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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

サピエンス全史

2020-04-26 18:48:13 | 読んだ本

ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之訳 2016年 河北書房新社 上・下巻
サブタイトルは「文明の構造と人類の幸福」。原題は「SAPIENS:A Brief History of Humankind」2011年。
たまたま、著者が昨日のテレビ番組でインタビューにこたえてたのを見たんだけど。
現在のパンデミックに関して、緊急事態とか非常事態だからって政府の監視システムみたいなものを導入すると、危機が去ったからって元に戻ることはないとか、警察組織に情報を渡すんぢゃなく別組織を立ち上げるべきとか、具体的な提言のできる歴史学者ってのはえらいなと思った。
歴史を学ぶ意味は現在の問題に役立てて良い未来をつくるためだからねえ、それできないと、この国には過去はあるけど歴史が無い、とか言われちゃう。
この本を読んでみようと思ったのは、豊島名人が専門誌の取材に、この本が好きだと答えてたからで。
ほかにはまったく予備知識なしで、上下2巻のボリュームってのもビビらず、勢いで2月上旬には古本を手に入れたんだが、読み終わったのは最近。
知らなかった、上巻は2017年11月で37刷、下巻は2017年6月で25刷、売れてるんだねえ。
遅れてしまった(元々あんまりベストセラーとかに興味ない)けど、売れてると古本が手に入りやすくてよいという側面がある。
なかみはタイトルのとおり人類の歴史なんだけど、冒頭に「歴史年表」とあって、最初が「一三五億年前 物質とエネルギーが現れる」ときて、そこからですかと思わされる。
ヒトが現れるのは250万年前くらいからなんだけど、重要なイベントは、「7万年前 認知革命が起こる」「1万2000年前 農業革命が起こる」「500年前 科学革命が起こる」「200年前 産業革命が起こる」という順。
タイトルにもなってるサピエンスについて、あらためて言われて気づいたんだけど、現生人類はホモ・サピエンスしかいない、ほかの人類は1万3千年前までに絶滅したってのは、けっこう意外な事実、同じ属のなかにほかの種がいない動物とは。
動物としてのサピエンスの特徴ってのはこれまでもいろいろ読んだりしたつもりだったけど(私のベースは『EV Café』と河合先生のサル学)、動物の食物連鎖のなかのポジションが急に上昇しすぎたんで生態系が対応できなかった、って視点は初めてな気がする。
>私たちはつい最近までサバンナの負け組の一員だったため、自分の位置についての恐れと不安でいっぱいで、そのためなおさら残忍で危険な存在となっている。(上巻p.24)
って、ヒトの性格の根底にあるものをよく言い表してると思う。
やがて言語が発達してくんだけど、パーソナルな情報交換で成り立つ集団ってのは150人が限度だっていう定説も紹介されてて、それより大きな組織を維持するには、架空のものについて思考し伝達して共有する言語が必要になる。
それが神話とか宗教とか、ヒト独特のものなんだけど、ただ祖先がどうとか死者の霊がどうとかって話だけぢゃなく、資本主義とかもそういう神話の延長にあって、想像上の秩序なんだという。
>人々が、ごく個人的な欲望と思っているものさえ、たいていは想像上の秩序によってプログラムされている。(略)
>ロマン主義は、人間としての自分の潜在能力を最大限発揮するには、できるかぎり多くの異なる経験をしなくてはならない、と私たちに命じる。(上巻p.149)
という調子なので。
言語と思考の次に、具体的に発展するのは農業なんだけど、農業やるようになったんでヒトは未来のこと考えることになったと。
狩猟採集で生きてるときは腹減ったら獲物探して、食ったらしばらく寝てればいいかもしれないけど、農業はいま作り始めて収穫するのはずっと先って展開になるから。
>農耕民は未来を念頭に置き、未来のために働く必要があった。(略)
>したがって、農耕が始まったまさにそのときから、未来に対する不安は、人間の心という舞台の常連となった。(上巻p.131)
っていうんだけど、ここでまた不安という心理が取りざたされちゃうのが人類の哀しいとこで。
そういうストレスかかえて集まることから、社会つくったりするだけならいいけど、隣と戦争始めちゃったりすることになるんだろう。
で、時代はぐっと下がって近代になると科学が発展するんだけど、
>科学革命以前は、人類の文化のほとんどは進歩というものを信じていなかった。人々は、黄金時代は過去にあり、世界は仮に衰退していないまでも停滞していると考えていた。(下巻p.76)
ってところから、パラダイムシフトが起きて、まだ知らないでいたことを科学の力で発見することができれば、ヒトは新しい力を獲得することができて、未来は今より進歩するんぢゃないかって価値観っつーか神話がイケイケになって、ヒトはいっそういろんなことをやりだす。
そのうちに主にヨーロッパでは、新しい場所へ行って新しいもの見つけるぞって科学と、新たな土地とか資源とか富を獲得して広げようって帝国の、二つの主義がタッグ組んで世界中に競争するみたいに出かけてった。
その次の段階では、王様に支援を仰ぐよりも株式会社つくって資金調達したほうが便利だってことになって、資本主義がそれまでの富裕層限定のところを離れて大きく発展してく、市場が優勢になって、つられて国家の形態も変わってく。
