丸谷才一 2001年 文春文庫版
これは去年11月に古本まつりで買ったんだ、たしか、丸谷才一の持ってないもの見かけるとついつい買っちゃう。
エッセイ集、っていうか随筆集ってのがより適切か、なぜなら巻頭言で、
>ところでわたしの随筆は明らかに男向けだが、これが意外に女の読者が多いと聞いて、ちよつと嬉しくなつた。男もののセーターをすつきりと着こなすやうなもの、と見立ててはどうだらうか。
って著者が書いてるから。
初出は1996年から97年の「オール讀物」と、「文藝春秋」がひとつ、単行本は1998年だという。
私としては、なんでもいいんだ、発表順、時系列にあわせて順に読もうなんて思ってはいない、ただ目にしたことないのがあったら喜んで読むだけ。
>ここでちよつと余談。(と言つたつて、この文章は終始一貫、余談なのです。ちようど、文学者の人生が最初から余生であるのとよく似てゐる。)(p113「ネクタイ知つたかぶり」)
なんて一節があるけど、そんな余談っぷりがなんとも快いんだからしかたない。
とはいえ、勉強になるよぉ、ボキャブラリーが豊富だからね、やさしい文章のなかにときどきオヤッと思う語が織り交ぜられてたりして。
>とすれば、ここからはわたしの推測でありますが、彼とお国とのあひだに何もなかつたはずはない。かならずや幾夜かの巫山雲雨の夢があつて(略)(p.128「出雲のお国」)
の「ふざんうんう」とかね。サラッと書いてるけど、なかなか出てこないよ、そういうの。
日本文学史にかかわる指摘もいつもどおり刺激的で、
>蝶について、わたしは一つ重大な疑問をいだいてゐた。日本には昔、蝶はゐなかつたんぢやないかといふ疑問である。もちろんそんなことはあり得ない。(略)さう打消すたびにわたしは、しかし王朝和歌で蝶が歌はれないのはどうしてだらうと思ひ悩むのであつた。
>『古今集』には蝶は出て来ない。
>『千載集』にも、『新古今』にも出て来ない。
>『万葉』にだつてないんです。
>をかしいぢやないか。(p.201「菜の葉に飽いたら桜にとまれ」)
とかって、なるほど、そうだ、あれほど花とか鳥とか歌にしてるのに、なんでだろうと驚かされる。
どうでもいいけど、今回、随筆で触れられてる本のなかで、読みたくなったのは、辻静雄『料理に「究極」なし』、大岡信の解説が文春文庫版にはついてるって。
コンテンツは以下のとおり。
動物園物語
春日の、九重などと
阿部定問題
食品譚
007の作者の妻
政治の辞典
四月と五月と六月
ネクタイ知つたかぶり
出雲のお国
二人のコロンブス
龍の雌雄
ゴシップ! ゴシップ!
七つさがりの雨
東西食器論
菜の葉に飽いたら桜にとまれ
小説論的王室論
命令形について
キスの研究