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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

素晴らしき犯罪

2019-11-09 18:52:22 | 読んだ本

クレイグ・ライス/小泉喜美子訳 一九八二年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
これ読もうと思ったのは、『快楽としてのミステリー』のなかで丸谷才一がとりあげていたからである。(「酔つぱらいひとアメリカ」)
女のミステリ作家のなかで気に入っているのがクレイグ・ライスで、なかでも特に好きなのが本作だという。
で、ウチのまわりで探したけど見つからないので、先月だったかネットで買ってしまった。
1992年の六刷だけど、色あせてて背表紙の文字なんか見えないんだが、いいんだ、そんなとこ読むわけぢゃないから。
原題は「HAVING WONDERFUL CRIME」、1943年の作品。
「この本の出だしは舌を巻くしかない」って丸谷さんは紹介してんだけど、二日酔いの青年が見知らぬ部屋で目を覚ましてひどい気分でいるところから始まる。
舞台は1943年4月のニューヨーク、一流ホテルの一室、青年をひろって部屋へつれてきて寝かせてやったのは、シカゴから来た三人。
まずはジェークとヘレンの夫妻なんだが、ここで「原註」として、『大あたり殺人事件』参照とか、『大はずれ殺人事件』参照って、この夫妻の過去の出来事が話題になってるんで、しまった、読む順番まちがえたか、と思ったんだが、まあそのへんは知らなくても読み進んで大丈夫だった。
もうひとりは弁護士のマローン、夫妻に呼び出されて、シカゴから渋々駆けつけたところ、ろくに寝てないこともあり不満たらたら。
三人にひろわれたデニスは、なんと昨日結婚したばかりだという。それで夜にちょっと一杯飲みにひとりで外へ出たら、いろんな店をまわって、あとは記憶も定かぢゃない状態になるまで飲んだくれてたらしい。
そこへ警察がやってきて、デニスの部屋で奥さんが殺されたと告げる。
ところが、デニスは身元確認のため死体を見ると、これは妻のバーサぢゃないって言う、ぢゃ殺されたのは誰で、バーサはどこいった。
さあさあ誰が難事件を解決するのかなと、予備知識のない私はわからないまま読み進むんだけど、シカゴの三人がそれぞれ活動を始める。
ジェークとヘレンの夫婦は金持ちらしいんだが、ジェークはそもそも本業とはべつに探偵小説を書きたくて、それを売り込みにニューヨークに来てる。
そのへんの事情をヘレンにないしょにしていることに端を発して、この事件について妻にはばれないように、勝手に捜査活動を始める。
弁護士のマローンは、行方不明のバーサの管財人なる人物から捜索の依頼を受ける、なのでこの弁護士が中心となる探偵なのかと思ったんだけど、そうでもなさそう。
なんせこのひと、なんかっつーと酒ばっかり飲んでるし、ポーカーが大好きで、闇の賭場が立ってたりすると入って行く誘惑に勝てない困ったひと。
夫のジェークも弁護士のマローンも自分たちのやることを「秘密なんだ」といわれたヘレンは、「じつは私にも大事な仕事があるの(p.142)」と宣言して、独自の調査を始める。
このヘレンが最高のブロンド美人で優雅で魅力的という設定で、その行動力がすごくておもしろい。
地元シカゴとちがって知ってるひともいないのに、「おまわりはどこだって同じよ(p.174)」なんて言って、その魅力で捜査担当の警部以下に取り入り、どこでも入っていっちゃう、いちばん凄腕かも。
かくして三者三様バラバラに動いてて、ときどき誰かの助けがあればいいのに秘密だからしかたないなんて思いながら、それぞれに核心へ近づいていく。
三人の情報集めて相談すれば、もっと早く済むのにねって思わせながら進んでくのがおもしろい。
最後に、当然、真相は見つかるんだが、犯人とか動機とかそんなんでいいのか、って私は特に感心まではできなかったんだが。
丸谷さんの評では、
>陰気に書かうとすればいくらでも書ける題材なのに、この作家はそれを陽気に物語る。軽快に、快調に語りつづける。それはこの長篇小説が実は一種の童話、大人のための童話で、それゆゑお伽話の約束事に従つて(略)(「快楽としてのミステリー」p.154)
ってあるんだけど、おとぎばなしなんだよっていうのも読んでみたくなる誘われかたのひとつであり、たしかにそんな感じではある。
最初に泥酔したデニス青年が、二日酔いで目覚めたとき着てたタキシードが自分のものではないって言い出す謎があったんだけど、そこの回収のしかたは意外でおもしろかった。

コメント
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