んー、なんか科学革命から、市場とか国家とかがこうなったって歴史的必然みたいに説明されると納得しちゃうな。
で、なんかそういうデカい改革が起きると、やっぱヒト個人のところへ影響が返ってくるのは、ずーっと変わらないわけで。
>そのうち国家や市場は、強大化する自らの力を使って家族やコミュニティの絆を弱めた。国家は警察官を派遣して、家族による復讐を禁止し、それに代えて裁判所による判決を導入した。市場は行商人を送り込んで、地元の積年の伝統を一掃し、たえず変化し続ける商業の方式に置き換えた。(下巻p.193)
というわけで、近代以降の国家は、個人は自由だってうたい文句で、親の決めた相手と結婚しなくたっていい、家業を継がなくたっていい、そのことは国家が保証してやる、ってことになったんだけど、
>だが、個人の解放には犠牲が伴う。今では、強い絆で結ばれた家族やコミュニティの喪失を嘆き悲しみ、人間味に欠ける国家や市場が私たちの生活に及ぼす力を目の当たりにして、疎外感に苛まれ、脅威を覚える人も多い。(p.194)
という流れになって現代にいたると。
サブタイトルに人類の幸福って入っているように、はたして現在の人は昔より幸せになったんでしょうか、っていう問題意識が出てくるのがこの本のいいとこで、そうぢゃないと歴史を研究してる意義がない。
>(略)過去二世紀の物質面における劇的な状況改善は、家族やコミュニティの崩壊によって相殺されてしまった可能性が浮上する。(下巻p.222)
とかって世を嘆くようなことだけにとどまるんぢゃなくて、
>幸福が快感を覚えることに基づくのなら、より幸せになるためには、生化学システムを再構築する必要がある。幸福が人生には意義があると感じることに基づくのならば、より幸せになるためには、私たちはより効果的に自分自身を欺く必要がある。(下巻p.234)
なんて意外なところに踏み込んでって、さらには、そういう一喜一憂はすべて心の動きなのだから、心の本然を悟らなければ解脱できない、みたいな仏教の解説まで出てくる。
どうでもいいけど、そういう仏教の話になると私は中沢新一の著書を思い出すんだが、ほかにも、
>農業革命には宗教革命が伴っていたらしい。狩猟採集民は野生の動物を狩り、野生の植物を摘んだが、それらの動植物はホモ・サピエンスと対等の地位にあると見なすことができた。人間がヒツジを狩るからといって、ヒツジが人間に劣ることにはならなかった。(略)生き物は直接意思を通わせ、共有している生息環境を支配している規則について交渉した。(下巻p.12)
なんてところでも、おー、これは中沢新一の「対称性」じゃん、とか膝を打ってしまったりする。
それはともかくとして、
>私たちが真剣に受け止めなければいけないのは、歴史の次の段階には、テクノロジーや組織の変化だけではなく、人間の意識とアイデンティティの根本的な変化も含まれるという考えだ。(下巻p.261)
っていう歴史認識というか人間存在に関する認識を訴えてるとこが重要なんだと思う。
テレビ番組のインタビューのなかでも、このパンデミックのなかで、ある個人がいつどこで誰と接触したかって位置情報的な追跡だけぢゃなくて、やろうと思えば、そのときの体温や脈拍の変化からどのような感情をもったかみたいなことまで国家権力が情報収集できてしまう、みたいな危険性を示してたなあ、そういえば。
科学を信頼して正しい情報を得ること、人間同士が協力をすることは大事だけど、意識とアイデンティティだって大事よ、と。
でも、みんな電脳埋め込んでネットでつながりあっちゃう、攻殻機動隊みたいな世界に進んぢゃうのも、悪くないっつーか、もしかして避けられない必然なのかもなんて気もする。
(何を言っているのだ俺は、自分でもなんだかわかんなくなってきた。)
それにしても、本書は、あちこちで、歴史からみて出てきた真実をびしびし指摘してくれるとこが刺激的でおもしろい。
>歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。(上巻p.117)
なんてのが、気に入った一節だったりする。
第1部 認知革命
 第1章 唯一生き延びた人類種
 第2章 虚構が協力を可能にした
 第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
 第4章 史上最も危険な種
第2部 農業革命
 第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
 第6章 神話による社会の拡大
 第7章 書記体系の発明
 第8章 想像上のヒエラルキーと差別
第3部 人類の統一
 第9章 統一へ向かう世界
 第10章 最強の征服者、貨幣
 第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
 第12章 宗教という超人間的秩序
 第13章 歴史の必然と謎めいた選択
第4部 科学革命
 第14章 無知の発見と近代科学の成立
 第15章 科学と帝国の融合
 第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
 第17章 産業の推進力
 第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
 第19章 文明は人間を幸福にしたのか
 第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ

コメント
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