At Madison Square Garden / Johnny Cash (1969)
ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)の60年代後半のライヴと言えば超のつく名盤「At Folsom Prison」や「At San Quentin」があり、彼のパフォーマンスやアティチュードが最も鋭敏だった時期なのは誰しもが認めるところ。このアルバムは1969年12月のマジソン・スクエア・ガーデンでの録音だが、2002年まで発表されなかった貴重なライヴ録音だ。大会場でのライヴとあり、前述の2作とは雰囲気もショウの構成も違うが、テネシー・スリー(Tennessee Three)と呼ばれたギターのカール・パーキンス(Carl Perkins)を含むバック・バンドは同じ。惜しむらくは奥方のジューン・カーター(June Carter)が妊娠中で帰郷しており不在だったとかで、定番のデュエットが聴けないところが残念。
カール・パーキンスのソロ演奏を含むライヴ演奏は大箱向けのショウ的要素が強いため、ジャケット写真から想像するステージ衣裳を含め、当時の一般的なコンサートの枠を出るものではないし、尖った彼を評価する向きにはやや物足りない感じもするかもしれないが、カントリー、フォーク、ロカビリー、ゴスペルと様々な音楽ジャンルの曲を余裕たっぷりに、時にシニカルに演奏するキャッシュは相変わらず男前。もちろん録音を残していたという事はキャリアの中でもハイライト的な扱いではあったんだろう。当時カントリーのミュージシャンでマジソン・スクエア・ガーデンのような大会場で集客出来るような大物はそんなに居なかったのでは。でも日本では想像つきにくいが、アメリカでのカントリー・ミュージックの支持の受け方(特に大都市郊外で)は絶大で、小さなクラブとかで演っているんだろうと思っていた自分は現地に滞在してビックリした事があるので分からない。
ベトナム戦争真っ只中での彼のアウトロー的な歌詞や態度はアメリカ国民にどう受け止められていたんだろう。もちろん彼は多くの(保守的な)カントリー・ミュージシャンと同様に国を愛していたはずだし、アメリカ人に「アメリカ」という国を最も意識させたミュージシャンのひとりだから、いわゆるこちらで想像するようなステレオタイプな反体制ではないと思うのだが、そのあたりの立ち位置を日本人である自分が理解するのは本当に難しい。そのあたりがジョニー・キャッシュの評価が不当に低い(というか評価さえされていないか…)原因でもあると思う。
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