many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

怪奇まんが道

2018-07-15 17:49:51 | マンガ
原作・宮崎克/漫画・あだちつよし 2015年 集英社ホームコミックス
(原作者の名前はほんとは「宮﨑」です、環境依存文字なので。)
前に、諸星大二郎が描かれてることから、これの「奇想天外篇」ってのを読んだらおもしろかったんで、気になってたから読んでみた。
怪奇マンガ家四人の物語。目次んとこに、
>この作品は、事実に基づいて構成されたフィクションです。
>当時の関係者への取材に基づいて作成しておりますが、
>ドラマの構成の必要上、実在の人物・出来事とは異なる部分も含まれております。
>どうぞご了承ください。
ってあるんだけど、まあ基本的には実話というつもりで(演出は派手だけど)読んで十分おもしろい。
取材がいいとこ突いてて、こたえてるマンガ家側もマジメなんだよね、きっと。
あまり読んだことないマンガ家ばかりなんで、作品名とか出てきても、そうそうとかって膝打ったりはできないんだけど。
なかでいちばんおもしろかったのは、日野日出志かな。
ギャグ漫画志向で練習してきた自分の絵を、それぢゃ怖くないからって、何度も何度も壊しながら怪奇漫画用に作っていったとか。
三島由紀夫の自決にショックをうけて、その後マンガを描けなくなったとか。
手塚治虫が『ブラック・ジャック』の中で、『日野日出志のマンガかと思った』ってパロディで一言つかったのを、手塚がそんなことするのは珍しいので、「今でもコレは俺の勲章さ!」って言ってるとことか。
(ちなみに、これはブラック・ジャックの第8巻の第75話の「古和医院」のひとコマ、バセドー氏病で目がとび出てる女の子のこと。)
あとは、犬木加奈子って読んだことないから、読んでみなきゃと思ったくらい。
第1話 古賀新一の恐怖
第2話 日野日出志の本気
第3話 日野日出志の憧憬
第4話 伊藤潤二の微笑(アルカイックスマイル)
第5話 犬木加奈子の宿命
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総特集諸星大二郎 大増補新版

2018-07-14 17:11:51 | 諸星大二郎
文藝別冊 2011年初版発行・2018年5月大増補新版 河出書房新社
いや、出たのは知ってたんだ、この新版。
でも、前の2011年のやつ、持ってるしね。
こういうムックでも刷り直すことあるんだー、くらいにしか思ってなかったんだが。
新しいマンガはあるというし、星野之宣との対談もおもしろいらしいなんてウワサを聞いてしまっては。
買わずにはいられなくなってしまった、サブタイトル(?)変わってた、「怪を語り、快を生み出す」ね、ふむふむ。
わかりやすいことに、表紙とか目次とかに、前回の版に加えて新しくなったとこは、NEW!って表記してくれてる、それでいい。
新しいもの、思ったより多いなと驚いてたら、巻末の編集後記に、
>6年半ぶりの総特集ということで気合い満点で編集作業に臨んだところ、なんと新規100ページ、全336ページという大ボリュームの本が完成しました!(略)
>(略)文藝別冊史上で最も厚い本になりました。この本の厚さは私の諸星作品への愛情の証です。(略)
とあった、すばらしいよ、穴沢優子編集者。
もっとも、その新しいページのひとつである、諸星大二郎責任編集ページの冒頭において、肝心の諸星先生御本人から、
>このたびは文藝別冊『総特集 諸星大二郎』増補新版をお買い上げいただき、ありがとうございます。前とほとんど同じ内容なのに描き下ろしを加えただけでまた同じ本を売ろうというあくどい商法にもかかわらず、また買ってくださったお客様には、特に厚くお礼申し上げます。
なーんて言われてしまっていますが。
そのセンスに、私はついていきます。

コンテンツは以下のとおり。
・NEW!描き下ろしカラーマンガ「カタツムリの話」
・NEW!親友対談諸星大二郎×星野之宣 稗田教授と宗像教授、北海道で再会
・NEW!お蔵出し企画諸星大二郎責任編集ページ 10代の頃に描いた落書き
・特別寄稿 NEW!上條淳士、NEW!ヒグチユウコ、萩尾望都、山岸涼子、吾妻ひでお、星野之宣、江口寿史、高橋留美子、伊藤潤二、藤田和日郎、高橋葉介
・リスペクトインタビュー細野晴臣
・NEW!単行本未収録マンガ「怒々山博士 未踏の大砂漠を行く」「怒々山博士と珍面犬」「怒々山博士と宇宙からの訪問者」
・NEW!最新カラーイラスト2013-2017
・幻の初期作品 マンガ「恐るべき丘」
・諸星大二郎2万字ロングインタビュー 「現代の神話」を語り続けて
・アイデアノート大公開!「Gの日記」「海神記」NEW!「鳥居の先」
・諸星大二郎の仕事場 諸星作品の生まれる場所
・諸星マンガの貴重なシナリオ初公開!「ロトパゴイの難船」「栞と紙魚子 本の魚」「西遊妖猿伝 伊吾城の章」
・キャラクター事典72
・公開対談諸星大二郎×呉智英
・「人類学」で読み解く諸星大二郎
・「民俗学」で読み解く諸星大二郎
・「中国文学」で読み解く諸星大二郎
・作品解説55+全351作品リスト
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蛇儀礼

