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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

最も危険なアメリカ映画

2019-11-30 18:32:10 | 読んだ本

町山智浩 2019年10月 集英社文庫版
こないだ、ようやくマイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』をCSで観た、ついでに『華氏119』って新しめのも観た。
町山さんの映画についての本でも読もうかと思い、最近文庫になったという本書を買ってみた、単行本は2016年だそうです。
ドナルド・トランプのやることは、1992年の『ボブ★ロバーツ』って映画にそっくりで、でもその『ボブ★ロバーツ』のもとには1957年の『群衆の中の一つの顔』って映画があるって導入から、
>アメリカ映画では昔から、(略)差別や不正と戦う姿を通して自由、平等、進歩、ヒューマニズムが謳歌されてきた。
>だが、それはいわば「よそゆき」の顔。その陰には、差別的で狂暴で愚かなアメリカの素顔を暴いた映画もあった。(p.13「はじめに」)
という映画史の講義をしてくれる本。
知らない映画ばっかりだけどね、観たことあるのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『フォレスト・ガンプ』くらい。
でも、この2つにしても、60年代はなかったことにしたいとか、60年代のうちでも反戦運動とか公民権運動を肯定しないとか、そういう政治的なもんだと言われると、けっこう驚かされる。
個人的には、近頃観たなかではお気に入りの『ドリーム』のあとに、『デトロイト』とか『ゲット・アウト』とかをたまたま観たりしたもんで、うーん、映画の世界では人種差別の問題を振り返るのが近年のテーマになってんのかな、って漠然とした印象を持ってたんだが。
アカデミー賞なんかでも、なんかっつーと人種のこと問題にしてるみたいだし。
あと、本書には、
>クエンティン・タランティーノは自作『ジャンゴ 繋がれざる者』のインタビューで、アメリカ映画が今までほとんど奴隷制度を描いてこなかった事実について「奴隷制度はアメリカの汚点だからだ。どの国にも触れたくない歴史の恥部はある」と答えた。「でも、そこにこそ、最もエキサイティングな物語の可能性が眠っている」(p.51)
なんて紹介されてるところもあり、そーかー闇歴史に直面する作品をつくろうとするのがもしかしてトレンドのひとつだったりするのかもー、なんて思ったりもしたけど。
だってねえ、そういうのもあったりしないと、中国輸出向けのドッカンドッカンSFX炸裂させるアクションばっかりになっちゃうんでしょ、って気もするし。
あと、教わって、とても興味もったのは、「アメリカ人の「普通の男」信仰」(p.214)ってやつ、それが度重ねて映画のテーマになってたりする、昔もいまも、Common Man。
「普通の人間」を政治的に利用して英雄にしてって、民衆はそれにのっかって熱狂的に支持してく、って展開。
あまり、上品な出身であったり、物を知ってたり頭がよかったりする必要はない、でも単純な言葉に庶民たちはよくぞ言ったとついていく、ってタイプ。
あからさまに政治的主張をうたうより、一見はサクセスストーリーのようにみえるから怖いんだけど、そのウラには必ずそれ使って支配力を増そうとする存在もいると。
そうそう、なんかっつーと、資本主義国家では自由ってものが称えられるようにみえるんだけど、なんでもかんでも自由万歳ってわけぢゃないのは、
>マッカーシーは「共産主義から自由を守るんだ」と言いながら、アメリカを共産主義と同じような、思想の自由のない監視社会にしてしまった。(p.243)
みたいなことあるからで、意外と多様性への寛容ないからね、あの国は。80年代くらいからか、リベラルだ、って言われちゃうと負け、みたいな雰囲気できてきたみたいだし。
それはそうと、私がいちばん印象に残った映画の技術(?)の用語が、「マジカル・ニグロ」、これにはおどろいた。
>マジカル・ニグロとは2001年に黒人監督スパイク・リーが言い出した言葉で、ハリウッド映画において、白人の都合のいいように作られた黒人キャラクターをいう。白人の主人公は劇中のひとりの黒人と仲良くすることで、人種にこだわらない善人に見える。その黒人は主人公の窮地を救い、多くの場合、死んでいく。
>(略)なぜ主人公と友情を結び、彼のために尽くすのかといえば、そのためだけに作られたキャラクターだからだ。つまりマジカル・ニグロとはストーリーテリングのための奴隷である。(p.326-327)
って解説されると、ええっ!?と思う、知らんかった。
…って、もしかして、現在の新しいスター・ウォーズシリーズのあのひとなんかもそう? とか思っちゃったりするんである。
章立ては以下のとおり。各章のタイトルがわかりやすくていい。
第1章 KKKを蘇らせた「史上最悪の名画」 『國民の創生』
第2章 先住民の視点を描いた知られざるサイレント大作 『滅び行く民族』
第3章 ディズニー・アニメが東京大空襲を招いた? 『空軍力による勝利』
第4章 封印されたジョン・ヒューストンのPTSD映画 『光あれ』
第5章 スプラッシュ・マウンテンの「原作」は、禁じられたディズニー映画 『クーンスキン』『南部の唄』
第6章 ブラックフェイスはなぜタブーなのか 『バンブーズルト』『ディキシー』
第7章 黒人教会爆破事件から始まった大行進 『4リトル・ガールズ』
第8章 石油ビジネスとラジオ伝道師 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『エルマー・カントリー 魅せられた男』
第9章 金はやるから、これを絶対に映画化しないでくれ! 『何がサミーを走らせるのか?』
第10章 ポピュリズムの作り方 『群衆』
第11章 リバタリアンたちは今日も「アイン・ランド」を読む 『摩天楼』
第12章 「普通の男(コモン・マン)」から生まれるファシズム 『群衆の中の一つの顔』
第13章 マッカーシズムのパラノイア 『影なき狙撃者』
第14章 アメリカの王になろうとした男ヒューイ・ロング 『オール・ザ・キングスメン』
第15章 インディの帝王が命懸けで撮った「最も危険な映画」
第16章 なぜ60年代をアメリカの歴史から抹殺したのか 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』

コメント
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