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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

われ敗れたり

2017-05-21 18:50:32 | 読んだ本
米長邦雄 2012年 中央公論新社
きのうのつづき。
副題は「コンピュータ棋戦のすべてを語る」。
かくして人間とコンピュータの対決は、ときの名人が二敗するということで、一応のおわりをみてしまったわけだが。
本書は、2012年1月14日に「ボンクラーズ」と対局して敗れた米長永世棋聖の書いたもの。
発行は同年2月10日となってるが、あとがきの日付は1月31日で、対局後ホントすぐに書いたことになるが、まあ始まる前から出版すること決めて用意してたんだろう。
私は当時コンピュータとの対戦に興味なかったんで、ずっと読んでなかったんだが、二、三年前に古本で買った。
そしたら、読んでみたところ、とてもおもしろかった。とっくに読んでおけばよかった。
対局に向けた準備から、局後にもった感想まで、ほんと全部。
で、この対局で米長永世棋聖は、ソフトの初手7六歩に対して、後手番で6二玉という通常見慣れない手を採用した。
(きのうの電王戦で、名人の初手2六歩に対して、ソフトが4二玉と指したのは、この米長6二玉を知ってると妙に感慨深いものがあるわけで。)
これは、
>人間がコンピュータに必ず勝たねばならないとすれば、人間相手にいままで指していた将棋を指すのとはまったく異質なゲームだと考えるべきである。(p.135)
という、事前研究の結果としてたどりついた結論にもとづくものだそうで。
この考え方のバックボーンには、羽生善治さんの意見も採りいれられているに違いなく、コンピュータと対局しなければならないとしたらどうするかと著者に訊かれた羽生の答えは、
>もしもコンピュータとどうしても戦わなければならないとすれば、私はまず、人間と戦うすべての棋戦を欠場します。そして、一年かけて、対戦相手であるコンピュータを研究し、対策を立てます。自分なりにやるべきことをやったうえで、対戦したいと思います。(p.24)
というものだったそうです。
これは、優勝しちゃったらソフトと戦わなければいけなくなる、叡王戦の第一回にエントリーしなかったことからも、マジな考えなんでしょう。
ちなみに、米長当時会長は、この羽生の意見から、持ってるタイトルを全部返上して、賞金ゼロの状態になって、一年後にまたタイトルを獲るためには人間相手の必要な勉強をして予選から勝ち抜かないといけないわけだから、コンピュータと羽生を対局させたかったら七億八〇〇万円の対局料を払えと、週刊誌のコラムに書いたそうな。
ま、カネの話はいいとして。
いまはコンピュータ側の指し手は、進化しつづける「電王手」さんが指すんだけど、2012年当時は手のないコンピュータの代わりに誰か人間が盤の前に座り駒を動かしていた。
米長永世棋聖は、自分にその人選をさせることを要求したんだけど、その条件として、
>1 将棋が強いこと
>2 私と同じくらいに対局時に真剣になってくれること
>3 目障りにならなくて、私の気を散らさないこと
>4 私を尊敬してくれていること(p.74)
という項目をあげて、四番目の条件で探すのに難航したとかいいつつ、弟子の中村太地を指名した。
その中村太地さんがきのうの解説をしてたのも、なんかの巡りあわせかなという気もするが。
中村太地さんは将来の連盟会長ではないかと評判のデキたひとなんだが、きのうの終盤はやや壊れ気味でしたね。
遊び駒を取られるのにまかすとこで「ニートは要らない」って言ったのは、すごいウケてました。
コメント
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