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高度成長期の日本。なぜか心霊写真しか撮れなくなったカメラマンの見取瑛吉が、やっと紹介してもらった仕事は近代探訪社というあまりいい話を聞かない会社だが背に腹は代えられない。
そこで瑛吉が『月刊奇怪倶楽部』の編集長から与えられた仕事は、まだ大学生だという雇われライターの拝飛鳥とまだ全国各地に残る因習村を取材して回る「本邦秘境紀行」の仕事だった。この現代社会になっても昔ながらの因習に縛られている集落を巡り、そこで聞きつけた殺人事件や祟り、残酷な儀式などについて面白くおかしく興味本位で紹介する仕事だ。
とりあえず、なんでもそれっぽい写真を撮ってこいと編集長は言うし、ライターの拝は「記事は虚構」だと言うのだけれど……。
スキンヘッドの民俗学教授とか異端の考古学者の話と同様に、全国各地の伝承を訪ね歩いているうちにその背後にある恐ろしい真実を垣間見てしまうような話だけれど、こちらは意外と読後感の爽やかなバディもの。作者は妖怪ものに関してはもうベテラン。ユーモアとサスペンスが良い感じに融合してます。
1話の冒頭で語られる、「東京タワーが完成」したのは1958年、1964年の「東海道新幹線の開通から数年」、さらに同年の「数年前に海外渡航がようやく自由化」ということで、たぶん時代は60年代末あたり。70年だと大阪万博に絶対言及されるはずなので、68年くらいかな。ただ、2話でネタになるUFOがブームになるのが70年代後半なので、全体的には60年代末から70年代中頃までの話みたい。58年の東宝映画『大怪獣バラン』が「日本のチベットと称される秘境××」みたいなナレーションから始まっているくらい、これくらいの時代って「宇宙開発だ」「原子力発電だ」「高速道路建設」と謳う一方で、近代化の恩恵にあずかっていない場所がまだまだあったのです。だいたい、家庭用電話が普及し始め、白黒テレビのある家庭が増えてはいるけど、幹線道路の大半は未舗装という時代なのです。
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