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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

君がいない夜のごはん

2019-07-20 21:00:53 | 穂村弘

穂村弘 2019年2月 文春文庫版
新しめの文庫なんだが、最近買った中古もの。
単行本は2011年のNHK出版で、「きょうの料理ビギナーズ」に連載されてたものらしい、読んだことないなー。
なかみは、そういうわけで、食べものに関して書いたものが集められている。
とはいえ、なんかめずらしいものとか特別うまいものとかのレポートや、素材や料理法に関するうんちくなんかぢゃない。
著者のエッセイにありがちな、世間のひとのようにふつうに対応することができなくて困っちゃう、といった感じのテイストがいっぱい。
お好み焼き屋にいくと、「混ぜが足りないよ」ってまわりから指摘されちゃうとか、ミスドで“D―ポップ”を頼むと女友達に「ださー」って言われちゃうとか、そういう経験にあふれた日常みたいな。
若い長身のきれいな男の子がホームパーティにお稲荷さんを持参したときの次のような感想とか笑う。
>日本男子はレベルアップしている、と実感した。
>きれいでおしゃれで若い男の子に漏れなく「お手製のおいなりさん」がついてくるのだ。
>きれいでもおしゃれでも若くもない私には「コンビニの菓子パン」がついてくる。
>比較の結果はあきらかだ。後者をパートナーに選びたい女性はいないだろう。
>私は未来における自分の孤独死をありありとイメージした。(p.57-58「苺のヘタをみたことがない」)
食べものの好みに関する話でも、ちょっとそんじょそこらのエッセイとはポイントがちがってたりしておもしろい。
>先日、或る編集者と御飯を食べながら打ち合わせをしていたときのこと。不意に彼女が云った。
>「カレーは温かいのがいいって云う人が多いけど、私は御飯かルウのどっちかが冷たい方が好きなんです」
>「おおっ、俺もです!」
>興奮のあまり、思わず一人称が「俺」になってしまった。だって、人生の四十五年目にして初めて出会ったのだ。(略)仲間だ。(p.99「「どっちかカレー」現象」)
この、自分だけがほかのひとと違うのか、みたいな感覚は、こと食べものについてってなると、ひときわ精彩を放つような気がする。
ある公開対談で、「ところてんを箸一本で食べる」と発言したら、会場に同意してくれるひとが誰もいなくてシーンとなってしまったとか。
それで家に帰ってからネット検索したら、自分の育った地域に特有の習慣だとわかって、ちょっとほっとしたなんて言いながら、そこからさらに妄想がすすむとこがおもしろい。
もし、夜通し検索して、ヒットしたのが一件だけだったなんてことになったら、
>自分以外にところてんを箸一本で食べる唯一人の人。
>充血した目でその画面をみつめながら、私は決意する。
>この人に会いに行こう。
>どこの誰かはわからない。
>でも、運命の人だ。(p.151「ところてんの謎」)
っていうんだけど、このおおげささがサイコー。


コメント
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