迅速診断の依頼が入っている手術が、思っていたより時間がかかっていることを仲間の病理医と話していた。私が、「考えてみるとすごいな、外科医は。開始からもう4時間もやっているよ。若い時からやってて、そういうのが当たり前になっていたらいいけど、今からじゃあとてもできないな。」と言ったら他の病理医が「そうですよねぇ、患者さん死んじゃうこともあるし。病理医は切り出ししてても、患者さんは死にませんからね」と言った。「それはちょっと言い方がおかしいのではないか」と思ったが黙っていた。
切り出しの時に不注意があったら、誤診につながりひいては、その患者さんが死ぬことだってある。時間的感覚が異なる作業なのでうっかりこんな風に思ったりするけれど、気をつけなくてはいけない。医師というライセンスのもとでおこなうことが定められている業務は当然のことながら、本来どれも厳しいものだ。
医者にもいろんな種類がある。手術にあたって、ある点で外科医と同等の立場にあるのは麻酔科医である。患者さんをいったん死なせるという点では外科医より厳しい仕事だ。そもそも外科医のところに来る前に、まずは内科医にかかる。その時点では、患者さんはまあまあピンピンしている。だが、その見立てが悪ければ、患者さんは死にかねない。病理医が迅速診断で失敗して、癌細胞が体の中に残っていることが指摘できなかったら、患者さんの癌は再発する。術後の管理はICUだし、術後のフォローアップにはまた内科医が登場する。
この先、どこで、リハビリテーション医、整形外科医、眼科医、皮膚科医、精神科医が出てくるかだって、わからない。
それぞれの医者は、それぞれの目標とか、信念をもって専門を決めていく。専門家を自認する頃には、その仕事が当たり前のものとなっている。
病理医自身が病理の仕事を他科のそれよりも下におくということは、卑下していることになる。ある意味逃げていることにもなる訳で、人に誇れない仕事に自分が就いているということを言っていることになりかねない。自分だけならいいが、ほかにも同じ仕事をしている人がいるのだから、その人達に迷惑がかかる。そのような言い方は、厳に慎まなくてはいけない。
当たり前ではあるが、不肖コロ健、仕事中は常に全力である。