神保町の路地を入ったところにある老舗鮨屋「神田鶴八」。先代の書いた本を随分前に読んだことがあって、こんな店に入ってみたいなぁと思っていた。たまたま近くに泊まることになったので、思い切って予約を入れて訪問。すっきりとした外観で、もちろん中は窺い知ることが出来ないのでちょっと緊張。入ってみるとカウンターが7席、小上がりに一卓とこじんまりした店内。漬け場も思いのほか小さく、飴色に変色したカウンターや年月を経た様々な小物が歴史を感じさせる。
お酒とつまみを貰い一息。つまみでだらだらするお店ではないと分かっていたので、早々にお茶をもらい握りを注文していく。通常は2個づづ握られるが、色々食べたいので1個づつにしてもらい、主人の後ろに見える木札から食べたいものを思うがままに注文する。最近とみに言われるような注文の順番なんて気にしなかった。また順番をどうこう言う主人でないことはすぐに分かったので、甘いツメを塗ったタネの後にも食べたければ気にせず何でも注文した。この日かかっていた木札は確か15種類ほど。どのタネも季節のものだけ。例えば小肌などは新子が出始めの時期だが、ここの主人はせめて2枚漬け位の大きさにならないと握らないとの事。希少価値はあっても旨味に乏しいからだそうだ。車海老も7月にならないといいのが出てこないと今日の木札にはない。そういったタネに対する頑ななまでのこだわりがこの主人の矜持。この店ならではの塩蒸し(鮑)やまるで太巻きのような鉄火巻きも堪能。
こうして食べてみると、この食べ方(木札に載った好きなものを好きな順番で、好きなだけ)はとても按配がいい。どのタネもしっかり仕事がしてあり、それが過剰でも不足でもなく、「鮨を喰った」とう満足感に変えてくれる。主人は余分な話は特にしないが、訊けばちゃんと応えてくれる。常連客にはあれこれとしゃべっているが、自分のような一見にも時々声を掛けてくれ、知らないうちに自分も常連の方とも喋っているという心地いい空間になった。お酒を飲んで、好きに食べての勘定がビックリするほど値打ち。地元の常連との付き合いがしっかりと土台にあるんだろうな、と想像出来る。思い切って来てみて良かった。(勘定はお酒を入れて¥12,000程度)
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※平成29年12月を以って閉店し、移転するとのこと。店の後には「新橋鶴八」の主人が入るそうです。
東京都千代田区神田神保町2-4
(神田鶴八 鮨処 鶴八)