こんにちは!
稼プロ!24期生の松田です。
本稿では、海外駐在員の心構えとして知られる「5つのあ」についてインドの事例を交えながら解説し、持続可能な成長のための道筋を探ってみたいと思います。
先日、中小企業会館でインド駐在経験者とのパネルディスカッションに参加する機会をいただきました。まずは、この場をお借りして、企画運営に携わってくださった皆様に心より感謝申し上げます。
あせらず
インドは巨大な成長市場であり、ビジネスチャンスの宝庫ですが、短期間で成功を収めるのは難しいのが現実です。日本企業は、「日本の有名ブランドだから売れるはず」との期待を抱きがちですが、これはよくある誤解です。インド市場は多様な顧客ニーズにあふれており、さらに独特な商習慣や複雑な流通構造、法規制にも対応する必要があるため、簡単にはいきません。インドビジネスでは、長期的な視点を持ち、焦らずに取り組む姿勢が重要です。
短期的な利益を求めて焦ると、予期せぬ問題が次から次へと発生します。例えば、市場ニーズや顧客の購買意思決定プロセスの理解不足や、現地のパートナーとの連携が円滑に進まないことなどから計画通りにいかず、目標利益の達成までには通常相当な時間を要するものと考えた方がいいでしょう。「千里の道も一歩から」というように、小さな成果を積み上げながら、徐々に市場に適応していくことが重要です。例えば、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その結果を基に顧客のニーズを深く理解しつつ、事業を段階的に焦らず展開していくことが効果的でしょう。
あわてず
インドでは、日本と異なる時間感覚やビジネスの進め方に面食らうことが多々あります。プロジェクトが進むうちに、当初の計画とは異なり、予想外の展開になることもしばしば。日本の企業は、計画を立てたらその通りに進行することを重視しますが、インドでは状況に応じて計画を柔軟に変える文化があります。交渉の現場では、急な条件変更や「ちゃぶ台返し」も珍しくありません。このような場面に直面しても、慌てずに対応することが重要です。
日本人が現場で慌てることのないように、事前に様々なシナリオを想定し、シミュレーションを行い、交渉で適切なカードをきれるよう用意しておくことが有効です。それでも、インドでは想定外の出来事もしばしば起こるため、冷静かつ柔軟に対応できる姿勢が重要です。慌てて対処しようとすると、交渉がこじれたり、相手の信頼を失う可能性があります。相手の変化に対して慌てずに「そうきたか!」と冷静に前向きに受け入れる柔軟性が、成功に繋がります。
あきらめず
インド市場では、困難に直面することは避けられません。初期段階はその連続といっても過言ではないでしょう。しかし、これを諦めずに乗り越えることで、ビジネスチャンスを得ることができます。インドビジネスにおいて重要なのは、失敗から学び、それを次の成功に活かす姿勢です。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という有名な言葉の通り、成功には理由があり、失敗にも原因があります。
インドのビジネス環境は急速に変化しており、状況は常に複雑化しています。そのため、粘り強く取り組む姿勢が必要です。短期間で結果が出ないからといって諦めてしまうと、そこで成長の機会を逃すことになります。スズキがインド市場で成功した背景には、決して諦めずに市場に適応し、QCDS(品質、コスト、納期、サービス/安全性)などで信頼関係を構築し続けたことが挙げられます。結果がすぐに出なくても、長期的な視点を持ち、諦めずに成果につながる要因を地道に積み上げることが、インド市場での成功の鍵となります。
あてにせず
インド市場の成長性やポテンシャルを過信するのは大きなリスクが伴います。インド市場に対して過度の期待を抱くと、思い通りに進まない時に冷静さを失い、適切な判断ができなくなるからです。例えば、インドの豊富な労働力を期待しても、思ったように人材を維持できないことが多々あります。インドでは転職が非常に多く、優秀な人材を確保しても、すぐに離職するケースが後を絶ちません。せっかく日本本社に派遣し、技能研修を施した人材が、突然退職する事例も少なくありません。
こうした現実を踏まえ、外部に依存するのではなく、自社でコントロールできる部分に注力することが重要です。実際、ある企業はインドの人海戦術に頼らず、少数精鋭の体制を整備し、デジタルマーケティングを効果的に実施しました。その結果、顧客リーチをインド全土に拡大し、ビジネスの成果を高めました。内部体制の強みは人財も引き付けるようになりました。外部に依存せず、まず内部に強固な体制を構築することが、成功への近道です。
あなどらず
インド市場は、魅力的な成長市場であり、同時に競争が激しい市場でもあります。競合他社を軽視することは大きなリスクになります。一度の成功に甘んじることはリスクを伴います。特にインドの若年層はデジタルネイティブであり、商品特性によってはブランドスイッチの速さが顕著です。一度の成功に満足せず、常に市場の変化に敏感に対応し、差別化を図り続けることが求められます。
また、インド人スタッフの問題解決能力を過小評価してはいけません。たとえインドの多様なニーズを持つ顧客にリーチすることに成功しても、複雑な流通構造により、納期やアフターサービスの質に対する不満を抱く顧客も少なくありません。バリューチェーンにおける一連の不満を解消し続ける努力が、インド市場での長期的な成功に繋がります。こうした顧客の不満をくみ取り、問題に柔軟に対応できるのが、現地のインド人スタッフです。彼らの創意工夫を引き出すために、適切に権限を委譲し、モチベーションを引き出しながら、顧客との信頼関係を築くことが重要です。
持続可能な成長のために
インド市場への参入は困難ですが、巨大なビジネスチャンスをもたらしてくれます。2050年にはインドのGDPは日本の6〜7倍に達し、世界経済の中心的存在になるという予測もあります。この市場で成功を収めることは、企業の持続可能な成長に直結します。日本企業にとって、インド市場は単なる市場を超え、グローバルな成長戦略の一環として重要な意味を持っています。
インド市場への参入は、多くのリスクが伴いますが、適確な成長戦略と長期的な視点を持って取り組めば、そのリターンは非常に大きいものとなります。インドとのパートナーシップを築き、共創関係によるリターンを拡大したいのであれば、眠れる巨象が覚醒し、踊り始めた「今」がその好機です。将来の経済大国と対等なパートナーシップの基盤を足元で時間をかけて築いてこそ、日本企業はさらなる持続可能な成長を遂げることができるでしょう。