岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

【満腹主義】独特の教育法 石井十次28

2005-03-18 19:31:23 | 石井十次
孤児院を経営することも大変な困難を伴うことであるが、
それにも増して孤児を教育(養育)することの困難さは
計り知れない。
この時代に、孤児をどのように育てればよいか。
だれも教えてくれたわけではないだろう。
児童、それも困難を抱えた孤児を育てることを試行錯誤する
ことになる。

十次は、留岡幸助にも繋がる感化教育にもかかわっているが、
これは無理と1年あまりで中止している。
感化教育は今でも課題である。
問題になっている「懲役」と「更正教育」をみると今だ
解決していないことなのである。

懲罰(例えば禁固3年という刑罰)はできる。
しかし、一人で更正できない場合に更正を支援する教育が
なければ、再び、同じ過ちを犯してしまう可能性が高い。
この更正させることの困難さに、立ち向かった先人が、
石井十次と留岡幸助であった。

十次は、孤児を教育する中で、相当悩んでいる。
孤児は今でいうストリートチルドレンに近い。当然環境は
劣悪である。彼らは生きていくことが最優先だから、
生きていくための手段を選んでいる余裕はない。
精神的にも肉体的にも飢えている状態である。
態度は反抗的にならざるをない。

そのような児童に、父性ではどうしても厳罰主義になる。
妻品子は、母性で子どもたちをかばった。(2月20日掲載)

厳罰が、効果がないことを十次は悟る。
厳罰からは「満腹主義」は生まれない。

では「満腹主義」とはなにか。
読んで字の通りである。

悪童に見える児童も、その原因は環境にある。
その環境の中心は「常在空腹」である。
ならば、空腹から解放してやればよいという結論に達した。

まず、食べたいだけ食べてもらう。
児童は、食べることができる時に腹いっぱい食べる習性が
身についているから、とにかく、満腹以上に食べる。
ところが3週間経つと、普通の食べ方に戻るという。

これは、いつも食べることができるのなら、普通の食べ方で
よいことが、心身ともに理解できたことによるのだろう。
頬に肉が付き、えくぼも見えるようになると、悪さも
しなくなると十次は言い切る。

やはり「えくぼ」は大切なんだ!

食事量は、普通で一人1日5合というから、普通の食べ方でも
すごい。この児童が常時数百人というから、本当に経営が
大変だったと思う。
児童と一緒に満腹になるまで食べた十次は、身体を壊した
という話もあるくらいだから、大人には勧められない方法
だろう。
もちろん、満腹主義を貫くには、財政的裏付けがいるので、
主義通りにできたかどうか。できない日も多かったと私は
推測している。
願望的満腹主義だったのではないだろうか。

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