山上たつひこ 二〇一五年 フリースタイル版
このマンガ読んでみなくては、と思ってから、もう何年か経っちゃってんだけど。
古本屋に足運ぶ機会があるたびに探すんだが、なかなかそろいで見つけることができなくて。
店頭にあるだけのをバラバラと買って、ちゃんと全部そろうか確信もてないから、手をのばさなかったんだけど。
復刻版として新しい一冊になって出てると知ったのは、つい最近のことで、ぢゃあ買ってみるかとすぐ買った。(ほら、油断するとすぐ絶版なるから。)
読んでみたけど、聞きしに勝るすごさだ、とても『がきデカ』と同じ作者のものとは思えない。
少年マガジン掲載当時の1970年からみた近未来の日本ということになるんだろうが、なんでこんなことになっちゃってるのか。
第一章の「××××年○月○日 異形祭」は、いきなり奇形の人々が世間を呪って火のまわりを踊ってる祭のシーンで始まるんだが。
昭和○○年S県藻池村で奇病が発生、1万人以上が発病して712人の死者を出し、その後10年にわたって奇形児が生まれ、原因不明で未解決のまま。
政府事業として、そのひとたちを東北の沖合に「出島」をつくって、移住させたのが12年前ということで。
主人公の高校生たちは立ち入りを禁じられてるそのエリアに見に行って、捕まっちゃうんだが、捕まえにきたのが特務警察っていう連中。
なにそれ、特務警察って、って不思議がってるひまもなく、つぎには国防隊って大きい組織がある国になってることが明かされる。
街頭での募金活動とか演説とか集会活動とかは禁じられてて、逮捕されるどころか、その場で警察に射殺されちゃっても文句のいえない世の中。
主人公は藻池村事件の真相を究明しようと思うんだが、世界はそれどころぢゃなくて、インドシナ戦争ってのをやってて、アメリカはカンボジア領内に中性子爆弾を投下するという事態。
で、第二章の「暴走列島」では、日本の国防隊が国連軍としてカンボジアへ派兵されることになる。
ここんとこ、この50年前のマンガのなかの説明には、もう笑うしかない。
>いっぽう 外務省は“国連協力法案”なるものを作成 「国連が 世界の平和および安全の維持または回復のために 軍事力の行使を必要とみとめ そのための措置を決定した場合は 政府は 国防隊をふくめた人員 労力の提供 飛行場 港湾その他 基地の提供 物資 輸送手段の提供などをおこなうことができる」とした
>「国連軍への参加は 憲法に違反せず 国防隊法の一部改正で可能である」というのが外務省だけでなく内閣法制局や当時の防衛庁の一致した見解であった
>そして 国防隊法の一部改正部分についても 海外派兵を法的に根拠づけるため 任務規定の条文に「国際平和と安全のために」ということばを追加して それらの行為を正当化し美化しようとしたのであった (p.188)
ってことなんだが、なんかどっかで聞いたような気までしてくる、まあそういうことやりそうな国だと想像できたんでしょうな。
もちろん反対する人たちもいるんだけど、デモなんかしようとしたら有無を言わさず武力鎮圧ってことで惨劇が繰り広げられる。
主人公の兄は望んで国防大学へ進んだくらいだから派兵されるんだけど、その兄の出発時に「行くな」と言った主人公は非国民よばわりされて、周りから物を投げられる始末。
国防隊特務班っていう荒っぽいのに捕まってしまって、横から憲兵隊ってのが登場して、そっちへ身柄は移される。
国防隊で拷問されてるうちはまだカワイイ話で、「おまえの病名は 妄想型分裂症だ わかったか」って言われて精神病院に入れられて、ほかにも集められてきた経歴不詳扱いの人たちと、地下で何か秘密らしい工事をさせられちゃう。
そっから脱走して実家へ帰ることができたのはいいが、出征してた兄は変わり果てた姿で戻ってきてたとか、事態はどんどん悪くなってく一方で、救いがない。
藻池村事件と、安保同盟は残すけど自分たちの手を汚すのはいやで日本から軍を引き上げようとするアメリカの謀略に、なんか関係あるんぢゃないかとかわかりかけたようなとこで、とどめのように関東一帯を大地震が襲って、死者24万人、東京は焼け野原になる。
それで何もかも壊れて終わりってんぢゃなく、東京と神奈川に戒厳令が敷かれて、警察・国防隊・憲兵隊は不穏分子とみなした人たちをつぎつぎ逮捕してくって世の中になる。
いやー、なんかすごいわ。子どものとき読んでたらトラウマになってたかもしれない。
どうでもいいけど、主人公が最後、かかえてた包みを落とす場面が、なんか既視感あったんだけど、『コブラ』の六人の勇士編のゴクウってキャラをおそった悲劇のとこだな。