2018-07-08 18:21:27 | 読んだ本
ヴァールブルク著/三島憲一訳 2008年 岩波文庫
中沢新一の『虎山に入る』を読んでたら、『「Be Careful」なふたり』って章で、チベットから帰ってきて山口昌男さんとつきあいはじめたころのことを語ってるんだが、
>チベットへ出かけたとき、宗教学科では最初、あいつは気が狂ったなんて言われていたようです。気が狂っている人と言えば、アビ・ヴァールブルクの『蛇儀礼』(岩波文庫)を読んでみますと、この人も僕と似たことを考えていたんだなあと、とても胸を打たれます。
なんていう一文があって、なんだかとても気になったので、本書を読んでみることにした。
ヴァールブルクは、1866年生まれのドイツの芸術史家だか文化史家だかということだが、ユダヤ系で実家は銀行業を営んでいたそうで。
なかみは、1923年に行われた「北米プエブロ=インディアン地域で見たさまざまなイメージ」という講演をそのまま収録したもので、そのとき使ったスライドの写真もいっぱい。
ぜんぶ読んだあと解説まで行ってわかったんだが、その講演が行われたのがベルヴュー病院という病院なんだけど、ヴァールブルクはそこの入院患者だった。
1918年ころから精神を病んで、スイスのクロイツリンゲンにあるその病院に入ることになったんだという、それで「気が狂った」の意味がやっとわかった。
でも、この私立病院は、解説によれば高級ホテルまがいで、ずいぶん立派なひとたちがたくさん世話になっていたようなので、暴れるような危ないひとたちの入れられるとことは違ったみたい。
そこで、だいぶ回復してきたとこで、自分から講演をやってみたいと言いだして許可されたもので、まあ治療の一環なんでしょう、これ。
で、講演の内容は、1895年から96年にかけてアメリカを旅行したときに見た、ニューメキシコだかアリゾナだかの地元インディアンの儀礼、舞踏について。
動物を通じて自然と一体化しようという魔術的な儀礼なんだけど、そのなかで蛇のもつ役割というかイメージが最重要で、もう崇拝といってもいいような扱い。
>蛇は、いったいこの世界においてなぜ根源的な破壊と死が、そして苦しみが起きるのか、という問いに対するまさにさまざまな地域にまたがる返答のシンボルなのです。(p.89)
なんて言ってますが、アメリカ先住民だけでなく、古代ギリシアなんかでも重要な位置を占めてたってとこに結びつけて展開してる。
結論としては、
>神話的思考と象徴的思考は、人間と環境の結びつきの精神化をはかる戦いの中で空間を宗教的儀礼の空間として、やがては思考の空間へと変えてきたのです。しかし、こうした崇敬の空間、そして思考の空間は、電気による一瞬の結びつきによって破壊されるのです。(p.95)
ということで、「電気」ってのは機械文明のたとえなんだけど、現代文明による合理的っつーか科学的な考え方が、人間の伝統の知恵をぶっこわしちゃうことを嘆いてるんである。
気が狂ってなんかいないよ、対称性の思考だ、俺そういうの大好き。(←俺も気が狂ってたりして。)
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スラン ~世界SF全集17

2018-07-07 17:54:13 | 読んだ本
A・E・ヴァン・ヴォクト/浅倉久志訳 1968年 早川書房・世界SF全集17ヴォクト
A・E・ヴァン・ヴォークトを読んでみようと思ったのは、『おんなのこ物語』を読んでたときだ。
その前に読んだ『緑茶夢』に出てくるバンドの名前がスランっていうんだけど。
まあ、マンガに出てくるバンドの名前がなんであっても気になんかしなかったんだが。
『おんなのこ物語』でステッカーってバンドがこわれかけてきて、ベーシストの水野が新しい自分のバンドをつくるんだけど。
あるとき、水野がドラマーの八角に「これ読んでみろ おれのバンドの名だ」って差し出す本のタイトルが、『スラン』。
えー、本の名前だったんだ、そうなると気になってしまって、読んでみたくなるのが私の性分で。
調べてみたら、どうも普通に書店では手に入りにくそうな状況らしい、『宇宙船ビーグル号の冒険』とは違って。
まあ、のんびりと古本屋で探しゃいいやと思ってたが、“ビーグル号”読んでみたらわりとおもしろかったんで、早く見つけたくなってきた。
で、5月の古本まつりで、けっこうSFとかミステリの文庫たくさん並べてる店があって、ヴァン・ヴォークトの他の文庫はあるんだけど、肝心のスランはない。
また次の機会だなと、あきらめかけて、ひょいと上の棚をみたら、文字の見えにくい背表紙で、全集もののうちの一冊だけあるのが目に入った。
ヴォクトって書いてあるけど、もしや、これって、と開けてみたら、スランの文字が。
一緒に収録されてるのはビーグル号で、そっちは要らんのだが、何はともあれ買いだ、買い。
いやー、運がよかった、スランって書名だけ探してたら、見つけることはできなかった。
で、原題「SLAN」は、1940年の作品だそうで、著者の最初の長編らしい。
スランってのは、新しい種類の人類を指すことばで、作中において、その名称はスランを創り出した生物学者サミュエル・ランを略したS・ランから出てるって紹介されてる。
スランの特徴は、なんたって、ふつうの人類からみたら、超能力の持ち主だってこと。
どうやら、脳がふたつあるらしく、他人の心が読める、頭には外見ですぐわかる金色の触毛がある。
心臓も二個あるらしいし、筋力もすごく強いし、150歳くらいまでの寿命があるらしい。
というわけで、人類からは嫌われている。警察権力は、スラン見かけるとすぐ撃ち殺そうとするし、一般市民にはスランつかまえれば賞金もらえるってウワサが出回っている。
そうやって迫害されてるなかで、主人公の少年スランが大人になって、殺されてしまった父が遺してくれた武器を手に入れて戦うんだが、単純に人類と戦争するって話ではない。
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おはなしの知恵

