉しめてナンボという姿勢は素晴らしいと思いました。

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「エーコと【トオル】と部活の時間。」 柳田狐狗狸

2013-06-27 | 学園小説(ミステリ)
「健全な肉体に健全な魂の宿った人間が実は一番危ない」
 オバァちゃんはいつもそう言っていた。

 部活の真っ最中の美術室で自殺未遂を起こした彼女は、そのときから感情を失った気がするし、そもそもどこにも友達なんか存在しないと気がついてしまった。
 高校2年になって、A子と呼ばれることになった彼女はたった1人の化学部員として部活を再開することになるのだが、その彼女と部活を共にするのは人体模型の【トオル】で、彼は自分が彼女の友達だと言い張るのだ……。

 人体模型と2人っきりで部活をすることになった少女が、学校内で連続する人体発火現象の容疑者と噂されてしまい、火の粉を振り払うために怪事件の謎に挑むことになる学園ミステリ話。
 かわいいイラスト、シニカルな少女の軽妙な語り口、しゃべる人体模型というシチュエーションに誤魔化されそうになるけれど、いじめとか自殺とかテーマは重いし、展開はけっこうエグイし、結末は(良い意味で)すっきりしない。いろいろな意味で残酷。
 ミステリとしての難易度は高くないけれど、総合で面白い作品。これより難易度の低い、ツッコミ処の多いミステリはいくらでもあります。ちゃんと科学部ネタで終始一貫しているのもポイント高し。
 でも、こういう作品にも金賞を取らせることのできる電撃小説大賞は強いな。同系統の作品ばかりに片寄らせず、面白ければいろいろなジャンルを試していけるというあたり、少年ジャンプと同じく地力があるんだろうと思います。

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「“空蝉”~ヒカルが地球にいたころ……(7)」 野村美月

2013-05-16 | 学園小説(ミステリ)
「愛されることと、愛することと、どっちかひとつしか選べないんなら、うちは、迷わず愛するほうを選ぶわ。そっちのほうが、うんと幸せやもの!」
 近江ひいなは満ち足りた笑顔でしっかりと語る。

 是光か出会った新たなヒカルの“最愛の人”は蝉ヶ谷空。だが、彼女は妊娠していて、それはどうやらヒカルの子どもである可能性が高いらしい。
 空と子供を守ろうと奔走する是光だったが、漏れた情報が錯綜し、いつの間にか是光が朝衣生徒会長を妊ませたという噂が一人歩きを始め……。

 前巻のラストから始まる、ヒカルの“最愛の人”の謎を巡る話はひたすら重いのに、勘違いからのシチュエーション・コメディが笑えて仕方がありません。ヒカル(というか是光)の周囲の人々はノリが良すぎです。どういう顔をして読んだら良いのでしょう?

 ヒント:「笑うと良いよ」

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「“朝顔”~ヒカルが地球にいたころ……(6)」 野村美月

2013-05-14 | 学園小説(ミステリ)
「今は答えがわからなくて、迷っても仕方が無い。急ぐことはないの。一歩一歩、しっかりと足を踏み出して前へ進んでゆけば、旅のどこかで、あなたが正解と思えるものを見つけることができるかもしれないわ」
 人生という旅の答えは、自分で探すしか無いと、朝顔姫こと五ノ宮織女の言葉。

 次に是光がヒカルに代わって約束を果たして欲しいと告げられた女性は、是光とは犬猿の仲で生徒会長の斎賀朝衣。
 案の定、是光と朝衣は喧嘩を繰り返すことになるが、それなのに何故か二人が恋仲だとという噂になり、朝衣はますますいきり立った……。

 帝門家の権力争いに積極的に動き出した朝衣の物語で、是光がヤンキーキングからハーレムキングにランクアップする回、というか、あの完全武装の“朝ちゃん”がデレるエピソードです。これがあからさまに掌返しになると興ざめですが、そこは鉄壁のガードな人ですから、この微妙な加減が愉しい。
 さて、対立候補の一朱のイヤらしさは筋金入りです。とっとと退場して欲しいところですが、こういうキャラほど長居するものなんです。

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「学園島の殺人」  山口芳宏

2013-02-07 | 学園小説(ミステリ)
「大切なポイントは恥じらいがあるかどうかだ」
 見せパンなんかじゃ欲情しないと真野原。
 
 赤両島は、その人口4万人のほとんどが島内の学園都市である自光学園の学生・教員またはその関係者で占められている。
 その赤両島へ欧州の小国、アクスリーテ王国から留学生がやってくる。ユリシア・トゥーレ・アクスリーテ、金髪の美少女であり王位継承者であった……

 前に買った『雲上都市の大冒険』が面白かったので、とりあえずこれと『豪華客船エリス号の大冒険』を購入してきました。主人公は“学生探偵・真野原”だけど、時代は現代。おじいさんが義手だというから孫なのかな。代々学生探偵の一族みたいになってたらイヤだなあ……。
 大学生の森崎とその同居人で探偵の真野原が、国会議員から依頼され、島全体が学園及び関係施設からなる島へ潜入し、王女の婚約者となり、連続殺人の謎を解け……という話で、推理小説ではなく探偵小説。読者が名探偵と競って謎を解く本格推理ではなく、名探偵の鮮やかな謎解きに喝采するための探偵小説。なので、どうして王女が『浄化の鍵』を託されていたのかとか、ツッコミどころは多いけれど気にしたら負け。なにせ王位が“あんな形で”継承されるくらいの話というか、いろいろと大雑把な王国なので、きっと「面白そう」くらいで引き受けたんだと思う。

 ただ、女性キャラの扱いはひどいよね。リョウコも葉子も菜緒子もピンクの髪の女の子も、共感して応援したい女性キャラがいないもの。そういう意味では、江戸川乱歩の少年探偵と似た雰囲気。で、いきなり終盤がドタバタ・コメディっぽくなるのも馴染めない人はいるかも。今まで死屍累々の物語の結末ですものね。

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「ルピナス探偵団の憂愁」  津原泰水

2013-01-02 | 学園小説(ミステリ)
「いいわよ、どうぞ殺しなさい。私が最期まで自分の卑怯さから逃れようと努力したこと、頭は悪いけど少なくとも高潔になろうとした人間だったことを、きっと友達は記憶してくれる」
 可愛い以外に取り柄のない京野摩耶は、誰だって卑怯な部分はあるけれどそれを1つずつ克服していくことに価値があるという。

 摩耶は死んでしまった。
 立ち上っていく斎場の煙を見ながら、彩子は親友たちと謎解きをした昔を思い出す……。

 個性豊かな3人の少女と博覧強記の少年からなる探偵団の物語の2冊目は、その1人があっけなく死んでしまうところから始まり、少しずつ想い出で時間を遡りながら最後に円環が閉じる構成の短編集。もともとはティーンズハートでスタートしたシリーズだけれど、今回の短編はミステリーズ!掲載。
 ちょっとせつない話ではありますが、各作品のミステリとしてのバリエーションは豊富で楽しめる短編集です。

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