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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

キミは珍獣と暮らせるか?

2021-10-10 18:33:46 | 読んだ本

飴屋法水 2007年 文春文庫PLUS版
タイトルの「珍獣」には(ケダモノ)とルビが振られる、「キミはケダモノと暮らせるか?」。
1997年の筑摩書房の単行本は『キミは動物(ケダモノ)と暮らせるか?』だったのを改題。
これは斎藤美奈子さんの書評集で、
>(略)生きたモンスター、すなわち犬猫以外の珍獣の飼い方エッセイである。数ある動物本の中でも、これは出色におもしろい快著である。
と、めずらしくホメられていたので、気になって、先月くらいに古本を買い求めた。
著者は珍獣ショップを経営してたひとで、一番困ってしまう客からの質問は、「これ、なれますか?」だという。
そういうひとは犬とか猫を飼いなさい、そういう目的でつくられて、そういう設定で値段がついてるんだから、というのが結論に近い。
「飼いやすいですか?」も困るという、個体差が大きいんだから、「人間って気が荒いですか?」と訊かれても答えむずかしいのと同じだという。
めずらしい動物の飼い方のマニュアルを提示してんぢゃなくて、基本は野生だった動物と一緒に暮らすってのはどういうことか、そういうものの考え方が本書の言いたいことなんぢゃないかと思う。
まあ、もちろん、
>(略)動きのにぶいムササビなら、けっこう安心して部屋で共存できる。キレイ好きで臭くないし(モモンガは臭い)、体重が少ないため食べる量もフンもそれほど多くはない。なれてしまえば、フトンが大好きなので一緒に寝たりもする。(p.96)
みたいな具体的な飼ってみようか検討に役立ちそうな情報もあるけど。
ただし、これの続きには、
>(略)たとえ齧歯目とて人間に敵意まるだしでかみついてきたら、ムササビほどの大きさなら立派に猛獣となる。指の一本はかみ切られる可能性はあるのだ。そこんとこ、ヨロシクね。(p.97)
みたいな注意書きもあるので、やっぱ動物と一緒に暮らす危険性を忘れるなとは言ってくれてる。
ちなみに、「問題児」で「ペットショップでの返品の王者」は、アライグマだという。
顔がかわいいし、手が器用で何でも手をのばして遊びたがるんで、飼いたいという人が多いけど、部屋中で大暴れするわ、飼い主を咬んで大ケガさせるわで、たいへんらしい。
なお、アライグマにかぎらず総論のレクチャーのとこで、ショップへの返品ということについて著者は、
>飼えなくなったという理由で店にひきとってほしいという飼い主に、普段は言いづらくて言えないことを言ってしまおう。飼えないというなら、殺せ。自分の持ちもんにしたんだろう、なら自分の手で殺せ。自分じゃ見捨てといてカワイソウだなんて、そんなウソをつくなー!!(p.63)
と厳しく言っている。
ショップの店先では仮の姿として商品あつかいになってるが、つれて帰ったら「ただの動物」なんで、ちゃんと動物と向き合えと。
動物を飼うってことについて、
>(略)身もフタもないことを言ってしまうが、動物飼育ってのは、別にそんなに楽しくないのである。飼っていても、毎日は極めて単調な日々なのだ。(略)メシ食って寝るだけなのだ。(略)
>(略)飼ってたからといってメリットなんか一つもない。(略)ただただ生きてる、ということに愛情を持てるかどうか。その動物を飼ってて楽しいかどうかはそれで決まる。(p.61-62)
って考え方が基本だってのが、著者の言いたいことのひとつなんぢゃないかと思う。
飼ってる動物をかまったり、こっちの思うとき遊ぼうとしたりするのも、野生動物はそんなに甘くない、動物はイヤなら逃げるもんだという。
著者はムササビを飼っていて、とても慣れているが、ムササビは好きな時に寝て起きて、ムササビが遊びたくなると寄ってくるが、どっか行っちゃってるときは人間が追っかけることはしないという。
>無視してやるのも大事で、上手に無視のできる人の方が動物は安心する。僕はしつけもいっさいしない。向こうの自分勝手さを全部のんでやることにしている。(略)
>しつけをしたり、しかったりすることが必要なのは、そういう関係自体を向こうも必要としている社会性を持った動物の場合と、親がわりの役割をしている期間だけで、相手がすでにいっぱしの大人なら、もう、ほっとくしかない。(p.115-116)
というシツケ論、なかなか興味深い。
私がいちばん親しんだ動物は馬なんだけど(もちろん自分で飼ってたわけぢゃないが)、しつけは重要といわれた、それは社会性っていうよりも、仕事上のパートナーなんで、なんというか守られるべき規律であって、「人がボス」なんである。
リスの飼い方の項でも、飼う人はみんなリスを抱っこしたり頭なでたりしたがるようだけど、リスは体を人の手でつかまれるのは本質的にキライだと説く。
>なんで抱っこできないとなれてないと思うのだろう。たとえばもう五年以上も一緒に暮らして気心もしれ、気もつかわず、目の前でオナラできたりするようなパートナーを、そんなに抱きしめたり頭なでたりしないでしょうが。なれるってのはそういうことです。かけひきや、さぐりあいの緊張関係がなるなるということ。自分のすべてをさらけ出しても、一緒にいられて、けっこうたのしい……そういう相手がいるだけでもう充分でしょうが。(p.85)
というあたりが、「なれる」ってことの本当のところだってことを理解したうえで飼いなさい、って秀逸な意見だと思う。
そんなんぢゃヤだってひとは、犬を飼いなさい、ってか。
コンテンツは以下のとおり。
第一章 レクチャー 珍獣初心者のあなたへ
 レクチャー開始 珍獣とは何か
 レクチャー2 動物を買うとは?
 レクチャー3 動物の選び方
第二章 動物の飼い方
 齧歯目とウサギ目
  ネズミの巻
   砂漠型のネズミ
   砂漠型以外のネズミ
  テンジクネズミの巻
  リスの巻
  ウサギの巻
  齧歯目番外篇の巻
 サルの仲間[霊長目]
  サルはボンボン生まれない
  類人猿や真猿はむずかしい?
  原猿は夜行性、昼行性に分けられる
  野生動物のなれ方
 食肉目
  ネコ科の巻
  イタチ科の巻
  イヌ科の巻
  アライグマ科の巻
  ジャコウネコ科の巻
 有袋目 カンガルーたちの驚くべき事実
 食虫目・その他
  食虫目の巻
  翼手目の巻
  有鱗目の巻
  貧歯目の巻
  単孔目の巻
第三章 畜生とケダモノの日々
 店の名前は動物堂
 ドングリとチャコちゃん
 台湾からのFAX
 擬人化のすすめ
 エコロジーって何?
 僕らのダッチライフ

コメント
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