堀井憲一郎 二〇一九年 本の雑誌社
私の好きなライター、ホリイ氏のあたらしい本が出たと知ったので、さっそく読んでみた。
サブタイトルは、「ホリイのゆるーく調査」、なんでも『本の雑誌』という雑誌にそういうタイトルの連載をもっているそうで、そこの調査記事から50編がまとめられたのが本書。
「ゆるーく」ってのは、帯にあるように「役に立たないこと」が対象だし、ガチガチに統計固めようとしてないで手近にあったもの調べるだけで済ましてることを言ってる。
いーねー、私そーゆーの好きなんです。
オープニングは、書名のとおり、文庫本を積んでって何冊までいけるかの調査、ゆるーくなんで同じ本を積んだり、厚さそろえた材料つかったりはしません、そこにあるもので適当に。
でも実験場の編集部には出版社べつに文庫がおいてあるんで、岩波、講談社、集英社、光文社、新潮に分けて記録をとってたりします、最後に「各社連合」って混ぜたのやるとこがおもしろい。
今回の結論は、新潮文庫は積み上げに強い、ってことになったんだけど、ゆるーくなんで繰り返しの検証とかするはずもないから、それが不変の真理かどうかはわからない、どうでもいいからいいんだけど。
しかし、ふと思ったんだが、前に著者の書いたもので、「エスカレーターとエレベーターのどちらがはやい」みたいなタイトルはダメだって話があったとおもうんだけど、その伝でいくなら「文庫は40冊を超えて積むな」みたいなタイトルにしないのかな、って気がした。
ほかにも、しょうもない計測がいろいろあって、文庫の高さって微妙に違うなとは私も思ってたんだけど、実際計ってみて講談社は148.3mmなのに一番高いハヤカワは157.4mmとか。
文庫本のカバーの長さをはかったついでに、背幅をはかって、川端康成の「掌の小説」は背幅19mmで本体価格840円だから背1mmあたり44.2円で、「名人」の同57.1円よりオトクとか。
本屋大賞の歴代の受賞作をならべて、重さはかって、「鹿の王」の上巻がいちばん重くて560グラム、100グラムあたり285.7円だとか、そこ1ミリあたりとか100グラムあたりで計算しなくていいでしょってとこを計算して並べてるのがおもしろい。
本の外見ばかりで、読んでないのかっていうと、もちろんそんなことはなく。
ロシアの小説の一段落って長いよなってことで、「カラマーゾフの兄弟」の第一部の第一編は62ページあるけど25段落なんで、1ページあたりのおよその段落数は0.4段落という調査結果をえて、それを「罪と罰」とか「戦争と平和」とか、ぢゃあフランスの「赤と黒」はどうか、イギリスの「ジェーン・エア」はどうなんだと比べたりしてます。
明治の小説は漢字が多いよなってことで、夏目漱石の「吾輩は猫である」の冒頭から約5ページ、二千文字くらいまでを採取して、2073文字中に漢字は779文字だから、漢字率は3割7分5厘という結果をえて、それを漱石が1867年生まれだから、その50年後の1917年生まれの作家と、100年後の1967年生まれの作家をとりあげて比較してます。結論として、やっぱ漢字率は落ちるんですねえ。
それだって文章の外見のことだけじゃんっていうひともいるかもしれないが、ときどき出版界の現状にも切り込んでる。
新潮文庫の解説目録の2000年と2015年のを比べて、海外の作家がどんなに切られているか調査、アガサ・クリスティの10冊全部とか、パスカルの「パンセ」、ロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」なんかでも、売れないものはバッサリ切られて無くなっていると。
べつの章では、新潮文庫のフランソワーズ・サガンは1979年に16冊あったのに、2000年には9冊に減って、読者層がついていかなくなったんだろうな、とか。
若いひとは本を読まないからねえって話になると、「ぼくは本が読めないのです」という大学生について、
>病気だね。病気だ。受け身でぼんやりしている私を楽しませてくれないものはつまんないぞ病だね。(p.86)
とバッサリ。
そうそう、読者だけぢゃなくて、最近の文庫の解説はあらすじの紹介だけってのが多いことについて、
>文庫の編集者に、これでいいの、と聞いたところ「だめです、とは言えないんです」と苦しげに答えてくれていた。そりゃだめですわね。(p.39)
と厳しい。
新潮文庫の「細雪」上中下3巻を読んだところ、本文が全1101ページなのに「注」が861個もあると。なかには「え、なんでこれに注つける?」って思うものもあって、
>なんか注釈者が他社の物語として読んでるのがわかってきますね。(略)この小説の登場人物たちは、自分たちと違って金に困らない身分の人であるという解説を繰り返していて(略)(p.211)
として、これは注ぢゃなくて副音声解説だろと指摘している、1.28ページことに1注つけるかあ、と。
どうでもいいけど、私が興味ひかれたのは、本を買うだけ買って読まないでいることについて、
>本は腐ります。
>物理的にではなく、気分的に腐っていきます。(略)
>読みたいとおもって買った本は、ひとつきも手に触れないと、なんか腐っていきますね。本自身がすねてきて、「もう、読んでくれなくてもいいよ」という気配を出し始める。(略)(p.32)
って表現をして、そのあとの別の章で「未読の悪魔はどれくらいで取り憑くか」と題して、自分の机にすぐ読むつもりで積んであるけど読んでない本を分析してる。
見えない何かが取り憑いて、本を開くことができなくなる、日にちが経てばたつほどそれは強くなって、
>21日過ぎたら危険ゾーンに突入、30日越えたらほぼアウト、という結論をとりあえず出しておきます。(p.49)
っていうんだけど、日数は個人差あるだろうが、私も気をつけなきゃいけない、って思うんだけど、逆に、誰でもそういうもんなんだって安心する面もあったりして。