2018-07-01 17:55:40 | 読んだ本
河合隼雄 2003年 朝日文庫版
『昔話の深層』がたいそうおもしろかったので、なんか似たようなので、やさしいものがないかと、あてもなく探してたら、運よく中古でこの文庫を見つけることができた。
でも、グリム童話をひととおり読んでからにするか、なんてノンキにかまえてたら、1月に買ったのに半年も開かずにいることになってしまった。
タイトルのとおり、冒頭で
>人間が古来からもっている「おはなし」がいかに深い「知恵」を蔵しているかを本書のなかでお示ししたいと思う。(p.9)
と宣言しているんだが、科学の発達するにつれて客観的な法則とかばっかりを重要視して、自分の主観的な判断とかをどっか失うようなとこがあるから、人間おかしくなってきちゃってんぢゃないの、みたいな問題意識がある、「おはなし」をバカにしちゃいけないよと。
>「おはなし」に正誤はない。要はどれが好きかの問題である。(略)しかし、好きなものは他人に押しつけられない。他人は他人で好きなものがあることを否定できない。(p.22-23)
みたいな人間論はいいですね。
科学の知識をもってなくて、おまじないとかを駆使するからって、劣ってるとか遅れてるとかって否定してはいけない。
「おはなし」そのものについて、一見プロットや展開が荒唐無稽そうでも、
>しかし、子どもが無条件に喜ぶ話というのは、相当に深い知恵を蔵していると言えそうだ。(略)その点、昔話は長い時間のふるいによって残ってきているだけあって、子どもの判断に合格するわけである。(p.87)
とか、
>「おはなし」というのは、世界観の表現である。世界観を抽象的な言葉や論理に頼るのではなく、具体的に感性に訴えて、どこかで「うん」と納得させるためには、おはなしを語るより方法がないのだ。(p.208)
とかって、深いもの持ってることを説明してくれてる。
日本人とか日本社会のちょっとした特徴について、
>(略)日本人のよさは、倫理性が高いというような西洋的表現を用いるより、だいたいうまく平和にいっている、というようにあいまいに言うのが適切ではないか。善とか悪とかをやかましく言うこともない。(p.126)
とか、
>(略)日本では、ヤマトタケルや義経など「英雄」視される人物は、多分にトリックスター性をもっていて、西洋におけるような、れっきとした英雄があまりいない。これはどうしてだろう。
>これは、おそらく一神教の文化とその他の文化の差によるのではないか、と思われる。一神教の文化では何が善であるかを一義的に決定しやすい。(p.154)
とかって、あまり善悪をビシビシ決めない伝統に触れている。
なのに、政治とか経済とかって西洋からの影響大きい分野にいっちゃうと、悪がクローズアップされちゃうから、悪いと思ってなかったのに悪いと言われてあたふたしてしまうのか。
専門の心理学らしいことも、もちろん書いてあって、
>「影の反逆」ということがある。生きて来なかった半面が急に前面に押し出てくる。(p.172)
とか、
>象徴的な「母親殺し」、「父親殺し」の機会を奪われると、人間はそれを実際化するより仕方なくなるのではなかろうか。あるいは、「物語」を奪われると、人間は「事件」を起こしてしまうのではなかろうか。(p.225)
とかって、こわれちゃう人間には、おはなしを聞くことでできる暴発的なものへの免疫みたいなのが欠けてるんぢゃないかということらしい。
章立ては以下のとおり。
・はなしのはじまり
・桃太郎
・白雪姫
・絵姿女房
・花咲爺
・七夕のおはなし
・まっぷたつの男の子
・創世物語と両性具有
・かちかち山
・恐いものなしのジョヴァンニン
・べに皿かけ皿
・クレヴィンの竪琴
・悩む父親
・対談「影―ひとの心・魂・祖国の在り処」岸恵子×河合隼雄
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